「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、今年9月に開催された「Web3の新しいフロンティア: RWA(リアルワールドアセット)の役割とリスク(フィンテック養成勉強会#34)」のレポートです。

  • ※フィンテック養成コミュニティ申込ページより

質の高い最新情報を得られる「フィンテック養成コミュニティ」

本連載の第26回「フィンテックの最新情報を得たいなら、フィンテックエンジニア養成勉強会へ」で取り上げたフィンテックエンジニア養成勉強会は、「フィンテック養成勉強会」に名称を変え、勉強会は今回で34回目。いつも質の高い最新情報を無料で配信してくださり、頭が下がります。

今回の勉強会テーマは、RWA(リアルワールドアセット)。Web3やフィンテックに明るい方々にとっては、「NFT(ノンファンジブルトークン)とRWA(リアルワールドアセット)の組み合わせが新しい金融インフラの確立に寄与している」と言われ、すでに注目・検討されているワードかもしれません。

勉強会当日は、フィンテック養成コミュニティの運営者である阿部一也さん(Institution for a Global Society株式会社 上席研究員)が携わる、教育格差の是正やリスキリング/学習支援を目的としたNFTプロジェクト「ONGAESHI」の紹介や、株式会社アトノイの川本栄介さんによる講演『Web3の観点からみたRWAトークン』、創・佐藤法律事務所の斎藤創弁護士による講演『RWAトークンと日本法』、川本さん・斎藤弁護士に加え、TMI総合法律事務所・パートナー弁護士の成本治男弁護士をパネラーに向かえ、藤井達人さんがモデレータを務めたパネルディスカッション『RWA(リアルワールドアセット)の役割とリスク』というプログラムで進められました。

RWAトークンがもたらす価値観の変化

講演『Web3の観点からみたRWAトークン』では、RWA(リアルワールドアセット:現実資産)トークンに関する基礎知識や、「RWAが持つ真の価値をすべてのステークホルダーに分け隔てなく共有できる」という言葉の真意について、川本さんから解説がされました。

“真の価値”とは、出自と来歴の証明のこと。だれがRWAとそのトークン(例えばRWAと紐づいたNFT)を生み出した(発行したのか)という出自の証明や、過去にだれがそれを保有したか、どんな取引がされたかという来歴の証明をブロックチェーンでトラストレス(証明作業なしで)に行うことができます。

“分け隔てなく共有できる”とは、出自や来歴がだれからも見える化され、手元に現物資産がなくてもRWAトークンを持つことで現物資産を保有していることを証明できるということ。これによって、よりフェアな取引が可能になるでしょう。

講演の中で川本さんが語られた、「単に証明書をデジタル化するのではなく、リアルとデジタルが相互に価値を高め合うことが理想」「記録される出自と来歴や、熱量、ストーリーといった付加価値がRWAの価値を上げる」という言葉が特に印象的でした。

筆者がインドネシアのバリ島で暮らしていた2014年頃、現地ではメイドインジャパンの価値は広く知られていましたが、ユーズドインジャパン(日本で使われたものは手入れがされていて状態が良く、新品より安価)のような価値も認められていました。「出自や来歴が価値になる」というのは、今はまだ理解されにくいと思いますが、徐々に新しい価値観として広まるのかもしれません。RWAとNFTが紐づき、出自や来歴が記録されて見える化されれば、「今だれが持っていて、過去だれが持っていたのか」もわかるようになり、「どこどこの王族が保有していた」とか「目利き力のある有名なコレクターが保有していた」といったホルダー履歴が見える化され、それらがRWAとNFTの価値に影響するようになるでしょう。

ただし、現状はRWAそのものとRWAと紐づくNFTは別物の扱いであり、民法上(民法85条)、所有権の客体となるのは有体物に限られるため、メタバース上の土地やアイテムといったデジタルオブジェクトには所有権は成立しません。法的には、デジタルオブジェクトを「所有」するという表現よりも、「保有」するという表現が適当であるとされています。NFTを愛する人はRWAそれ自体の所有にはこだわらないかもしれませんが、法的な課題はあるでしょう。

