「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、総合コンサルティングファームのアビームコンサルティング株式会社でシニアマネージャー/web3コンサルタントを務める森田直樹氏にインタビューを行いました。
課題解決から発見思考と価値創造へ
――FTX騒動最中(2022年11月取材時)のweb3をテーマにしたインタビューで恐縮ですが、本日は宜しくお願いします。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
森田直樹氏(以下、森田氏):アビームコンサルティング株式会社という、1981年に設立された私と同い年の総合コンサルティングファームでシニアマネージャーをしています。最近は「web3コンサルタント」という肩書きも名乗っており、GuardTech検討コミュニティ主催の第5回GuardTech勉強会「保険×メタバース! ~Web3がもたらす新たな顧客体験とは?~」というイベントに弊社から2名が登壇し、中島さんもそのイベントで講演とパネラーをしていたことがご縁でこの取材に至っています。
アビームコンサルティング株式会社は、「マネジメントコンサルティング(経営診断・戦略立案・M&A・アライアンス)」「ビジネスプロセス コンサルティング(業務改革・組織改革・アウトソーシング)」「ITコンサルティング(IT戦略・企画立案・システム開発・パッケージ導入・保守)」「アウトソーシング」などの事業領域があり、私は金融ビジネスユニットに所属しています。
これまでは、クライアントの顕在化している課題・問題に対して解決策・戦略を立案することがコンサルティングファームの主たる仕事でしたが、昨今は顕在化している課題・問題に加え、課題・問題そのものを見つける「発見思考」や、クライアントとともに共創しながら「価値創造」していくことが、コンサルティングファームとしての仕事や役割、パーパスになっています。
私が所属する金融ビジネスユニットも、クライアントの経営アジェンダに寄り添いながらオペレーションやシステム観点での課題・問題解決に加え、金融コンサルタントのプロフェッショナルとして「未来の金融の在り方」を探索し、クライアントと一緒にその実現に取り組んでいます。そのひとつがBeyond Financeという活動で、将来の環境変化を想定したときに金融機関が対応すべきことについて日々議論を繰り返しています。そのような背景の中、リーダーに抜擢されたこともあって「web3コンサルタント」という肩書きも積極的に使うようになりました。
――森田さんは、ずっとコンサルティングファームにいらっしゃったのですか?
森田氏:バックボーンはエンジニアです。保険会社向けのシステム構築をしていました。2007~2008年頃のことと記憶しているのですが、当時かなり苦労してつくったシステムが現場では思ったほど使われないという経験をしました。その後、保険会社に出向して開発側から使用する側へ回って現場を経験すると、そこで初めて、「使われない理由」がわかったんです。出向先での経験から、「必ずしもシステムじゃなくても解決できることがある」と考えるようになりました。それでコンサルタントに転職しました。
――なるほど、そういった原体験が今につながっているのですね。ブロックチェーンもそうですが、「技術ありき」で物事を考えてしまうと、バイアスがかかって目が曇ってしまうことがあると思います。もっと多角的に、多重視点でみて捉え、課題解決や価値創造につなげていく思考が必要で、web3にも言えると思います。
CryptoNinjaやSTEPNでweb3の世界に
――森田さんは、アビームコンサルティング株式会社の公式サイト(オウンドメディア)でweb3に関する情報発信もされていますが、どんなきっかけでweb3と出会ったのでしょうか?
森田氏:前述のBeyond Financeには、「社会的価値への対応」と「デジタル化への対応」という2軸があります。社会的価値への対応は、近年の価値観の変化や多様化に対し、金融がどのようにあるべきかを検討する軸です。例えば、脱資本主義などの資本主義の限界について書かれた本や論文をたくさん読み込みました。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授で、経済思想・社会思想が専門の斎藤幸平氏が書かれた『人新世の「資本論」 (集英社新書)』や、斎藤幸平氏が編集を担当した『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐 (集英社新書)』などもとても参考になりました。
デジタル化への対応は、ブロックチェーンがその象徴です。ビットコインは、世界中の技術者が手弁当で開発・改良を加えました。「分散型」という概念も面白く、この大きな時代の流れは間違いないと感じています。それで、1年ほど前にVoicyという音声プラットフォームでCryptoNinjaを知り、その後に2022年の上半期に話題になった、歩いて稼ぐSTEPNを知りました。操作がわかりにくかったのですが、メタマスクでウォレットをつくってイーサリアムを買って送金して…という一連の操作も体験しました。トークンの値上がり期待という面もあったのですが、健康のためのトークン活用やSTEPNコミュニティにもとても魅力や可能性を感じていました。
――その後、STEPNブームは超高速で過ぎ去った感を覚えている人も多いと思いますが、森田さんはどう感じていますか?
