「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は前回に続き、ゲーミフィケーションをコアメソッドとしたCX(カスタマー・エクスペリエンス)デザインカンパニーである株式会社セガ エックスディーでプロダクトマネージャーを務める野尻昌仁氏に、ゲーミフィケーションとweb3・メタバースをテーマにインタビューを行いました。

野尻昌仁氏

コンサルティングファームでの新規事業立ち上げ・ジョイントベンチャー設立などを経て、2021年に株式会社セガ エックスディーに入社。コンサルティングスキル・事業開発スキル・ゲーミフィケーション知見を組み合わせ、さまざまなクライアントと新たな価値を共創している。社内でweb3領域の取り組みを推進しており、自身もさまざまなNFTのコレクターであるだけでなく、国内大型NFTプロジェクトの運営にも参画している。

ゲーミフィケーション×マーケティングの事例紹介

――では次に、「ゲーミフィケーション×マーケティング」の事例等についてもぜひ教えてください。

野尻昌仁氏(以下、野尻氏):社の「ゲーミフィケーション×マーケティング」の事例ですと、IP(知的財産)を活用した EC サイトの利用促進やブランド価値向上を目的とした箱庭型シミュレーションゲームの『湖池屋 FARM 大豊作!』があります。

  • 株式会社セガ エックスディー提供資料より

このゲームは、「カラムーチョ」や「すっぱムーチョ」でお馴染みの『ヒーおばあちゃん』と『ヒーヒーおばあちゃん』など、湖池屋商品のパッケージキャラクターたちが登場し、ミッションをクリアしながら自分だけの農場をつくることができます。ログイン時やプレイの中でもらえるクーポンは、『湖池屋オンラインショップ』上で実際に利用できるので、プレイするとおトクにお菓子が買えます。

パッケージやCMでお馴染みキャラクターなのですが、実際にゲームで動く様子やデフォルメされた姿がかわいいとSNS等で反響いただきました。今までのクーポンは、メルマガなどで配布して利用するという方法がオーソドックスでしたが、そこにエンタメ要素を追加したのが『湖池屋 FARM 大豊作!』です。これまでとは違う顧客との新しい接点が生まれており、とても可能性を感じています。

――今後は平面のゲームではなく、メタバース化もできそうですね。『ヒーおばあちゃん』に会いに行けて、会話をしたり、肩を叩いたりできるとか。優しくするとクーポンをもらえたり、ある意味教育としても応用できそうです。

野尻氏:ゲームにすることで間口が広がり、またゲームは粘着性・再訪性が高いですから、顧客との関係をより深化させることもできると思います。

当社の事例ではありませんが、Eコマースでは「カードを集めると割引になる」「いつ行うかわからない期間限定・無告知のフラッシュセール」「みんなと力を合わせてクーポンをゲットする」などのゲーム要素を取り入れたケースもあります。

他にも、例えば楽天市場では、買えば買うほどポイントがアップする楽天お買い物マラソンや楽天スーパーセールなどを開催しています。「価格は高いけど、ポイント還元率を考えるとトータルではこっちのショップで買った方がお得になる」という風に、同じ商品でもどのショップで買うかによって結果が変わります。どう買い回ればよりポイントを得られるか、トータルでお得に買い物ができるかという作戦・戦略を立てる楽しみがあり、極めてゲーム的です。

町づくりやチームづくりにもゲーミフィケーションを活用

  • 株式会社セガ エックスディー提供資料より

――セガ エックスディーさんは教育・学習、マーケティング以外の分野でも、ゲーミフィケーションを活用したさまざまな事例をお持ちですよね。

野尻氏:当社では地方自治体からもご相談をいただいており、町づくりの事例を紹介します。地方自治体への会計支援を行う税理士法人あさひ会計様と、地方行政における「財政状況」「町の魅力」「町民の声」をインフォグラフィック化することで、町民にわかりやすく伝えることを目指したインフォグラフィックサービス『町ちがいさがし』を共同開発しました。

第一弾として、山形県金山町に協力いただきの『町ちがいさがし』を一般公開しています。金山町は、山形県東北部に位置し、農林業を主要産業に町土の78%が山々に囲まれ、美しい四季の移ろいが感じられる人口およそ5000人の町です。

