「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回のテーマは「GAFA・BATHクラスの日本企業を生み出す? 『REaaS』の可能性」です。

  • 不動産投資における新しい概念「REaaS」

投資の目利き力は、時代の流れを知ることで高められる

何事も、まずは知ることから第一歩が始まります。投資・資産運用においても、投資対象を知るのはとても大切なことです。

知る手段として、最近ではYouTubeなどの動画やオウンドメディアなどの記事がありますが、昔から存在する媒体である書籍も、物事を体系的に知るためにはやはり有効な手段の一つです。

中でも、学者や大学教授の著書は参考になることが多いと感じています。例えば、オーストリア・ウィーン生まれの経済学者、哲学者であるフリードリヒ・ハイエクの著書『貨幣発行自由化論』は、1988年に発行された本ですが、今でいうビットコインや仮想通貨(暗号資産)の出現を言い当てているとも言えます。

  • 『貨幣発行自由化論』

学者や大学教授の著書を読むことで、時代の流れを知り、未来を想像することができるかもしれません。優れた学者や大学教授の頭のなかは、数十年以上先の未来が見えていたりします。

これからは「本質的な個人の信用情報」重視の世界へ

私が愛読している著者のなかに、連載記事『金融革命としての仮想通貨』でご紹介した田中道昭氏がいます。

田中氏は、シカゴ大学経営大学院でMBAを取得し、立教大学ビジネススクール教授、マージングポイント代表取締役などを務めている方です。

著書『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』の中では、アマゾンやアリババなど米中メガテック企業が銀行業へ進出する可能性について、言及しています。

アマゾンやアリババといった金融ディスラプターは、貸出を行うにあたって担保主義ではなく本質的な信用を見ています。この点が極めて重要です。彼らのプラットフォーム上に、より本質的な個人の信用情報をビッグデータとして蓄積して、それを貸出に活用しているのです。この点において、金融ディスラプターは、既存金融機関よりも、金融の本質に近づいています

アマゾンが銀行業に参入することになった場合は、アマゾンはまずは預貸業務や決済業務から開始するものと考えられます。AWS部門のクライアントである銀行に対して、業務のAI化を支援してきたアマゾン自身が銀行業に乗り出すとすれば、アリババやテンセント以上の破壊的なインパクトを業界に与えると見ておくべきでしょう。より具体的には、アマゾン独自の仮想通貨を基軸としてアマゾン経済圏を拡大すること、テクノロジー企業としての技術力を活かしてブロックチェーンとAIを活用した新たな金融・商業のプラットフォームを構築することなどが予想されます。

(『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』より引用)

  • 『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』

アマゾンはすでに、法人の販売事業者のビジネス拡大を支援するために、Amazonレンディングという短期運転資金型ローンサービスを提供しています。「アマゾンバンク」という形で大々的に開行しているわけではありませんが、実質的には銀行業を行っているようなものです。

アマゾン銀行の誕生を含め、田中氏の著書に書かれていることは、実現することも多くあるのではないかと私は感じています。

その中でも私が注目したいのは、「本質的な個人の信用情報」という言葉です。

著書で触れられている通り、将来的には、日常的な消費行動や決済履歴(クレジットヒストリー)などのビッグデータを蓄積し、そのデータをAI分析し、融資の与信審査などに活用する、という時代が来るでしょう(ビッグデータ活用や信用スコアについては、『フュージョンバンキングは世界の銀行や社会を変えるのか?』で詳しく紹介しています)。

不動産投資の本質を突いた「REaaS」の可能性

これを不動産の分野で理解し、実現しようとしているのが、サラリーマン層に向けた投資用アパートメント経営のビジネスモデルを展開してきた、シノケングループだと思います(連載の第2回で詳しく紹介しています)。

不動産購入に関する融資の審査をする際、オーナーとなる人の仕事(勤め先や役職など)や年収は重要なチェックポイントであることが一般的でしょう。

しかしシノケングループの創業者である篠原氏は、「不動産で収益を生み出すのは、オーナーではなく物件である。立地や想定する入居者に合う間取り、デザイン、設備が重要なのであって、オーナー本人の肩書きや年収は関係ない」と断言します。これは、不動産投資の本質であると私は感じます。

そのような考え方をもとに、シノケングループが普及させたいと考えている概念が「REaaS」(Real Estate as a Service / サービスとしての不動産)です。

REITであれば、小口化して定額でも投資・資産運用ができるようにする、それなりの所得や貯蓄のあるビジネスパーソンだけでなく、新卒や第二新卒世代、さらに言えば、主婦・主夫・学生でも不動産投資ができる、海外の不動産だってスマホ1つで取り扱うことができる……。

そんなサービスをIoTやフィンテックなどのITの力と融合させて、実現させようと考えているのです。

"不動産テック"という言葉は流行っているものの、「内見をスマホでできる」「動画で物件を見学できる」「不動産アドバイザーにオンラインで相談ができる」などのレベルに留まっており、まだまだ革新的とまでは言えません。

本当の意味での"革新"は、物事の本質とテクノロジーの力が合わさったときに生まれます。

シノケングループが進める、「インドネシアのような新興国のREIT(不動産投資信託)と日本のような先進国のREIT(不動産投資信託)の国際不動産戦略」「テクノロジーの力を活用して、学生や主婦・主夫層にまで裾野を広げる第二次不動産流通革命」。さらに、「物件が収益を生み出す」という本質への理解。

これらが実現し、社会に浸透すれば、REaaSの概念が当たり前になる時代が来るかもしれません。そして、またさらに新しい概念が生まれていくでしょう。

"未来の当たり前"を生み出す企業が日本でも生まれるかもしれない

新型コロナウイルスの影響もあり、最近は「本質の時代が来る」とも言われています。

今はまだ、実際は中身の薄い企業の株価に期待値だけで高値がついたり、派手な演出をする自称投資家・講師などにお金が集まったりしていますが、本質の時代に突入すればやがて、本質を理解し実行している企業や個人にお金が集まるようになると私は期待しています。

GAFA・BATHなどのイノベーション企業は、"未来の当たり前"を今、生み出しています。シノケングループのような企業が業界を牽引し、日本からGAFA・BATHクラスの企業が生まれる日が来るかもしれません。そう思うと、未来が楽しみですね。

最近は、BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)という言葉も使われ始めています。不動産と金融は極めて相性の良い領域ですから、ブロックチェーンの活用などによりREaaSとBaaSを掛け合わせた新たなサービスが生まれるかもしれませんね。