これは筆者の考えですが、NFTが普及することで「デジタルであってもオリジナル以外のコピーを保有することはダサい」という価値観が、徐々に芽生えていくのだと思います。例えばハイブランドのアイテムを保有するとして、「いくら本物に限りなく近いスーパーコピーであっても、本物でないものはダサい」という価値観と、デジタルオブジェクトの保有も同じになっていくのかもしれません。後述するWeb3ネイティブ世代が増えれば、そういった価値観も当たり前になる可能性があります。

RWAトークンのビジネスを検討する上でのリスク

斎藤弁護士による『RWAトークンと日本法』の講演では、RWAトークンに関連するビジネスを検討する上でのリスクについて解説されました。ST(セキュリティトークン)や利用権的なNFT、ゴールドのトークン化、アート作品のトークン化…などなど、トークンを活用したスキームはたくさんあり、スキームによってどの法律が適応されるかも変わるため、斎藤弁護士や成本弁護士のような専門家に相談することをおすすめします。

斎藤弁護士からは、NFTを活用したビジネスの事例を取り上げながら、暗号資産法(資金決済法)、金商法、預託等取引法、前払式支払手段の規制、古物営業法などのさまざまな法律の観点から解説がされています。詳しくは、「現実資産(RWA)のトークン化と日本法」というタイトルの記事が創・佐藤法律事務所のサイトに掲載されていますので、ぜひ読んでみてください。

Web3ネイティブ世代が増加する未来

最後のパネルディスカッション『RWA(リアルワールドアセット)の役割とリスク』では、シンガポールにも拠点を置く成本弁護士から、シンガポールにおけるRWA(その周辺のWeb3関連プロジェクト)の熱量について。川本さんからは、今RWAに着目する業界の背景やユースケース不足について。斎藤弁護士からは、日本での新規参入の障壁についてなどが語られました。

特に印象的だったのは、成本弁護士の「これまで小口化が難しかったアセットを小口化する(民主化する)チャレンジは面白い」「例えばカーボンクレジットがトークン化されたとき、どこから発電されたのか、どんな再生可能エネルギーなのかを改ざんされては困る。ワインがトークン化されたとき、未開封であることの証明や温度管理の証明などが必要になる。これらはブロックチェーンの価値が発揮できるのではないか」というコメントや、川本さんの「オンチェーンとオフチェーンの橋渡しが必要」「RWAでは熱量や思い、ストーリーの重要度が上がり、特定のコミュニティでは価値が高いものが生まれてくる」という見解、斎藤弁護士の「Web3におけるスーツ族とTシャツ族」のお話です。さまざまな立場からRWAに関する意見や見解を聞くことができ、参加者にとって極めて有意義な勉強会だったのではないでしょうか。

Web1、Web2、Web3という言葉を見ると、徐々に移行していくイメージを抱きますが、個人的にはWeb2とWeb3は両立したり混在したり溶けあったりするものだと感じています。「分散型(非中央集権型)のWebに参加できる人がどんどん増えるか?」と問われると、分散型よりも中央集権型の方に安心感や信頼感を覚える人の方がまだまだ多いので難しいでしょう。一気に社会がWeb3になるかというと、かなり距離感があると思います。

しかし今後、「Web3ネイティブ世代」や「AIネイティブ世代」「メタバースネイティブ世代」が増えたとき、価値観は変化しているでしょう。Web3もAIもメタバースも、さまざまなプロジェクトやプロダクトが日々生まれていますが、いずれも人が生み出しています。冒頭の教育格差の是正やリスキリング/学習支援を目的としたNFTプロジェクト「ONGAESHI」は、NFTを保有することで学びのスポンサーになり、NFTで未来の人材を育てるプロジェクトです。教育格差が是正されて機会の平等が得られ、だれにとってもフェアな社会が実現すれば、未来はより良い世界になりそうです。