ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。本稿では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。
今回のテーマは、「FUSION BANK(フュージョンバンク)が計画する分散型銀行」。
分散型ってどういう意味?
「分散型」という言葉は、仮想通貨について調べているとよく出てくる言葉だと思います。一言でいえば、「中央管理者がいない仕組み」ということです。分散型は、仮想通貨における重要なキーワードのひとつです。
例えば、仮想通貨の代表格であるビットコインは分散型の仮想通貨と呼ばれています。ビットコインは特定の発行者や管理者はおらず、みんなで管理している通貨です。誰でも参加できるマイニングという承認作業によって、取引のチェックがされています。
ビットコインは、ブロックチェーンという技術の最初のアプリケーションであり、「分散型通貨」の成功事例でもあります。この「分散型」を、通貨だけでなく、より広義に捉え、銀行業などの幅広いシーンで活用していくのが仮想通貨における「分散型銀行」です。
最近生まれた言葉に、「DeFi」という言葉があります。DeFiとは、Decentralized Financeの略で、日本語にすると「分散型金融」という意味になります。分散型金融とは、ブロックチェーンを、証券や保険、デリバティブ(金融派生商品)、レンディング(融資・投資)などのさまざまな金融分野に応用させ、中央管理者を排除した透明性の高い金融プラットフォームのことです。
「買い手と売り手」「貸し手と借り手」「出資者とプロジェクト」などのように、取引にはお金を出す人とお金を受け取る人がいます。その仲介者が、銀行や証券会社、保険会社、投資会社などの企業です。従来の金融では、仲介というマッチング機能を提供することで、お金を出す側と受け取る側、2者間の取引の信頼を担保し、スムーズに進めることで手数料をもらって収益を上げていました。
中央管理者を排除した分散型金融では、2者間の取引に介入して信用を担保するのではなく、ブロックチェーン・スマートコントラクトといったプログラムで契約を実行することになります。手数料も安く、よりスピーディで透明性の高い取引が可能になるでしょう。
分散型銀行では、レンディング(融資・投資)や個人ローンなどの銀行業務がブロックチェーン・スマートコントラクトで実行できるようになります。
仮想通貨銀行でできること
第26回・第33回の記事でご紹介したフュージョンバンク(フュージョンバンキング)ですが、すでに銀行システムの開発を終え、現在は銀行ライセンスの発行を待っている状況です。銀行ライセンスの取得申請は、イギリスやスイス、スウェーデン、エストニアなどで進行しています。
ロードマップとして以下の計画などが公開されています。
・法定通貨と仮想通貨の交換(換金)
・主要な仮想通貨と仮想通貨の交換
・仮想通貨とゴールドなど(現物資産)との交換
・仮想通貨を担保として法定通貨を融資するサービス
・仮想通貨自体を融資するサービス
・企業向け融資サービス
・銀行カード(デビットカード)の発行
・分散型投資プラットフォーム
・分散型仮想通貨取引所
・分散型銀行
フュージョンバンクのサービス内容は、以下のとおりです。
FUSION BANKサービスの枠組
・換金が最大25法定通貨まで可能になる銀行口座
(開設当初はユーロ、ポンド、USドルでの対応)
・イギリスの管轄、FCAの規制をベースに開設された銀行口座(個人/法人)
・SWIFT、SEPA、ACH、BACSおよびCHAPSを介した国内および国際金融取引
・FX外貨交換
・マスターカード、VISAカードの発行
・銀行プラットフォーム内での仮想通貨の交換
・コールドウォレットによる管理
・仮想通貨を担保とするローンサービス
・OTC取引デスクサービス
(最低金額は1millionUSドル)
・仮想通貨の取引プラットフォーム
(147種類の仮想通貨の取引が可能となる)
この銀行システムは、世界中の仮想通貨取引所や仮想通貨を発行する企業に導入コストゼロで無料配布される予定です。仮想通貨関連企業だけでなく、既存の銀行としてもこの銀行システムを導入したいかもしれませんね。
開発をすべて自己資金で行う誠実さ
これらのシステム開発には、当然ですがかなりの費用がかかっているはずです。しかし、フュージョンバンクは一切資金調達を行っていません。フュージョンバンク内の重要なツールとなるフュージョンコイン(XFC)の開発についても、バンクとコインの運営会社であるフュージョンパートナーズはICOのような資金調達は行わず、すべて自己資金で開発をしていました。
これは、「プロジェクトを進めるには、誰かがリスクを取らないといけない。リスクを取るとは、お金を自分で出すことです」というフュージョンパートナーズの考え方が元になっています。ICOブームのときにも自己資金で開発を行っていたのですから、誠実さが表れていると思います。
根底にあるのは思想とビジョン
その根底にあるのは、ビットコインなどの仮想通貨の源泉である「自由思想」と、「信頼度の高い金融サービスを提供し、世界中の誰もがアクセスできるように人々をつなぐ」というフュージョンパートナーズのビジョンです。
「仮想通貨のステータスを上げたい。そのために、仮想通貨と法定通貨を扱う銀行というプラットフォームをつくりたい。そしてこれを、金融や銀行の次の時代のスタンダードにしたい」とフュージョンパートナーズの役員陣は語っています。
まだまだ日本では「怪しい」イメージの強い仮想通貨ですが、フュージョンバンクや分散型銀行の実現が、そのイメージを変えていくでしょう。
次回は、「仮想通貨ブームで生まれた億り人たちの末路」についてご紹介します。
執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。
オフィシャルブログも運営中。