「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、ゲーミフィケーションをコアメソッドとしたCX(カスタマー・エクスペリエンス)デザインカンパニーである株式会社セガ エックスディーでプロダクトマネージャーを務める野尻昌仁氏に、ゲーミフィケーションとweb3・メタバースをテーマにインタビューを行いました。
野尻昌仁氏
セガ エックスディーが定義するゲーミフィケーション1.0と2.0
――野尻さんは、コンサルファームから現職のプロダクトマネージャーに転職されたとのことですが、コンサルファーム時代からゲーミフィケーションに関心があったのでしょうか?
野尻昌仁氏(以下、野尻氏):メタバースやweb3など、ネット発で新たなカルチャーが生まれている分野にずっと関心がありました。ゲーミフィケーションはそのいずれにおいても活用できるエンタメ分野のノウハウだと感じ、転職を決めました。
――「ゲーミフィケーション」という言葉に馴染みのない読者の方もいらっしゃると思いますので、簡単に解説もお願いします。
野尻氏:弊社では、「ゲーミフィケーション1.0」と「ゲーミフィケーション2.0」をそれぞれ定義しており、ゲーミフィケーション1.0はゲームに用いられている手法を他の分野に取り入れることです。ポイントや・バッジ・リーダーボードの導入が典型的です。
ゲーミフィケーション2.0は、さらに深いところに踏み込み、ゲームがもつ人の心を動かす要素を他の分野に応用していくことです。人を楽しませる、夢中にさせる要素や仕組みをさまざまな事業・サービスに転用していきます。オンラインサービスに限らず、あらゆる事業・サービスに応用できると考えています。
ゲーミフィケーションで企業、働き方、社会を変える
――ゲーミフィケーションは、意図してか意図せずしてかは別として、すでに社会や生活に溶け込んでいることもあると思います。例えば、ポイントカードは大手企業だけでなく、個人店でもデジタル/アナログを問わずありますし、これは応用行動分析学でいうトークンエコノミーです。ゲーミフィケーション2.0では、企業や働き方、社会にどんな変化をもたらしていくのでしょうか?
野尻氏:未来予測はできないのですが、みんながもっと毎日を楽しく過ごせ、社会が良くなるようにゲーミフィケーションの力で働きかけることができると思います。生きているとやらないといけないことはたくさんありますが、どこか義務感があり、楽しくないことも多いです。楽しくない理由には、「行動そのものが楽しくない」ことや、「環境や仕組みが楽しくない」こともあります。
しかし、ゲーミフィケーションを応用すると、「楽しくないこと」を楽しくできます。SDGsもESGも、リスキリングもアンラーニングも、楽しくできる人とできない人がいる。でもゲーミフィケーションを応用すれば、楽しくできる人を増やせます。一人ひとりの行動を良い方向に動かしていくためにゲーミフィケーションを活用することができ、働き方改革も社会変革も可能だと思います。
例えば雑草を刈ること、歯を磨くことなどは大半の人にとって楽しくない。でもゲームは楽しい。当然のことと思うかもしれませんが、ゲームが楽しいのも行為自体が面白いからとは限りません。「Aボタンを連打する」という行為自体は実は単調な作業に過ぎず、それが楽しいのはゲーム全体の仕組み・デザイン故だと考えます。ならば逆も言えるのではないか、というのがゲーミフィケーションの考え方です。
時にゲームやエンタテイメントは、自身の生活や人生の中心におくほど人を熱狂させる力があります。それほど強力な魅力や仕組みをビジネスや社会課題に応用し、良いサービス、良い体験が得られるサービスにこしらえるのがゲーミフィケーションの使い方だと思います。
ゲーミフィケーション×教育
――では次に、「ゲーミフィケーション×教育」「ゲーミフィケーション×マーケティング」の事例等についてお聞きできればと思います。
野尻氏:「ゲーミフィケーション×教育」でしたら、有名な事例は英語教育のレジェンド的存在である『Duolingo(デュオリンゴ)』です。フィードバックの気持ち良さやマイルストーンの設計、ステータスシンボル、トークンエコノミーなど、ゲーミフィケーションを巧みに取り入れています。正解するとポイントが貯まり、不正解でライフが減るといったゲーミフィケーション要素が特徴で、あまり気乗りしない、習慣化しにくい学習に対しても積極的に取り組めるように工夫されています。
教育・学習は、ゲーミフィケーションの採用例がもっとも多い分野と言って良いでしょう。『Duolingo(デュオリンゴ)』の他には、英単語の学習アプリの『えいぽんたん!』があります。学習するともらえるおやつでキャラクターを育てながら、TOEIC350~990点レベルの英単語を無理なく学習できるのが特徴です。英会話アプリの『OKpanda英会話』は、リスニングを中心としたアプリで、レッスンの達成度をキャラが教えてくれるなどのゲーミフィケーション要素を活用しています。
台湾のデジタル担当大臣として知られるオードリー・タン氏は、幼少期に弟のためにゲームを作ったそうです。「6分の5ってなに?」となかなか理解できなかった弟に、タン氏は棒の正しい場所を打つとクリアできるゲームを作り、学習を助けたと言います。ゲームは、正解や不正解、達成や未達成が可視化され、すぐに結果が出ます。「正解するとポイントやアイテムがもらえる」という結果がすぐに出ることが重要で、それによって学習するという行動が強化されるわけです。
計算問題が苦手で集中できない子どもに対して、「問題を1問ずつ切ってあげ、1問1問達成感を覚えさせる」といった工夫が先日SNSで話題になっていました。これはマイクロフィードバックの応用ですが、どうすればその行動が強化されるか?を考えて工夫することは、教育・学習だけでなく、仕事においても重要だと思います。
これらのゲーミフィケーションの要素を、行動経済学や行動分析学などで理論的に説明することもできるのですが、「とにかくおもしろいものを作ろう」という追求心・探究心の結果が、今のゲーミフィケーションと呼ばれるものだと思います。このような暗黙知がゲーム業界にはたくさんあり、それらを体系化してゲーム以外の分野にも応用していくことが私たちの役割です。
障がい者雇用で欠かせない合理的配慮をゲーミフィケーションで学ぶ
――野尻さんは、障がい者雇用や受け入れで必要な合理的配慮を学べる『ズバリ 気配り アニマッチ』というボードゲームの企画開発を担当されたのですよね。
野尻氏:はい。東京都ビジネスサービス株式会社様からお問い合わせをいただき、それをきっかけに共創することができました。東京都ビジネスサービス株式会社様は、障がい者雇用に取り組む事業者向けに研修プログラムをご提供しており、そこにボードゲームを取り入れることでより効果的に学べるようにしました。障がい者雇用では欠かせない「合理的配慮」の考え方(個人に向き合い、話をしっかりと聞き、適切なサポートを行うこと)やその重要性をゲームで楽しみながら自然と習得できます。テーマをヒアリングし、テストプレイをくり返しながら開発しました。
「ゲームをすると知識を得られる」というだけでなく、ゲーム体験そのものが学びになっています。合理的配慮の感覚を実体験・疑似体験して理解を深められるのも、『ズバリ 気配り アニマッチ』の特徴です。
(後編に続きます)