最近、「K字型」という言葉がよく使われています。コロナ禍でますます経済状態が悪化する下向きの動きと、回復する上向きの動きという二極化を言い表すもので、企業の業績を見ても、ますます経営が悪化する企業が多い半面、業績が良くなっている企業も目立ちます。「上向き」の要因として、多くのメディアは「巣ごもり需要による追い風」を挙げ、その分を除けば全体として「厳しい」という論調になっています。

厳しいのはたしかにその通りなのですが、しかし企業の業績をよく分析してみると、単に「巣ごもり需要」や「K字型」という言葉だけでは片づけられない日本企業の意外な姿が見えてきます。

2021年3月期は27%増益~「巣ごもり需要」だけではなかった

まず企業業績の全体像から見てみましょう。東京証券取引所がこのほど発表した上場企業の今年3月期決算の集計によると、金融を除く全産業(JASDAQなど新興市場上場企業を含む)の売上高合計額は前期比7.3%減の569兆9,217億円と減収となりましたが、純利益の合計額は26.9%増の25兆1,562億円で、大幅増益となりました。

  • 上場企業の業績(純利益)推移

コロナ禍でこれだけの増益とは、意外に感じる人が多いのではないでしょうか。コロナ禍で景気はリーマン・ショック以上の落ち込みと言われますが、リーマン・ショック直後の2009年3月期決算では上場企業の純利益合計額がほぼゼロにまで落ち込んだのと比べれば、明らかに様相が違います。

もっとも、今回はソフトバンクグループ1社だけで約5兆円もの巨額の利益を上げたことで、全体の合計額が押し上げられています。同社が子会社にしている投資ファンドが多額の利益を上げたことが主な要因で、いわば特殊事情とも言えます。そのため、同社を除いて計算すると、今年3月期の全上場企業の純利益額は20兆円余りとなり、前期比で3%の減益だったことになります。 それでもコロナ禍の1年間でわずかの減益で済んだと言っていいでしょう。

「K字型」で言えば、コロナ禍で業績が下向きとなった企業が多かった半面、上向きとなった企業も少なくなかったわけです。上向きの要因が「巣ごもり需要」であることは事実ですが、実はそれだけではありません。

たとえば、今年3月期に最高益を達成した企業は5社に1社にのぼっています。ごく一部ですが、その主な顔ぶれを見てみましょう。

  • 2021年3月期に最高益を更新した主な企業

表の真ん中の列には、任天堂から日本通運まで「巣ごもり需要」のおかげと見える企業が並んでいます。このうち、キッコーマンの最高益は8年連続です。つまりコロナ禍前から経営体質を強化し、好業績を上げていたのです。その蓄積があったからこそ、巣ごもり需要も取り込んで業績を伸ばすことができたのです。

一方、住友不動産やALSOK(綜合警備保障)などにとってコロナ禍は逆風でしたが、それを乗り越え、やはり連続最高益の年数を伸ばしました(住友不動産は8年連続、ALSOKは6年連続)。

最高益続々の電子部品・半導体関連~世界のIT製品を陰で支える

もう一つの特徴は電子部品・半導体関連企業の好業績と電機の復活です(表の左側の列)。                        

日本の電機産業は、家電や半導体で韓国などの新興国の追い上げを受けて凋落したとのイメージが強くあります。確かに残念ながら「負け組」となった企業や商品分野は少なくありませんでした。しかしその陰で多くの電子部品、半導体製造装置や半導体素材などの企業は技術力を磨き、事業の再構築を図り、経営の構造改革を進めてきました。その結果、特定の部品などの分野では代替のきかない立場を確立し、高い利益を上げる事業構造を作り出していたのです。

その代表例がソニーグループです。同社はここ数年、急速に業績を回復させていますが、その原動力となったのはイメージセンサーです。これは光を電気信号に変える半導体素子で、スマホのカメラをはじめ、医療用機器、監視カメラ、ドライブレコーダーなどで需要が伸びていますが、同社はこの分野で世界市場の50%以上のシェアを握っています。コロナ禍前までにこの実績を確立していたことに加えて、コロナ禍でゲーム機が好調だったことで、初めて純利益1兆円の大台乗せを実現したのでした。

