「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、クリエイター集団Konel(コネル)/クリエイティブテクノロジスト・知財ハンターの都淳朗氏にNFTやテクノロジーアートについてお話を伺いました。

都淳朗(みやこ あつろう)氏

Konel クリエイティブテクノロジスト・知財ハンター/1996年生まれ。テクノロジーを起点に、プロダクトデザインやアート、インスタレーションなど、領域や手法に縛られずに、新たな価値観の創出やプロトタイピングによる未来の実装を行う。

NFTアート・100 COPIED BANANASの着想

――本日はありがとうございます。都さんはマイナビ主催のビジネスコンテストでの受賞歴もあり、ビジネスアイデアも豊富な方という印象なのですが、ご経歴やKonelに辿り着いた経緯、100 COPIED BANANASの着想点などについてお話を聞かせてください。

都淳朗氏(以下、都氏):大学ではデザインを専攻しており、3Dプリンター用の素材開発の研究もしていて、院生の頃から3Dスキャナーや3Dプリンターを使っていました。当時から3Dプリンターに対して、「新しい価値を生み出せそうで、もっと活用方法に可能性がありそう」と感じていて。それで、「なら、自分でどんどんやろう」と思って、3Dプリンターを使った作品をつくっていました。

――もともとモノづくりは好きだったのですか?

都氏: そうですね。幼い頃からモノづくりや表現することが好きでした。徳島出身で、工作をよくしていたり、地元で行われる阿波踊りでは鳴り物(楽器)を担当したりしていました。大学時代はバンド活動をしていたこともあります。母親もずっと音楽活動をしていて、その傍らハンドメイド活動をしていたり、ハンドメイド作品をセレクトショップに置いてもらっていたり、そういう光景を幼いときから見ていたので影響を受けているのかもしれません。

――12月にリリースした『100 COPIED BANANAS』も、コンセプトが面白いです。発案も制作も、都さんが担当されているんですよね?

都氏: はい、そうです。『100 COPIED BANANAS』は、市販のバナナを3Dスキャンして、そのデータをもとに3Dプリント、それを更に3Dスキャン、3Dプリントするというコピーサイクルを繰り返して、100回デジタル複製したものです。発案は私ですが、エンジニアやデザイナーなど様々な職種のクリエイターがコラボして実現したプロジェクトです。

その100本のバナナの3Dデータを、NFTストア『100 COPIED BANANAS』で一斉オークションにかけました。複製によって価値がどう変化するのかという実験です。

――NFTは、2021年の流行語としてノミネートされましたし、旬なキーワードですよね。どんなところから、『100 COPIED BANANAS』を着想したのでしょうか?

都氏: 実は、院生の頃に原点があります。「複製(コピー)することで劣化させていく作品」が紙のプリンターではすでにあったので、「じゃあ、3Dプリンターと3Dスキャナーでも似たことができるのではないか?」と考えました。安価な3Dスキャナーで実験したところ、劣化する現象が確認できましたが、スペック的に5回くらいの複製が限界で。もっと複製を繰り返すとどうなるのか、その劣化したバナナを見て人はどう思うのか気になり、いつか100回複製してみたいなと思っていました。

  • 『NFTアート・100 COPIED BANANAS』とは?

年齢や社歴を問わず挑戦できるKonelの環境

――Konelには、どんな経緯で入社したのですか?

都氏:インターンがきっかけですね。大学ではデザインを専攻しておりメーカーに就職する同級生が多かったのですが、私はいつもジャンルに囚われないものづくりをしていたからか「ベンチャー企業が向いてそう」と同級生からも言われていました。

8人くらいの別のベンチャー企業(3Dプリンターを活用したサービスのディレクション会社)にインターンで入ったこともあって、その会社ではディレクターとして提案も経験することができました。高額な工業用の3Dプリンターを使えたので、すごく楽しかったです。3Dプリンターでトロフィーや建築模型、展覧会で使用する一点モノなどをつくっていました。

それで、「自分でももっと手を動かしてつくりたい」という欲求が沸々と湧いてくるようになって。大学院の2年生の頃にKonelを知りました。Konelはユニークなアウトプットをたくさんつくっており、「良いものをつくりたい」という想いを全員が持っているレアな集団で、まだ入社したばかりですが1年目でもいろいろとやらせてもらえています。

――年齢や経歴を問わず活躍できる会社が増えましたよね。『100 COPIED BANANAS』は入社してすぐに?

都氏:そうですね。「100回コピーしたい」と思っていたのですが、自分の3Dスキャナーではできなかったんです。入社してすぐにNFTが世の中に広まってきて、「データに価値を持たせることができる」「その価値をNFTで流通させられる」という環境ができてきて。100本のデジタルバナナにナンバリングしたら、「1と100は、どちらに高い価値がつくのかな?」と疑問に思って、それを実験したいなと。

それで、社長に提案したら「やってみて」となって、3Dスキャナーを買うところからスタートしました。まずは40万円くらいの3Dスキャナーで良いと思っていたのですが、結局一番高い150万円くらいのものを買わせてもらえて。入社1カ月くらいのことなので、すごく有り難かったですね。NFTに取り組みたいという会社の意向と合致していたのも良かったです。

――なんて良い会社なんでしょう。恵まれましたね。それで、3Dスキャナーが届いてからはコツコツと制作を?

