「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、「不動産取引の透明化と高い水準の不動産取引構築を作り、多くの若者が世界を見据えた不動産人生に興味を持ってもらう」という個人ミッションを掲げる、Property Access代表の風戸裕樹氏にインタビューを行いました。
風戸裕樹氏
不動産仲介からファンド会社へ
――風戸さんは、個人のミッションとして「次世代のために不動産取引を透明化してクリーンでクールな業界にする」という言葉を掲げられていて、会社のミッションとして「世界不動産取引の透明化・流動化により人を幸せにする」「クロスボーダー プラットフォーム×不動産のプロを増やす」という言葉を掲げられています。いずれも、投資家だけではなく不動産業界を担う後進の人たちへ向けた言葉が含まれていて、風戸さんの人柄や使命感が表れていると思いました。今日は、風戸さんの不動産人生についてもぜひ教えてください。
風戸裕樹氏(以下、風戸氏):私の不動産人生は、実需向け仲介からスタートし、不動産投資ファンド、不動産テック(ソニー不動産)、海外不動産取引と発展してきました。もともと不動産に興味があったわけではなく、大学の頃の就活前にエンジニアとして働いていた父が病気になり、まだ50歳前だったのですが、真面目な勤め人だった父が働けなくなる姿をみました。それで、「なにかがきっかけでやりたい仕事ができなくなることがある」と感じて。自営業なら責任はありますが自由度が高い。それで、独立・起業は頭にあったのです。不動産屋さんってどこにもありますし、不動産は生活の一部でとても身近な存在。独立しやすそうと考えて、不動産業界に魅力を感じました。
就活をしたのですが、内定はもらえず。就職氷河期ということもあり、大手の不動産開発会社の面接は全滅でした。結局、不動産仲介会社に入社を決めました。オークラヤ住宅という、首都圏の中古マンションの買取再販・仲介を行っている会社です。同期は男性10人、女性30人で、早稲田出身は営業マンでは私だけでした。朝から原付に乗ってチラシ配りをし、オフィスではテレアポの日々です。学歴なんて関係なくて、まさに忍耐の仕事でした。1年目でノルマを達成して新人賞を獲得できました。先輩がつきっきりで仕事を教えてくれて、今でもとても感謝しています。
その頃、有名な「金持ち父さん貧乏父さん」の本を読んで、投資用不動産に対する考え方に感銘を受けました。「自分は不動産屋なのに、投資用不動産の視点がない」と痛感して、クリードという不動産ファンド会社に転職しました。
私が転職した2006年当時は、ファンドバブルの真っ只中でした。北海道から九州まで、不動産ファンドに入れるために、5億〜100億円の物件の購入検討から契約決済まで任されました。物件資料の整理、投資計画書の作成、稟議など、不動産ファンドに関する実務スキルを吸収していった時期です。
全国を飛び回ったおかげで、各地にコネクションができました。その後、ファンド会社のダヴィンチアドバイザーズにヘッドハンティングされるのですが、リーマンショックが起こります。
リーマンショックが人生の転機になった
――やはりリーマンショックの後、不動産マーケットも怪しくなってきたのでしょうか?
風戸氏:リーマンショック直前から、不動産マーケットは怪しくなってきていたと思います。リーマンショック後、以前働いていたクリードは倒産し、仕事をしていたダヴィンチでも希望退職を募ることになりました。それで、まだ独立する自信はなかったのですが、真っ先に手を上げたのです。
起業の構想は、リーマンショック前からありました。起業して実現したいと思ったのは、
1.賃貸手数料は無料にできると思っていたので、そのサイトをつくること
2.不動産を売るときに最も良い条件で買主を見つけてくる売却のシステム構築
3.投資用不動産をファンド会社にいる投資責任者レベルで個人投資家へコンサルすること
という3つです。不動産投資は、不透明な部分、情報格差を感じる部分が多々あります。個人投資家と機関投資家でスキルの差があり過ぎると感じていました。それで、投資のリテラシーを引き上げたいと思ったのです。
リーマンショック前に、カリフォルニアの大学を出た友人とディスカッションをしていて、起業したらこれらの実現を目指したいと考えました。
また、投資家だけではなく、不動産業界で働く人のリテラシーも引き上げていきたいとも思いました。不動産営業の現場の人は、売ることだけで経済について学ぶ機会もないのです
シンガポールから東南アジア不動産を視察
――起業してすぐに海外不動産に目を向けたわけではなかったのですよね?
