「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、中小企業経営者から絶大な信頼を置かれる株式会社しのざき総研・代表取締役の篠崎啓嗣氏にインタビューを行いました。
株式会社しのざき総研 代表取締役/篠崎 啓嗣(しのざき ひろつぐ)氏
1993年 東京経済大学 経営学部卒業
1993年 株式会社群馬銀行に入行 その後、生保会社・損害保険会社を経験
2007年 株式会社フィナンシャル・インスティチュート(事業再生コンサルティング会社)へ入社
2014年 株式会社しのざき総研 代表取締役就任
著書に『ちょっと待った!! 社長! ハイハイ言うこと聞いても銀行は御社を守ってくれません!(すばる舎)』『社長さん!銀行員の言うことをハイハイ聞いてたらあなたの会社、潰されますよ!(すばる舎)』『信用保証協会完全攻略マニュアル(すばる舎)』など、ベストセラー多数。近著には、『社長! こんな会計事務所を顧問にすれば あなたの会社絶対に潰れませんよ!(マネジメント社)』がある。
VUCA時代の経営に求められるトリプルシンキングとは
――本日は、ありがとうございます。財務や管理会計の面から、本質的な経営支援を行っている篠崎さんにVUCA(予測不可能な)時代に求められるトリプルシンキングについてお聞きできればと思います。まずは、ご経歴や会社設立に至った経緯についても教えてください。
篠崎啓嗣氏(以下、篠崎氏)――トリプルシンキングとは、多角的な視点で物事を捉え考える「ラテラルシンキング」と、前提を疑う「クリティカルシンキング」、筋道を立て論理的に考える「ロジカルシンキング」の3つですね。私は、銀行、生保、損保、経営コンサルを経験していますから、ラテラルシンキングから中小企業の財務支援をしている数少ない財務のプロです。
――日本で銀行、生保、損保、経営コンサルをそれぞれ経験している人は少なく、ほとんどオンリーワンではないでしょうか。学生時代から、銀行に就職したいというお気持ちはあったのですか?
篠崎氏――いいえ、教授からは「あなたは、銀行ではもたない」と言われていました。実のところ、銀行員になりたくてなったわけではありません。本当は、東京でコンサルタントになりたいと考えていました。大学院に行きたかったのですが、景気が悪くなり、院への進学は諦めて、東京ではなく地元で就職活動をすることになって。「落ちても良いから、銀行を受けろ」と親に言われたわけです。育ててもらった恩がありますし、考えた末、納得して銀行に入行しました。
大学では簿記会計サークルに入っていて、公認会計士になりたいと考えていた時期もありますし、学生時代に学んだことは今に活きています。簿記会計は、どんな時代も通用する唯一無二の武器です。学んだことは銀行員時代も役立ちました。得た知識が銀行融資に結び付いたわけです。銀行員になりたいと昔から望んでいたわけではありませんが、融資の仕事は嫌いではなかったですよ。
それと、大学では良い教授との出会いがあり、私は人生の要所要所で良い人に恵まれています。教授の影響もあって、学生時代は集団主義や終身雇用、年功序列などの日本的経営や番頭経営を研究していました。渋沢栄一(政商)、三野村利左衛門(三井組の番頭)や大倉喜八郎(政商)などの明治時代に活躍した政商や番頭について学んでいきました。
――篠崎さんは現在、東京大学大学院の博士課程への入学も目標とされていますし、その道を徹底的に探究するというか、"孤高の探究者"というオーラが滲み出ているのは学生時代からなのでしょうね。銀行を辞めた後は、生命保険や損害保険の営業をご経験されて、再生会社を経て現職ですよね。
篠崎氏――はい。それぞれの世界を経験できたことがラテラルシンキングの原点になっています。私は日々、中小企業経営者の方々と接していますが、財務の体幹がない人が多いのです。自分の会社を守ろうと思ったら、財務を知らないといけない。簿記会計を知らないといけない。ですが、実態はそうではありません。決算書をお預かりして現状を把握し、課題発見して解決策をご提案し、改善のサイクルを回していくわけですが、現状を把握するにも解決策を考えるのにも簿記会計の知識が必要です。
――会計のなかでも、財務会計や管理合計の領域ですね
篠崎氏――そのとおりです。
「事業性評価」を肌で学び、血となり肉となった銀行員時代
――篠崎さんのお話をお聞きしていると、学生時代から銀行員、保険、企業再生、経営コンサルとすべてに一貫性があり、根底や原風景には学生時代に学んだ日本的経営のルーツがあるのだと思いますが、銀行時代もやはり多くのことを学びましたか?
篠崎氏――そうですね。教授にも恵まれましたが、新卒で入った銀行の支店長にも恵まれました。支店長は「決算書をみてカネを貸すな」と、当時から事業性評価を重視していたのです。「飲食店であれば曜日・天候・時間を変えて10回以上は食べて来い」「業務の流れを把握しろ」「フォークリフトや機械の音を覚えろ」とまで言われて。20代の頃から、企業の実態をみるトレーニングを自然としていました。ですので、融資という仕事にとてもやりがいを感じていましたし、銀行員になったことに後悔はないです。今では自分が経営者でもあるわけですが、当時、融資先である経営者の方々から教えていただいたことも今に活きていますよ。
先入観を捨てて本質をつく経営支援
――「銀行融資」と聞くと、起業して間もない経営者の方ほど難しく感じると思いますが、実際のところどうなのでしょうか?