都氏: はい。1日に2~3個しかつくれないので、出社したらまずは複製作業の毎日でした。複製も30回を過ぎたらきつくなってきて…苦行とまでは言いませんが飽きてきちゃいましたね。100回目では、謎の達成感を味わえました。マラソンみたいなものだなと。最後の方は無の心でやり切りました。「100回複製する」というのも、自分で決めたゴールですからね。

テクノロジーとアートは密接な関係にある

――ところで、なぜ複製するモチーフが「バナナ」だったのですか? ポップアートのアンディ・ウォーホルを連想したりもしますが。例えば、セザンヌのリンゴとか、ゴッホのひまわりとか、特定のモチーフを連作として描いた画家も多いですよね。なにかバナナに思い入れがあったのでしょうか?

都氏: バナナがちょうどいい最適解だったんです。既製品の複製ではダメで、有機物が良いと考えていました。フレッシュで、みんなが知っているもの。それでいて、形の変化が出やすいのがバナナでした。変形するのが面白くて、リンゴのような球体よりはディティールがあるものが良かったんです。大きすぎると複製が大変なので、バナナがちょうどいいモチーフでした。

複製された100本のバナナを見てみると、グラデーションのようになっていてどこかで急に変わるわけではないことに気づきました。例えば、91番目と92番目を入れ替えても、私にもたぶんわからない。3~5回くらい複製すると、なんとなく変化がわかります。

これって、「変化」なのか「劣化」なのか「進化」なのか「退化」なのか。私にはわからないのですが、それは見てくれた人が決めてもらえば良いかなと。100番目から見ても良いですし、1番目からでも50番目からでも良いんです。

それで、1から100まで並べてみたときに、「1番により高い価値がつくのか」「77番なのか」「100番なのか」、そんな実験がしたくて。実際にいくつか売れているのですが、特に法則性はなくランダムに売れているのが面白いです。

――面白い実験ですよね。絵画に連作があるように、映画にシリーズがあるように、バナナの複製を100回ではなく1000回まで続けてそれを連作としても良いですし、2022年度版とか2023年度版とかオリジナルを変えて複製をつくっても良いですしね。

都氏: 複製の回数と年度の2軸の連作ができますね。複製したものを色付けして、それをまた複製していくこともできますから、それも別の連作と位置付けることもできます。「どのパターンの連作(シリーズ)のどのナンバーに高値がつくか」といった実験もできそうです。いろいろとアイデアが湧きますね。アート作品として評価されたいというよりも、より多くの人に今ここでできるアート作品として知ってもらいたいです。作品づくりが社会とのコミュニケーションの手段ですし、NFTが作者とコレクター、社会との接点になると考えています。

――良いですね。NFTの誕生は、やはり大きな変化ですよね。都さんが取り組んできた3Dスキャナーや3Dプリンターも新しいテクノロジーですし、NFTやブロックチェーン、トークンもそう。歴史をひも解けば、モネやルノアールなどで有名な印象派はチューブ状の画材ができたことで外でも油絵を描けるようになった。これもテクノロジー(技術)の力が生み出した表現方法の変化です。カメラオブスキュラがなければ、フェルメールの絵画はなかったかもしれない。カメラができたことで写真を撮れるようになりましたし、映画もそう。インスタレーションやプロジェクションマッピングなど、メディアアートやデジタルアート、現代アートと呼ばれるジャンルも同様ですね。テクノロジーとアートは、いつの時代も切り離せない関係ですね。

NFTが生み出すであろう未来の仕事

――都さんは、NFTに対してどんな期待を寄せていますか?

都氏:NFTは、アート以外のあらゆるものに適応されて、それに伴い新しい職業がどんどん生まれると思います。まだプラットフォームの開発・運営やNFTの発行などが主ですが、今は想像できないような仕事が今後は増えると思います。

アートの領域でも、デジタル修復家が増えていくかなと思います。古くなったアンティークのNFTアートを修復したり、解像度を上げたり……技術の進歩とともに常に解像度は上がっていきますから、その時代に合った解像度にプラッシュアップしていくことも仕事になっていくかもしれません。

――それはデジタル修復家か、洗練家?とか呼ばれるのかもしれませんね。NHKがアーカイブ事業を始めたときに、フィルムの映像を取り込んで傷などをデジタル修復する仕事がありました。それはアナログからデジタルへの移行だったから生じた仕事ですが、解像度が上がっていけば、デジタルでもそういう仕事は生まれそうですね。

都氏:そうですね。今後が楽しみです。NFTはメタバース上で取り引きされるようになっていくと思いますし、リアルな世界と連動するような作品も生まれて、今まで価値のつかなかったものにも価値がつくようになっていくかもしれません。そういう未来をつくっていきたいですね。