冊子の表・裏表紙は、現在の町と20年後の町の「まちがい探し」になっており、冊子を読み進めることで、答え合わせの過程で町の取り組みや財政状況を知ることができます。現在、展開されている施策や税収の使い道が未来の町にどのような変化をもたらすかをゲーム感覚で楽しみながら理解を深めることができ、老若男女問わず町民の皆さんの理解を促すだけでなく、若い人が行政に関心を示すように工夫しています。今後、ワークショップなどに展開して「次の産業を若い人と一緒に考える」ような取り組みにもつながっていくと思います。

  • 株式会社セガ エックスディー提供資料より

町づくりだけでなく、チームづくりにもゲーミフィケーションは有効です。ノバルティス ファーマ株式会社様とは、『emotcha(エモッチャ)』というカードゲームを開発しています。

カードゲームを通じて、共感力やコミュニケーション力を養う社員教育コンテンツです。研修や入社オリエンテーション、社員教育プログラムだけでなく、日常の会議やチームビルディングなどでも活用できます。

話し手は、喜怒哀楽とトークテーマが記載されているカードを引き、テーマに即したエピソードを話します。聞き手は、話し手の様子や質問の回答によって感情のレベルを推測して当てるという遊び方なので、「質問力を高めるためのカードゲーム」とも言えます。少しシリアスなテーマや感情を出すのが苦手な人でも「カードが出ちゃったから話そう」という心理になり、普段のコミュニケーションでは話さないような内容でも「ゲームだから」で済んでしまうのがゲームの面白いところです。

ゲーミフィケーション×web3の可能性

――ゲーミフィケーションは、本当にあらゆる分野で応用できますね。web3界隈でもその有効性がよく言われますし、ビットコインのマイニングの仕組みも、ある意味ゲーミフィケーション的だと思います。NFTも、もともとはゲームの世界で生まれたものですし。

野尻氏:なぜweb3と相性が良いかというと、ゲームにはデジタルアイテムが不可欠だからだと思います。web3の定義は幅広いのですが、NFTで言えばまさにデジタルアイテムそのものです。「アイテムを手に入れることに対する欲求」はゲームユーザーには常にあり、そのためにユーザーがどう行動するかをゲーム開発では追求しています。

web3に内包されるNFTもブロックチェーンゲームも、まだまだニッチな存在ではありますが、「だれしもがおもしろいと思える」という状況になれば、普及は早いかもしれません。

web3におけるトークンは換金性があり、単なるゲーム通貨とは異なります。これまで、ゲームの世界はゲームの世界で完結する閉ざされた世界だったわけですが、ゲーム通貨を換金して日常生活でも使えるとなれば、新しい世界が広がっていくと思います。

――あらゆるものがトークン化され、解放されるようになると、「オンラインの世界」と「オフラインの世界」の境界線は溶け合っていきそうですね。

ゲーミフィケーション×メタバースの可能性

――では、「ゲーミフィケーション×メタバース」はどうでしょうか?

野尻氏:NFTもそうですが、メタバースの先駆けと言われるサービスの多くはゲームかと思います。今後メタバースが普及するきっかけがゲームになるのか、ビジネスか、SNSかはわかりませんが、いずれにしてもゲーム的な要素は多分に盛り込まれたものになりそうです。

ゲーミフィケーションの企画や、ブロックチェーン系のサービスでもそうですが、「インプットとなるデータをいかに取得するか」という問題があります。例えば、「バイクを運転した距離に応じてトークンを付与する」という仕組みを取り入れようとしたとき、「距離やハンドリングの測定をどうするか」という点がよく議論になります。IoT的にデータ取得はできるかもしれませんが、ハードウェアが欠かせず、コスト感や普及率に課題がでてきます。

しかしメタバースが普及すれば、そこはすべてがデータの世界です。メタバースで行われるあらゆる行動はハードウェア不要で捕捉できるようになるはずなので、ゲーミフィケーションの適用の幅も非常に広くなると思います。

このように、技術や社会の進歩に伴って、これまで幅広い分野でゲーミフィケーションを活用してきた実績・ノウハウをより活かすことができるようになると思っています。私たちは「ゲーミフィケーションと言えば、セガ エックスディー」というブランドを確立しようとしているところです。そう言うだけの知見が集積され、体系化されていますので、ラフなご相談もなにかしらのヒントをお返しできる会社です。すべてのプロセスにゲーミフィケーションを取り入れて、より良い社会をつくっていけたらと思います。