ブームは去ったかのようにも感じる「仮想通貨」ですが、その普及は世界中で着実に進んでおり、今後もさまざまなシーンでの活用が期待されています。本稿では、「仮想通貨に興味はあるけれど、なにからどう手を付ければいいかわからない」というような方向けに、仮想通貨に関連するさまざまな話題をご紹介。仮想通貨を2014年より保有してきた筆者の経験から、なかなか人には聞きにくい仮想通貨の基礎知識や歴史、未来像などもわかりやすくお伝えします。
フェイスブックの独自仮想通貨「Libra(リブラ)」とは?
2019年5月、Facebook(フェイスブック)はスイスのジュネーブに、新会社「リブラ・ネットワークス(Libra Networks)」を設立しました。以前から「フェイスブックが独自の仮想通貨を発行するのではないか」という噂はありましたが、この新会社設立の情報がきっかけとなり、その噂は具体的なものになりました。
6月になるとホワイトペーパーが発表され、フェイスブックの仮想通貨リブラプロジェクトを運営する団体「リブラ・アソシエーション」には、Visa、MasterCard、PayPal、ebay、Uber、Spotify、Coinbase、a16z、Booking Holdingsなど、計28の企業・機関が参画を表明しました。参画している各社は、最低限の参加費用として1,000万ドルを出資しています。
フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、自身のブログに「リブラの運用開始までに出資企業を100社集めたい」と記しており、この100社には、グーグルやツイッターなどのライバル企業が入っても良いと考えているようです。
リブラは、「フェイスブックの独自仮想通貨である」と書きましたが、「独自」という表現には少し語弊があるかもしれません。リブラ・アソシエーションには、地域も業種も異なる28社が参画しており、フェイスブックはそのうちの1社に過ぎません。
リブラプロジェクトを率いるデビッド・マーカス氏は、「フェイスブックがリブラネットワークに対して持つ力は、その他加盟企業と同等となる」と語っています。加盟企業を100社まで増やす意向を示していますから、リブラはフェイスブックの独自仮想通貨(中央集権型)ではなく、やや分散型(やや非中央集権型)の仮想通貨なのかもしれませんね。
リブラ・アソシエーションは、円を管理する日本銀行や、ドルを管理する米連邦準備理事会(FRB)のような管理機能を持つでしょう。仮想通貨の代表格であるビットコインは、そのような中央集権的な管理へのアンチテーゼとして生まれましたから、「管理者のいる仮想通貨は仮想通貨ではない」「仮想通貨は、分散型(非中央集権型)であるべきだ」という議論もされますが、仮想通貨が徐々に普及しつつある現在では、もうそのような議論はナンセンスのように感じます。
なぜフェイスブックが仮想通貨を発行するの?
前述のデビッド・マーカス氏の考えによると、「リブラは、40ドルのスマートフォンとインターネット接続を持ってさえいれば、だれでも幅広い種類の金融サービスへアクセスできるようにする」とのことです。町のあちらこちらに銀行や金融機関がある日本にいると感じにくいのですが、世界中には銀行口座を持たない人が17億人もいると言われています。そんな人々に安価に利用できる金融サービスを提供することが、フェイスブックがリブラにかける思いのようです。
加えて、フェイスブックには世界中27億人分のビッグデータがあります。日々の投稿やチェックインの記録、イベント参加の履歴、経歴、交友関係などのデータを金融サービスに活用できれば、フェイスブックはさらに大きな利益を得ることができるでしょう。フェイスブック銀行やリブラ銀行が実現する日も近いかもしれません。
リブラにはどんな特徴があるの?
リブラの特徴は、「スピーディーな処理」「価格の安定性」「流通(普及)の速さ」にあると言えるでしょう。
ビットコインを送金や決済に使った経験のある人は、「処理が遅い」と感じたことがあるのではないでしょうか。スケーラビリティ問題として有名ですが、2017年の仮想通貨ブームの際にはその問題が顕著に表れました。ビットコインはすでに世界中で流通していますが、トランザクション(取引)処理は毎秒7回と言われています。一方、リブラは毎秒1,000回の処理が可能とされており、スピーディーな送金・決済処理が可能になるはずです。
リブラの送金や決済処理が速いとしても、ビットコインなどの仮想通貨のように価値が1日に20%以上も変動していては支払いなどには使いにくいでしょう。リブラは、ドルやユーロ、ポンド、円などの法定通貨の他、証券や短期国債などとの一定比率での交換の仕組みを通して、リブラの価値を安定させる方針です。そのような裏付け資産は、「リブラ・リザーブ」と呼ばれています。価値がある程度安定していれば、仮想通貨投資によって大きな利益を得ることは難しいかもしれませんが、送金や決済には使いやすくなりますね。
そして、リブラの一番の特徴は、前述のとおりフェイスブックユーザーに対してサービスを提供できる点です。リブラの流通(普及)の速さは、他の仮想通貨の比ではないでしょう。最も有名な仮想通貨であるビットコインでさえ、口座数は約4,000万程度と言われています。もちろん、フェイスブックに登録しているすべての人がリブラを利用するわけではありませんし、27億人のユーザーという数値が正しいのかも不明ですが、グローバル企業であるフェイスブックが仮想通貨を始めることは、今後大きな意味を持つと思います。
リブラは、フェイスブックメッセンジャーやWhatsApp、Calibraなどのアプリで使えるようになるそうです。普段利用しているアプリに仮想通貨の送金・決済・保管などの機能がついていれば、「使ってみようかな」というユーザーも増えるでしょう。
フェイスブックの仮想通貨構想は実現するのか?
期待を寄せられているリブラですが、アメリカの議会はこの構想に「待った」をかけています。フェイスブックは、これまでにプライバシー漏洩などの問題で社会を騒がせてきましたし、リブラの構想は、既存の銀行や法定通貨などの社会システムを大きく変えてしまう可能性さえあります。アメリカの議会だけでなく、各国政府も規制を検討し始めているようです。
各国の否定的な反応は、それだけリブラが世界中で普及する可能性があることを示しているとも思えますが、脱税やマネーロンダリングの問題がありますから、当然といえば当然の反応ですよね。
仮想通貨に関する各国の規制は、まだまだこれから整備されていく段階です。国際的なルールも、これから整備されていくでしょう。ルールが定まれば、大手企業や機関投資家などが仮想通貨の世界に参加しやすくなるという面もあるでしょうから、仮想通貨が「まだまだこれから」というのは変わらないと思います。
次回は、「改めて知りたい、仮想通貨を使うメリット」についてご紹介します。
執筆者プロフィール : 中島 宏明(なかじま ひろあき)
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。
現在は、SAKURA United Solutions Group(ベンチャー企業や中小企業の支援家・士業集団)、しごとのプロ出版株式会社で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。
オフィシャルブログも運営中。