篠崎氏――銀行融資は難しくありません。銀行がみるのは、「資金使途」と「返済財源」、万が一の時の「保全」。それと、融資期間や金利というレートです。「なぜ資金が必要なのか?」「いつ必要なのか?」「いくら必要なのか?」というシンプルなことなのです。ところが、このシンプルな質問に答えられない経営者の方が多い。
なぜ答えられないかというと、それは自分の会社のお金の流れを把握できていないからです。つまり、生き残れない。これが事業性評価です。
中小企業にとって、急成長することは喜ばしい面もありますがリスクもあります。身の丈に合った経営をしながら、「タイム(時)」と「タイミング」を考えることが重要です。精度の高い経営計画をつくり、予実管理をしていく。私は、そういった経営支援をしています。銀行融資という間接金融を深く知っていれば、投資家から資金調達する直接金融にも応用できます。
多くの財務コンサルタントは、まず決算書をお預かりして財務分析をするわけですが、表面上の財務分析では会社の未来はわかりません。決算書は「回答」みたいなもので、決算書をみると先入観が生じてしまうのです。私は、「決算書をみてカネを貸すな」と言われていましたから、その会社のお金の流れはどうなっているのか。強みはなにか。どうやったら売上が上がるのか。いわゆるSWOT分析やヒアリングから入ります。ロジカルシンキングでは正攻法に、クリティカルシンキングでは逆説で考え、ラテラルシンキングで多角的に。それらのトリプルシンキングを駆使しながら、経営支援を行っています。
例えば、自己資本比率が高ければ良いのかというと、そうとも限らないわけです。「投資していないのかもしれない」と疑問を持つことが大切です。
――なるほど。確かに、「自己資本比率を高めましょう」と言われるとプロっぽいアドバイスですが、必ずしもそれが会社にとって良いとは限らないわけですね。多くの学者や研究者は、「常識を疑う」「専門家の意見を疑う」「固定観念を疑う」という視点を持つことが習慣化されていますが、篠崎さんの視点はまさにそれですね。
篠崎氏――財務分析は、あくまでも「会社の癖」を掴むための方法でしかありません。現代はVUCAで多動な時代ですから、明確な答えなんてない。答えがないのが答えです。ですから、ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、ラテラルシンキングを掛け合わせていく必要があります。
経営に対するお金の流れを簿記と併せて語れるようにならないといけないのですが、残念ながら経営者の方に財務や簿記、マーケティングの基礎知識がないことがほとんどです。最近は、ビジョン経営やパーパス経営、理念、志が重要とよく言われます。もちろん実践すべきことではありますが、それらがすべてではありません。耳に心地良い言葉ではありますが、理念だけで会社経営がうまくいくわけではない。論語と算盤と言われるように、両方必要なのです。もちろん、算盤も重要ですが算盤だけでもダメです。
それと、やはり人材採用と育成ができないと会社はダメになります。経営資源が「ヒトモノカネ」と言われているように、重要な順番はヒトとモノ、その次にカネです。つまりカネは、後からついてくるものです。
業際×学際×国際で風の時代を生きる
――最近は、VUCA以外に「風の時代」とも言われていて、形あるものを重んじる物質主義から、縛られない生き方や型にはまらない価値観へと変化しているとされます。自由や多様性に富んだ、フレキシブルな世の中がやって来る。というか、すでに来ていると思うのですが、篠崎さんはどうみていますか?
篠崎氏――約3年で、日本や世界の体制が変わると感じています。まるで、明治維新のような時代のパラダイムシフトです。平成は昭和の延長線上にありましたが、令和で確実に変わります。
先ほど「答えがないのが答え」と言いましたが、まさにそれが風の時代の答えです。私は研修事業もしているのですが、答えから聞いてくる人が非常に多いですね。自分で深く考えることが重要なのに。
――確かに、いきなり答えを求めてくる人は多いですね。「結論を先に」「結局どうすれば?」「つまり、どういうことですか?」とか。私の学生時代にはすでに、「思考停止の現代人」なんてことが言われていましたが、今は一層そうなっていると感じます。
篠崎氏――先入観で決めつけてしまったり、そもそも考えていない人も多いです。私は長年経営者の方々と対峙していますが、良い経営者かどうかはすぐにわかります。良い経営者は自分で判断ができますし、対話が成立する。
これからの時代は、学歴もキャリアも関係ない。自ら調べて仮説を立て、逆説で考える。自分に勇気を持ち、行動し続ける人はどんな時代も生き抜いていけますよ。多くの人は、時代の変化や、自己変革の必要性を頭ではわかっているけど心臓がついて来ない。しかし、会社経営をしている経営者がそうだと、会社はダメになります。
――そうですよね。自己変革できないと。そんな経営者の方に、徹底的に伴走するのが篠崎さんですね。最後に、篠崎さんが今20代だったら学んでおきたいことってありますか?
篠崎氏――今20代でも、また簿記会計を学びますね。時代を問わず通用する唯一無二の武器ですから。それと、やはり日本的経営や番頭経営の歴史です。なにかを学ぶには、歴史をひも解くのが一番良いです。歴史を深く知ると自然に、学問の一専門領域を越えた学際になり、学際的に学んだことが業界業種を越えた業際的に活かされ、それらの知見が国を越えて国際的に活かされます。まさに、ラテラルシンキングです。
――さすが、一貫性がありますね。