吉本興業と所属するお笑い芸人たちの「闇営業」を発端とする騒動はテレビはもちろん、ウェブ、紙など多くのメディアで取り上げられています。
一連の報道で、「解雇」という言葉が出ています。しかし雇用契約を結んだ社員ではなく、業務委託契約の関係であるお笑い芸人に対して、解雇と言えるのでしょうか? また、パワーハラスメントは成立するのでしょうか? 弁護士ドットコム取締役で弁護士でもある田上嘉一さんに、疑問を解消するため、お話を伺いました。
雇用契約がない芸人も解雇と言える?
まず、法律として解雇がどのように定義されているのかを尋ねました。
田上さん「労働契約法上での『解雇』とは、使用者による労働契約の解約(労働契約法16条、民法628条参照)を指します。ただ、解雇権の行使は厳格に制限され、『客観的合理的理由』『社会的な相当性』がないと解雇権濫用となり無効となりえます(労契法16条)」。
労働契約の関係がある場合、解雇という行為が発生する、つまり労働契約が無効となる意味ですね。では今回のケースのような、業務委託契約ではどうなのでしょう。
田上さん「業務委託契約の場合にも、当事者間には契約(業務委託契約)が締結されていることから、契約解除は当然可能です。また、原則として上記のような労契法の規制を受けません」。
どうやら、業務委託契約の関係でも、解雇という行為と表現が適応されるようです。そして、労働契約法等の適用を受けるのか、そうでないのかは、契約名称が「雇用契約」「業務委託契約」にかかわらず、実質的に判断されるそうです。
田上さん「業務委託契約という名目の契約であったとしても、時間や場所が拘束されるなど、被用者が使用者の指揮に服していると認められる場合には、被用者は労働契約法の保護を受け、解雇が無効であると主張できます」。
今回のケースでも解雇という表現は成立し、それに対する法的な対策も可能なようです。続いて、もう一つの疑問となるパワハラについて聞きました。
パワハラは社員以外にも成立する?
田上さん「職場における『パワハラ』とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます(厚生労働省)」。
職場内での優位性には「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性も含まれるそうです。そして今回は次の二つのポイントがパワハラにあたる要因となるとのこと。
・芸人には、もともと法益侵害があれば、不法行為として損害賠償請求することができるのが原則である
・業務委託契約では、吉本興業の指示に芸人は従わなくてもよいが、仕事をする上で実質的に指示・監督下におかれることは十分に考えられる
このため、「業務の適正な範囲を超えて」精神的・身体的苦痛を与えられることが事実上ありうるので、社員以外でもパワハラに該当しうるのだそう。
田上さん「法律では『雇用契約にある状況』に限定していないので、業務委託契約であってもパワハラとなる可能性は十分にあると考えられます」。
次回は闇営業と報酬について紹介します。
取材協力:田上 嘉一(たがみ よしかず)
弁護士、弁護士ドットコム取締役 早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。大手渉外法律事務所にて企業のM&Aやファイナンスに従事し、ロンドン大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。知的財産権や通信法、EU法などを学ぶ。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の企画運営に携わる。TOKYO MX「モーニングCROSS」などメディア出演多数。