  • ソニーグループの業績(純利益)推移

先の図表中の村田製作所、島津製作所、アドバンテストなども電子部品や半導体製造装置の分野で強さを発揮している企業です。

村田製作所が生産するのは、衝撃を感知するショックセンサー、電子回路の電圧を安定させたりノイズを除去する積層セラミックコンデンサーなど、スマホなど電子機器や半導体で不可欠なものばかりで、それぞれの分野で世界トップシェアの部品がズラリと並んでいます。村田製作所なしには世界のIT製品は成立しないと言っても過言ではありません。その結果、営業利益率は約20%と、部品メーカーとは思えないほどの高い利益率を誇っています。

また、前述のアドバンテストは半導体の製造工程の一つである検査装置を生産しており、世界の半導体製造装置メーカーで売上高第6位のメーカーです。この分野では世界のメーカーの売上高上位15社のうち、同社をはじめ日本企業が7社が占めています。

  • 世界の半導体製造装置メーカー売上高ランキング

半導体そのものの生産では日本勢は韓国・サムスンなどに後れを取ってしまいましたが、半導体を製造する装置の多くを日本企業が支えているのです。

ITと言えば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるように米国が世界をリードして日本は水をあけられていますし、スマホや半導体では韓国・中国・台湾などに後れを取っているのが現実です。しかもコロナ禍を通じて日本社会のデジタル化の遅れが浮き彫りにもなりました。しかしその陰で、日本の電子部品・半導体関連企業が世界のIT製品を支える存在となっていることを忘れてはなりません。これが日本の産業の隠れた強みでもあるのです。

ヤオコー、29年連続増益

意外な強さを発揮しているのは、電子部品などの分野だけではありません。これまでの日本経済新聞の調査などをベースに、2021年3月期決算の結果を加えて「連続増益・連続最高益企業ランキング」を作成してみました。上場企業のうち3月期決算会社を対象に、純利益ベースでこれまで連続して増益及び最高益を達成した年数の多い企業を並べて一覧表にしたものです。

  • 連続増益・最高益(純利益)ランキング

1位は埼玉県川越市に本社を置くスーパーのヤオコーで、何と29年連続で増益、うち最高益は27年連続という驚異的な業績です。営業利益では32年連続、しかもその間すべて連続増収でもありました。

同社は埼玉県内を中心に関東だけで店舗展開しているローカルスーパーですが、好業績の要因は、(1)堅実な経営と財務体質(2)徹底した権限委譲と地元密着(3)食生活提案型で消費者ニーズを取り込む――などです。

中でも目を引くのは、仕入れから販売方法、価格に至るまで、基本的には店長にすべての決定権限を委譲し、店長はそれら権限を各売り場担当者、さらにはパート従業員にも委譲するという徹底ぶりです。パート従業員の多くは地元の主婦であることから、消費者目線でさまざまなアイデアを出し、消費者ニーズにこたえているそうです。またパート従業員の参加意識も高まり、そうしたことが持続的に業績を向上させる効果を生んでいるとのことです。

これは、競争の激しいスーパー業界の中で安売り競争に陥るのではなく、他社との違いを鮮明にする差別化戦略と言えます。何年間も増益や最高益を続けている企業の多くは中身の違いはあれ、差別化戦略によって顧客や消費者をがっちりつかんでいるという共通点があります。そのことがコロナ禍にもかかわらず好業績を上げ続ける大きな要因となっているのです。

こうしてみてくると、厳しい経営環境の中でも強さを発揮している企業は少なくないことがわかると思います。しかし多くのメディアでは、この側面はほとんど報道されていないのが実態です。全体として日本経済が依然として厳しいのは事実ですが、こうした企業の持つ強みがアフターコロナ時代の日本経済復活に向けた原動力になり得るのです。