「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は前回に引き続き、ビットコイン草創期から業界を牽引してきたビットバンク株式会社 代表取締役CEOの廣末紀之氏にお話を伺いました。
遠回りした仮想通貨事業
――ビットバンクを設立して、最初から取引所を始めたわけではなかったのですよね。
そうですね。思えば遠回りしました。最初は、ビットコインをATMで入手できるビットコインATMを、西麻布にあったベランダや六本木にあったピンクカウというダイニングバーに設置して、「ビットコインを買える・ビットコインで飲食できる」空間をつくりました。ビットコインを決済で利用することで、使うリアリティが高まりますし、ビットコインユーザーが増えると考えたからです。しかし、KYCを取るのにアメリカと日本では時差があってそれが課題になってやめました。
次にビットバンクウォレットという、クレジットカードでビットコインが購入できるウォレットサービスの提供を行いましたが、盗難クレジットカードの利用が多く、いわゆるチャージバックの多発によって、これもダメになりました。
最初から取引所をやれば良かったのですが、当時はまだ社員のリソースがなく、自前で取引所を開発するだけの力がありませんでしたが、どうしても取引所サービスをリリースしたかったので。
現binanceのCEOのCZ氏がbitDJというホワイトラベルサービスをつくったので、それを利用して開発しようとなったのですが、先方もエンジニアは1人だけだったのでやっぱり開発スピードが遅い。それならば、ということで2016年、独自に取引所の開発を始め、事業としてはなんとか2017年にスタートができました。
他にも「ビットコインは誤解が多いから教育や正しい知識の啓蒙が必要だろう」と、FLOCブロックチェーン大学校を設立したり、『ブロックチェーンの衝撃(ビットバンク株式会社&『ブロックチェーンの衝撃』編集委員会 著、馬渕邦美 監修)』という本を出版したりもしました。
「1円未満の価値」を移転・保存できる世界
――お話を伺っていると、廣末さんは業界の生き字引のようですね。金融業界とIT業界をご経験されて、ビットコインや仮想通貨(暗号資産)は今後どのように社会に影響を与えていくと感じていらっしゃいますか?
あらゆるものが価値化されるようになると考えています。例えば、「SNSのいいね」や「ありがとうという感謝の気持ち」を価値として表現でき、移転(送金・決済)や保存できる世界が実現します。
1円未満の金額や超巨額など、日常的な利用を想定されていないものは今の金融システムでは対応できません。そのような既存の金融では対応できない「1円未満の送金や保存」が出現すると社会のあり方を変えます。「いいね」や「ありがとう」は0円ですが、そこに超少額でも価値がついて移転・保存されるようになると、モノやサービスの売り方も変化してくるでしょう。例えば、1回の使用料が0.01円のサービスがあったとしても、既存の金融では決済できません。しかし、仮想通貨(暗号資産)なら決済が可能です。
――それは極めて面白いですね。1円未満の寄付でも、世界中から集まればまとまった価値になると思います。それを別の価値に替えて活かすこともできますよね。事業を始めるときの資金調達の手段として、最近はクラウドファンディングなども流行っていますが、仮想通貨(暗号資産)を活用することで超少額ずつ世界中から集めることもできそうです。
分散型と中央集権型の良いところを組み合わせる
――仮想通貨(暗号資産)が持つ課題について、廣末さんの見解をお教えください。
今のフェーズは、既存社会とのフィッティングを試されている期間だと捉えています。ビットコインは消費電力が膨大だとよく言われますが、社会に受け入れられるためには、自然エネルギーを活用したマイニングなど、エコシステム全体として環境問題は意識しないといけません。また、マネーロンダリングの問題も常につきまとう課題です。FATF(ファトフ)というマネーロンダリング対策やテロ資金対策などにおける国際的な指導、推進などを行う政府間機関の動向は意識しておく必要があります。
――2020年は、DeFi(分散型金融)が人気になり、分散型管理の取引所も多く生まれましたが、DeFiは「究極の自己責任」の世界だと思いますが、個人的には取引所のようなセキュリティ管理が重要な部分は中央集権型で行い、分散型と中央集権型の良いところを組み合わせていくのが良いのではないかと思っています。
そうですね。すべてが分散型だと無責任になりますから、組み合わせるのが良いと思います。常に新しい技術とのぶつかり合いですから、今はまだ社会に溶け込めるかを試されている局面ですね。まだまだビットコインの歴史は始まったばかりですから、健全な会社が事業としてしっかりやらないといけないと考えています。
――ビットバンクさんのような健全な企業が増えていくことは、業界全体にとって望ましいことだと思います。ビットコインは、過去にシルクロードというダークサイトで悪用されていたこともありますが、今後はモラルを持った人や企業が、正しい方向に進めていく必要があると思います。そうでなければ、本当の意味で普及していきませんから。
トラフィックが集まるからビジネス機会に出会える
――ビットバンクさんが今後目指していることなどを教えてください。
取引所として一番良いものにしていきたいと考えています。セキュリティ面ももちろん重要ですが、現物取引の流動性を確保することも重要だと思います。市場としてはデリバティブ市場が大きいのですが、現物取引に特化してシェアを上げていきたいですね。現在、現物取引高国内シェアは約34%でトップではありますが、これに満足はしていませんし、甘んじることもありません。
今の仮想通貨取引所は、IT業界でいうISP(インターネットサービス・プロバイダー)だという話をよくしています。ISPは、その業界に入るゲートウェイの役割ですから、極めて重要です。ゲートウェイは、トラフィックが集まる場所。そこでは、いろいろなビジネス機会と出会うことができます。短期的にはここに集中し、状況を見ながら他の事業に発展させていこうと考えています。
インターネットの草創期に、ISPの勃興、ブラウザの登場の後に何が起こったかというと、アマゾンやグーグルなどの、今では超巨大企業になったスタートアップが生まれました。仮想通貨(暗号資産)も広がった後には、インターネットと同じように次のビジネスが出てくるはずです。
――まだまだ草創期にありますから、今後が楽しみですね。今から仮想通貨(暗号資産)業界に入ろうという人や、この業界やビットバンクさんで仕事をしたいという人もいると思います。そんな人に向けて、よろしければメッセージをください。
「ビットコインが好きな人」「ブロックチェーンが好きな人」と一緒に仕事をしたいですね。やはり、好きじゃないと楽しくないですから。中島さんと話していても、「この人はビットコインが好きなんだな」とすぐにわかります。あと重要なことは、誠実であることです。まだ誤解も多くなにかと疑われる業界ですから、仲間にもお客様にも誠実であることは貫いていかないといけません。
――20代の読者の方も多いと思いますが、若いうちから学んでおいた方が良いことはありますか?
学んでおくと良いのは、「資本主義のルール」や「経済のルール」、それからITの基礎知識とスキルです。情報格差とも言われますが、知っているか知っていないかで人生が変わることはよくあります。また、IT化はまだまだ進みますし、DXが当たり前になるでしょう。ルールや基礎を知ることで、その知識が先を読む力になると思います。