世界88の国と地域で展開する資生堂を代表するグローバル化粧品ブランド「SHISEIDO」の無料教材を用い、無意識の偏見や思い込みについて考える授業が本庄東高等学校附属中学校で実施された。
性別・年齢・国籍などにとらわれず、個々の美しさに共鳴しあえる世界の実現のため、「Unconscious Beauty Bias」(アンコンシャス・ビューティー・バイアス)に注目し、「SEE,SAY,DO.」プロジェクトに取り組む同ブランド。教材提供の経緯や実際の授業の様子などを取材した。
「SHISEIDO」が開発した無料教材を活用した授業
2022年9月より「SEE,SAY,DO.」プロジェクトをグローバルで展開する「SHISEIDO」は、日本の中学生の道徳授業をサポートする無料教材「誰もが自分らしく美しくいられる世界へ」を監修・開発。
国内最大級の教員向けオンラインプラットフォーム「SENSEI ノート」を開発運営するARROWS社と、「Unconscious Beauty Bias」をテーマに取り上げる教材を2023年4月から提供してきた。
88の国・地域で多様なユーザーと接する中で得た気づきなどが発端となって開発されたという本教材の提供を通じ、「SHISEIDO」は日常に潜む「無意識の偏見や思い込み」について、生徒が主体的に考える授業を展開している。
授業用スライドや動画、ワークシートなどが一式になった本教材は、多感な時期を迎える中学生向けの道徳教材を想定して開発されており、カリキュラムなどに応じて総合的な学習などにも柔軟に取り入れられている。また、中高一貫校などでは高校生を対象に実施される場合もあるという。
今回取材した本庄東高等学校附属中学校の3年1組(約25名)での授業は、50分間の「ロングホームルーム」の時間に実施された。
同校の3年生たちは1年間かけて社会課題解決のアイデアなどを考え、全国の生徒たちと発表する「ソーシャルチェンジ」という探究学習プログラムに参加。学校生活の折に触れてさまざまな社会課題について学んでおり、12月にはオーストラリアへの研修旅行も控えているという。
こうした探究学習の取り組みに新たな視点とトピックを追加することなどを目的に、今回の授業は行われたようだ。
日本で意識しにくいアンコンシャス・バイアスは?
教材「誰もが自分らしく美しくいられる世界へ」は、「気づく」と「考える」の2パートに分かれており、「知る(SEE)」「議論する(SAY)」「アクションを起こす(DO)」の3ステップへとつなげる構成となっている。
日常に潜む無意識の偏見が自分や他者の自分らしさの実現を阻害していることを知り、それらの言動にどう向き合うべきか、先生との対話や生徒同士のディスカッションによって相互に理解を深めていく。
授業の冒頭、「SHISEIDO」が全国の中高生に実施したアンケート調査から、身近な無意識の偏見の事例を知る場面では、自身の体験談などを生徒同士で積極的に語り合う様子が見られた。
「生活の中に潜んでいる他者への決め付けや他人からの視線、自分への思い込みによって、本来の自分らしくいられないと感じたケースが、みんなにも色々あるかなと思います」と、本授業の教壇に立った宮嵜陽一朗教諭。
「例えば『女子はかわいい文房具が好き』という思い込みも他者への決めつけです。もしかしたらこうした他者の視線を強く感じた経験は、男子のほうが多いかもしれません。実はかわいいものが好きな男子や『男の子だから泣かないの』と言われたことのある男子は、とても多いんじゃないでしょうか」
授業では、ハーフや身体的な障がいを持つ当事者が実際にどんな無意識の偏見に向き合っているのかを語った動画や、海外で強く意識されている無意識の偏見について調査したアンケート結果も紹介された。
「各国のアンケートを見ると、『肌の色』や『性的指向性』など日本ではなかなか意識しにくいアンコンシャス・バイアスを知ることができます。日本では『性的指向性』『性自認』の項目が上位に出てきませんが、日本でこうした差別がないと思う人はどのぐらいいるでしょうか? 日本ではオープンに言えない空気があるから周りには見えないし、周りに見ないから上位に出てこない。とくにこうした性的な差別はアンコンシャス・バイアスの典型例かと思います」
授業の最後には「自分らしく美しく生きることを妨げる偏見をなくすために大切なこと」を話し合う時間も設けられ、意欲的に議論する生徒たちの姿が印象的だった。
「自分らしく美しく生きられる世界を実現するためにはどうすればいいのか、この短い時間で考えることは、とても難しいと思います。「SHISEIDO」さんの「SEE,SAY,DO.」というキャッチコピーのように、まずはいろいろなことを見て知る。その上でいろいろな人と会話しながら、自分らしい美しい生き方を阻害するアンコンシャス・バイアスを減らすために何ができるのか。これから考えていきましょう」
差別や偏見を身近な体験から考えられる
今回の授業を受けた生徒は、「日本では『これが普通・常識だから』という固定された考えが強くて、それが差別とみなされることは少ないと思うんですが、授業を通してそうした考え方も差別なんだと自分の考え方を見直すことができました。日本で多いアンコンシャス・バイアスに『年齢』という項目があり、意見交換した時に『“昭和の考え方”みたいな言い方も差別に入るんじゃない?』と隣の席の子が言っていて。私はあまり気にしたことがなかったんですが、そういう気づきもありました」とコメント。
「身近な人に自分のことを隠さず見せて、もっと伝えていくことも大事だと思いました」とも語っていた。
また、別の女子生徒は「ファッションから差別を受けたと感じる人が多い国があり、私の友達にもボーイッシュな格好が好きな子がいるので、もっと普段からみんなが自分の本来なりたい姿やファッションができるといいなと。自分が相手を傷つけないように、しっかり話を聞いて相手の気持ちを想像しながら発言するようにしていきたいです」と感想を述べていた。
本教材を活用した本授業は全国で随時実施されており、「SHISEIDO」が行っている授業前後の意識変化に関する生徒アンケートでは、90%の生徒が「無意識の偏見や思い込みについてもっと目を向けていきたい」と回答。「自分が気づかなかっただけで、偏見などから差別されたり、生きづらくなったりしている人がいるとわかった」「自分では気づかないことを班で共有して気がつけた」など、前向きなコメントが寄せられているという。
授業の満足度も高く、先生と生徒がともに気づきを共有し、学びを深められる教材として、アンケートでは教員からも前向きな評価を得ているとのことだ。 「全国の中高生や海外でのアンケート調査など、専門的な資料でいろいろな視点や考え方を提供してもらえる教材になっているので、非常に有意義な授業だと感じています」(宮嵜教諭)
「SHISEIDO」ブランドが展開する「SEE,SAY,DO.」プログラムの授業は今年度、全国1万人以上の生徒が受講する予定。昨年度からの2年間では延べ330校、約3万人の生徒に実施される見込みだという。