瑠璃色のボトルに白で書かれた三文字の漢字。一度は『薬用 雪肌精』を目にしたことがある人も多いでしょう。
今春、ブランドの誕生40年目に向けて初となるリニューアルを果たした「薬用 雪肌精」。多くの人に愛され、ロングセラーであり続ける背景をブランドマネージャーの塩島瞳さんに伺いました。
『薬用 雪肌精』が生まれたきっかけは?
2005年にコーセーへ入社し、商品企画を中心に担当してきた塩島さん。直近では、ヘパリン類似物質で知られるマルホとの合弁会社「コーセーマルホファーマ」の立ち上げに携わり、昨年よりクリーンブランド事業室にて、雪肌精のブランドマネージャーに就任。まずは塩島さんに雪肌精が誕生したきっかけを聞きました。
「雪肌精がデビューしたのは1985年。創業者の小林孝三郎氏の長男で、現代表取締役社長の一俊氏の父 禮次郎氏が、効果効能に特化した単品型の商品を開発したいという思いで誕生しました。当時は同じブランドの物をラインで使うシステム使いが主流で、単品型の商品は斬新なアイディアだったんです。いつものスキンケアの間に挟み込んでもらうために開発された雪肌精以外に、高効能シリーズとして活肌精と潤肌精というものもありました」
活肌精はエイジングサインにアプローチをする美容液、潤肌精は保湿に特化したクリームとして1984年に発売。現在では雪肌精だけが残り、根強いロングセラーブランドとなりました。
「なぜ雪肌精だけ残れたかと社内で話をするんです。効能特化ということもあり、“活”でエイジングケア、“潤”で潤いと分かりやすい名前をつけていたので、雪肌精は白い肌を表す“白肌精”と掲げたかったのですが、薬機法の関係で“白”は使えませんでした。代わりになる名前を考えていた時に『白がダメだったら雪がある』と当時の社長だった禮次郎氏が言ったんです」
「元々コンセプトに、“日本人の透明感のあるきめ細やかな雪のような肌”があったので、“雪”を名前の冠に掲げることしました。日本だけでなく、15の国と地域で愛用いただいているのは“雪”という字が良かったからというのもあると考えています」
商品コンセプトを変えないまま、長きに渡り愛され続けてきた雪肌精。1986年に入社した現代表取締役社長の小林一俊氏は、社長に就任するまでに何部署か経験する中で、雪肌精と関わる機会が多かったことから「自分の手で携わってきたブランドは唯一雪肌精」と語るほど、思い入れのあるブランドになったという。
また、在籍する社員のほとんどが雪肌精デビュー後に入社しており、多くの社員が雪肌精に携わってきたことから、各々にエピソードがあるのだそうです。
40年目を迎えた今、リニューアルに至った理由
「雪肌精」ブランドが40年目を迎えた今春、なぜ「薬用 雪肌精」をリニューアルしたのでしょうか?そこにはあるブランドづくりでの経験が次のフェーズへと進む糧になったといいます。
「デビュー以来、多くの方に愛用いただいてきたのですが、2000年代になると化粧品業界自体が成熟化し、ブランド戦略が次のフェーズに行かなくてはいけないタイミングとなりました。かつて2001年にコーセーの最先端の技術を詰め込んだ百貨店専用ブランド“ボーテドコーセー”を展開したのですが、同じ百貨店取扱ブランドの“コスメデコルテ”と自社競合になってしまい、10年で撤退してしまったんです。その時に、ブランド戦略は守るべきものと変えていくものを峻別しなくてはいけないということを学び、それが雪肌精や他のブランドを飛躍させる良い経験になりました」
この経験が資産となって受け継がれていると話す塩島さん。雪肌精がリニューアルに至った背景を次のように話します。
「2000年代にはアイテムの追加、2007年にはブランドミューズを起用するなど、戦略を打ち始めたのですが、伸び悩む時期もありました。このロングセラーブランドをずっと大切にしていきたいという思いからリブランディングし、2020年に『クリアウェルネス』シリーズを発売して、積極的に若い世代にアプローチする戦略を取りました」
「一方で、コーセーの研究所では1985年から和漢植物の研究を行っており、16年前から研究に着手していた“甘草(カンゾウ)”由来の成分に美白効能を見出しました。雪肌精誕生時から配合している甘草。これを雪肌精で使おうというところがリニューアルのきっかけです」
ロングセラーを守っていきたい企業とより良いものにしたいという研究所の思いからリニューアルへの一歩を踏み出しましたが、商品化までにはさまざまな苦労があったといいます。
「新商品の薬用雪肌精 ブライトニング エッセンス ローションに配合している甘草由来有効成分“W-グリチルレチン酸ステアリル”は、肌あれ防止に加えて当社が新たに美白効能の承認を日本で初めて取得したのですが、まずこの承認をもらうまでに時間がかかりました。さらに、この成分を化粧水に配合するのも大変で……」
「“W-グリチルレチン酸ステアリル”が水に溶けにくい油系固形物のため、化粧水に配合することは容易ではありませんでした。そこで“W-グリチルレチン酸ステアリル”を溶かしこめる油を500種類以上もの中から選び、コーセーが得意とするリン脂質技術を用いて、生体類似エマルジョンカプセルというカプセル化をして溶かし込むことでやっと安定配合に成功したんです」
16年もの研究を経て完成した新・薬用雪肌精。キーとなる有効成分を商品に配合するための製品化技術研究を担当したのは意外にも若手の社員だったという。
「担当した研究員にとって、雪肌精は物心ついたころからなじみのあるブランドだったそう。この看板商品をより良いものにしたいという強い思いから、自分で手を挙げて取り組んだと聞いています。これだけのロングセラーですから、すごく苦労したと思います。コーセーでは若い社員にチャレンジさせる風土があり、今回のリニューアルに携わったメンバーも若手が多く、プレッシャーで押し潰されるというよりは、『私たちの手で次の世代に繋げられるんだ』と前向きな思いを強く感じました」
“100年続くロングセラーアイテムに” 雪肌精を繋ぐための取り組み
雪肌精がロングセラーアイテムであり続けるために、今後の展望を尋ねてみました。
「コーセーでは『グローバル』『ジェンダー』『ジェネレーション』の頭文字をとった3Gをキーワードに掲げ、多くの方に商品を届けたいという思いがあるので、2012年から雪肌精の顔としてブランドミューズに起用している新垣結衣さん、羽生結弦さんに加えて、今年から新たにバレーボール選手の髙橋藍さんをアンバサダーに起用して、この新・薬用雪肌精が性別や年齢に捉われず、より幅広い人々にお使いいただける商品だということを様々なプロモーションを通して伝えていきたいと考えています」
40年という歴史のある雪肌精は、お母さんやおばあちゃんの紹介で、代々引き継がれるアイテムになっているのだそう。確かにお店やSNSとは違う安心感が長く愛され続ける秘訣なのかもしれません。
作る側と使う側、それぞれのエピソードがたくさん詰まった雪肌精。「受け取ったバトンを次の世代に届けられる、長く販売できる商品が完成しました。“100年続くロングセラー商品に”なるよう、長期的に雪肌精を育てていきたいです」と塩島さんは笑顔で語ります。