風戸氏:2つ目に挙げた売却のシステムのビジネスを行っていました。「売却のミカタ」というシステムで、これがやがて日本全国に広がって、ソニー不動産になったのです。 たまたまお客様にソニーの方がいて、食事をしていたら社内ベンチャーの話になって。そんなご縁から自らがソニー不動産の設立に関わったのちソニー不動産へ会社を売却し、ソニー不動産(現 東証プライム上場のSREホールディングス)へ社員と一緒に参画しました。 ソニー不動産では、ソニーからきた優秀な人たちと、不動産の未来を議論できる機会があって、とても刺激的でした。彼らは常にアップルやアマゾン、サムスンといった海外の巨人たちを見据えながらビジネスをしています。ソニー出身のメンバーが「アマゾンやアップル、グーグルが不動産に参入したら、どう戦う?」というシンプルな問いを投げかけてくれて。
私自身も世界をそこまで知っているわけではないですし、知識や見えている世界にギャップがあると感じました。それで、「世界を見に行こう」と。
最初はヨーロッパを考えたのですが、シンガポールから東南アジアを見て回りました。その後2017年に、シンガポール在住のフィリピン人と一緒に今の会社を起業することになるのですが、最初は「不動産留学」のイメージでまずは現地に行く、いろいろな人と会うということをして学んでいきました。
シンガポールに家族と住みながら、半年くらいASEANを回って、タイとフィリピンでは実際に物件を買ってみました。その後、マレーシアでも物件を買っています。各地でネットワークができ、仲介をするよりも現地のデベロッパーを直接日本に呼んだ方が良いと思うようになって。それで、『インターナショナル不動産&投資カンファレンス』をライフルホームズさんと共催で開催しました。2017~2018年に、東京と大阪で計3回開催しています。
現地のデベロッパーは日本のマーケットにすごく期待しているのですが、クロージングはできません。投資家としても「怖くて買えない」となる。自然と、販売の協力オファーが来るようになりました。自分が買った物件も利回りが出ていましたので、2019年からはフィリピン・マレーシアを中心に不動産コンサルティングを行うようになっていきました。
海外不動産投資の課題をファンドで解決
――そうしたこれまでの経験が、今回のフィリピン不動産ファンド「Indigo Narra Fund 01(インディゴ・ナラ・ファンド01)」の組成につながるのですね。
風戸氏:そうですね。Indigo Narra Fund 01は、現地の⼤⼿財閥グループ企業が開発するマニラ⾸都圏オルテガスエリアの新築タワーマンションが投資対象です。ご存じのとおり、フィリピンには1億903万5,343⼈の人口がおり、マニラ⾸都圏の⼈⼝は約1,348万⼈(2020年フィリピン国勢調査)。2015年の調査時と⽐較しても、⼈⼝は805万3,906⼈増加しています。平均年齢は24歳と若く、中⻑期的な⽣産年齢⼈⼝の増加が安定した需要を⽣みます。そのため、東南アジアで最も⻑い⼈⼝ボーナス期とされ、有望な国のひとつです。
――ファンド組成のきっかけは何だったのですか?
風戸氏:海外不動産投資の課題として、ローンが挙げられます。ローカルの金融機関では金利が高くなってしまいますし、日本の政策金融公庫から融資を受けることも可能ですが、ハードルが高いです。それで、不動産を小口化したいと思っていました。
「ファンド化できる」と証券会社の人が言ってくれて、スキームやリーガルについて調べ始め、2022年3月にフィリピン不動産ファンドとしてIndigo Narra Fund 01を始めることができました。おかげさまで、発表当日に完売しました。
――海外不動産投資は、日本の不動産投資と比べれば当然ハードルが高くなり、やらない理由になりますよね。ファンドに投資したことをきっかけに現地へ行ったり、ファンド以外にも現地で不動産投資をするとか。そういったきっかけになれば良いですね。
風戸氏:そう思います。私たちは、東南アジア不動産取引を「安心」で「スムーズ」にしていきたいと考えています。そのためには、未整備地域のデータ収集と構築、不動産の小口化等による流動化、エージェントレベルの向上と流動化が欠かせません。
海外不動産投資はまだまだ普及していないのですが、資産分散の一環で海外不動産を保有することが日本人にとってももっと普通になってほしいと思います。しかし、「出口戦略がない」「管理してくれる会社が少ない」という面もあります。日本人がローカルの人に売却したり、日本人でもローカルでもない第三国の投資家に売却したりすることもできるように、オンラインプラットフォームやポータルサイトも開発しています。今はコロナの影響もあって国際間の移動にはハードルがありますが、落ち着けば一気にニーズは増えると見込んでいます。
ファンド2号も年末にローンチする予定でいますし、今後は不動産の小口化としてファンド以外にNFT不動産にも取り組んでいきたいと構想しているところです。
高い視座で不動産業界を見られる人と一緒に仕事をしたい
――それは楽しみですね。「NFT不動産」というと高額取引ばかりが取り上げられるのですが、NFTはデジタル証明書ですから、不動産と相性は良いと思います。小口化にもピッタリですね。新しいことにも挑戦し続けている風戸さんですが、どんな人と一緒に仕事をしたいですか?
風戸氏:私は、これまでの経験を通じて不動産という業界を愛するようになりました。だからこそ、これから不動産業界で働く人を増やしたい。「不動産業界ってクールだな」と感じてもらい、この業界に入って活躍してくれる人を増やしたいです。
不動産って地域密着型のローカルビジネスなのですが、業界の人にはもっと視野を広げてほしいと思っています。今は円安で、日本は先進国から没落しやすい環境になります。けれど、個人として成長を止めてはいけない。日本社会が低成長になっているとしても、それは個人の成長とは関係ないことです。視野を日本に、ローカルに留めず、世界に広げて、世界で活躍できる日本人を増やしたいと思います。現状に甘んじることなく、広い視野と強い意欲を持った人と仕事をしたいですね。うちの場合、日本に居ながら仕事を通じて海外との接点を持つことができますから。