「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回のテーマは、最近注目を集めているWeb3(Web3.0)について。本連載の第31回第32回でインタビューさせていただいた、ビットバンク株式会社 代表取締役CEOの廣末紀之氏への取材を交えながらお伝えします。

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Web3とDAO

「Web3」は新しい時代の分散型インターネットと呼ばれ、2021年頃からトレンドワードになっています。これまで、暗号資産(仮想通貨、クリプト)やブロックチェーンの領域で活躍していた企業が、「Web3企業」としてリブランディングしている最中です。そして、Web3を語るうえで欠かせないのがDAO(自律分散型組織)です。DAOについては、第11回の記事をご参照ください。

まだ定義も曖昧なWeb3ですが、暗号資産業界を牽引し続けた「Web3第一世代」とも言えるビットバンクの廣末さんは、どのように見ているのでしょうか。

「Web3の定義はさまざまで、個人的な理解では『分散型インターネットサービス』の総称がWeb3だと思います。Web3が生まれた背景にあるのは、やはりビットコインが分散型ガバナンスに対し、その実証を通じて、問題提起したこと。意思決定は、必ずしもトップダウン、中央集権でなくても良いのです」

「ビットコインを知ったときに最初に感じたのは、『資本主義の根本的な構造に対する問いを投げかけている』ということです。資本主義は、資本家・株主がいて、資本家のために労働者・従業員がいる、という構造があり、有能(とされる)人を資本家・株主が選出をして、その意思決定に労働者・従業員が従う。資本主義が生まれ、資本効率が改善され、成長を実現してきた実績があるわけですが、その反面、GAFAを中心とした一部の中央集権型大企業に支配される構造、一部の資本家が世界の大半の富を独占する構造などが、本当に良い仕組みなのか? みんな幸せになっているのか? という本質を問うたわけです。実際には、対立が生まれることもあり、例えばアメリカでは経営陣の報酬と社員の報酬との乖離が原因でトラブルになるケースもあります」

「ところがビットコインは、株主総会も取締役会もないのに、関わっている人たちが総じてハッピーになっている。ビットコインを保有するホルダーが顧客であり、株主でもある。マイナーやコア開発者などは社員であるとも言えますが、ビットコインを受け取りますからホルダーでもあります。このような分散型ガバナンスの構造を証明したのがビットコインで、株式会社、ひいては国家までも同じことができるのではないかと感じました。そしてDAOという組織の在り方が生まれ、Web3に発展したわけです」

私(筆者)はよく「ビットコインの誕生は、既得権や旧来の体制に対するアンチテーゼであり、音楽で言えば70年代後半のパンクロックのようなもの」と説明しています。

GAFAのようなテックジャイアンツは、Web2時代の象徴であり、プラットフォーマーなどと呼ばれる存在です。スタートはスモール企業だったわけですが、今ではある意味では国家を超えるほどの企業になりました。いろいろなものが集約されてしまうがゆえに問題も起こっており、既得権化したWeb2企業へのアンチテーゼがWeb3企業の台頭なのかもしれません。パンクロックも当時は不良の象徴でしたが、今では立派な音楽ジャンルの一つです。時代とともに、考え方は変化するのが自然の流れです。

「GAFAのような中央集権型のサービスでなくても良いのでは?」という声の高まりが、Web3につながったのでしょう。廣末さんが以前インタビューで仰っていた、「集中化と分散化をくり返している歴史」の流れであると感じます。

「いきなりDAO」と「だんだんDAO」

廣末さんは、「DAOは2016年頃に生まれ、分散型で投資判断する投資ファンドであるTHE DAOがスタートでした。ハッキングされて立ち消えになりましたが、フラットでフェアな組織体という意味では画期的で意味があったと思います」とDAOの誕生を語ります。

そして「アメリカではDAOが法的な組織として認められる動きも出てきており、ルールができるのは良い面もあると思います。しかし一方で、矛盾も抱えることになるでしょう。小さな組織であれば、中央集権型の方が意思決定も早く良いこともあります。最初は中央集権型でスタートして、規模が大きくなってきたらDAOにしていくというのも方法の一つです」とも仰います。

私(筆者)はDAOを説明する際、「起業して独立したら、最初は究極の中央集権とも言える個人。やがて人を雇用したり提携したりして、人が増え、組織になる。30名くらいを超えると、1人ではマネジメントしきれなくなるので階層ができる。部長やマネージャーというポジションができ、権限委譲する。やがて、社長が意思決定するのは会社の一部分になり、意思決定が分散化していく。そして、分散化の極致がDAO」とお伝えしています。

ビットコインは、株式会社などの法人がありませんから「いきなりDAO」です。一方、イーサリアム財団のようにDAO化していくことを目指す組織もあります。これは「だんだんDAO」と呼べるでしょう。ビットコインの本質を知れば、必然的に形態がDAOになっていくのかもしれませんね。

廣末さんは、「ビットコインに触れながら、株式会社で中央集権型の取引所を運営しているという自己矛盾を抱えています。一部の資本家だけが恩恵を受けているような資本主義は局面によっては必ずしも良いとは思えません。極論ですが、フェアとは対極にある存在かもしれません。ビットコインがデジタル上でその実現可能性について証明しましたので、Web3やDAOで社会の構造変革が中長期的に進むのは間違いありません」とも語っています。

私(筆者)は、利害関係が末永く続く関係が一番良いと感じています。例えば海外不動産の場合、仲介会社は売ったら終わりです。スポットで自分の利益を取ったら「はい、さよなら」でアフターフォローはないケースが多い。それでは詐欺も横行しますし、情報格差を利用した商売でしかありません。「相手が儲かり、自分も儲かる」というフェアな関係が持続することが重要で、ビットコインのホルダーとマイナーの関係性はそれを体現していると思います。

Web3時代における取引所(CEX)が果たす役割

暗号資産の取引所には、CEXと呼ばれる中央集権型の取引所とDEXと呼ばれる分散型の取引所があります。ビットバンク社を含む国内の取引所は、いずれもCEXです。「分散型」という概念や仕組みが広まるWeb3時代において、CEXが果たす機能や役割はどうなっていくのでしょうか。廣末さんはこのように語ります。

「いわゆる取引所と呼ばれる暗号資産交換業者は、日本の法律上、交換のサービス領域に限定されています。私はよく、取引所は暗号資産のISP(インターネットサービスプロバイダー)であると表現しています。暗号資産の世界のゲートウェイであり、Web3のゲートウェイでもあります」

「暗号資産のユースケースは、NFTやGameFi(Play to Earn)、Move to Earnなど増えています。法定通貨(フィアット)の出し入れは取引所でしかできませんから、増え続けるさまざまなユースケースの入口と出口になるのが取引所だと考えています」

「また、ビットコインやイーサリアムなどのトークンの保管という機能も担います。信託銀行などでも、やがて可能になっていくと思います。私も取引所を含め複数のウォレットを持っていますが、長期保管用や決済用などで使い分けています」

ビットコインなどの長期保有を前提とした場合、鉄壁のガードになるのは『秘密鍵をペーパーウォレットにして複数の貸金庫で保管する方法』でしょう。メリットは2つあり、ハッキングリスクをほぼなくせることと、余計な投資話に即座に乗っかるリスクを軽減できることです。送金するためには、わざわざ貸金庫に行って取り出し、オンラインにする必要がありますからね。