森田氏:ブームという繁栄と、その後の衰退を両方経験できたのは、とても良かったと思います。衰退してもコミュニティは顕在で今も活発ですし、私自身ウォーキングという習慣は残りました。ブームの一側面だけを見ると、「もうSTEPNは完全に終わった」と感じてしまうかもしれませんが、SNS等の情報だけに惑わされず、しっかりと事実(ファクト)を見ていく見識眼が必要だと思います。
――STEPNなどの新しいユースケースだけでなく、ビットコインなどの主要暗号資産にも同じことが言えますね。FTX騒動で暗号資産市場は下落していますが、「クリプトの冬」は定期的に訪れますし、また夏も来ます。ストレステストのようなもので、これくらいの暴落はよくあることですし長期で見れば誤差です。
2014年のマウントゴックス事件のときは、「ビットコイン倒産」などの見出しがメディアにも出ていて、ビットコインについての正しい理解が浸透していなかったと思います。しかし今回のFTX騒動は、マウントゴックス事件から8年が経ち、理解の浸透も随分進みました。「一事業者の破たんにすぎない」と冷静に見ている人が増えたという印象です。普段から暗号資産を批判している人は、騒動や暴落が起きるとここぞとばかりに叩くのですが、それでもビットコインは止まることなく不死鳥のように復活していますから。
世界は確実にweb3に進んでいる
――2022年11月初旬に、Singapore Fintech Festival(以下、SFF)2022が開催されましたが、森田さんも参加されたとか。
森田氏:はい、参加してきました。SFFはシンガポール金融管理局(MAS)主催で2016年から開催されている世界最大級のフィンテックイベントで、2022年で7回目の開催です。オフライン開催は3年ぶりだったようで、6万人規模の参加者が集まっていました。登壇するスピーカーが850人超、展示が約450社、さらに25の国際パビリオンもあってかなり大規模でした。登壇者には、グラブCEOのアンソニー・タン氏やバイナンスCEOのチャンポン・ジャオ氏、イーサリアムの考案者のヴィタリック・ブテリン氏なども来ていました。
会場で感じたには、世界は確実にweb3に進んでいるということです。世界中のお金と人がweb3に流れ込んでいます。例えば、
・暗号資産の時価総額は1.2兆ドル
・保有者は世界の3億人以上
・2021年のベンチャー・キャピタル投資額は300億ドル
・CBDC(中央銀行デジタル通貨)を探索中の国は100か国
・LinkedInのweb3従事者は、前年比4倍(2021年)
・月間アクティブ開発者は、前年比2倍(2021年)
さらに、SFFのスポンサー8社のうち4社がweb3企業でした。2022年のSFFは、ESGファイナンスを中心とするGreen Techゾーンとweb3ファイナンスを中心とするFintechゾーンに分かれていたのですが、立ち見が出るほど集まる人が多く、より熱量を感じたのはweb3ファイナンスのゾーンでした。
――イベントで印象に残った言葉などはありましたか?
森田氏:「金融のリデザイン」というフレーズを至るところで耳にしました。来場していたローレンス・ウォン副首相兼財務大臣は、開会スピーチのなかで、SGFinDex(2020年導入の政府機関や銀行等を横断した個人金融情報統合管理プラットフォーム)に保険会社のデータを追加すると発表していました。一見すると国家によるデータ独占のような印象を持つのですが、彼らとしては、データ自体を公共財化することで、民間各社の様々なイノベーションが促進され、金融サービスの新しい姿に繋げる、といったことを目指しているように感じました。この意味で、SGFinDexの拡張はシンガポール流web3ともいえるのかもしれません。
(後編に続きます)