「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
前編に続き、建設業に特化したM&A支援サービスを展開している株式会社シードアドバイザリーの代表取締役・朝野一博氏にお話を伺いました。
つい「スイッチ」が入ってしまったM&A案件
――特に印象に残っているM&A案件には、どんな案件がありますか?
朝野一博氏(以下、朝野氏):法律事務所からご相談いただいた案件だったのですが、規模が大きい建設会社でした。すでに大手M&A会社が仲介で入っており、デューデリジェンスの段階で資料を精査できていませんでした。弊社には財務資料を精査・準備してほしいという相談で、「買い手企業はここしかない」と売り手さんは大手M&A会社からは言われている状況で。
しかし、私が売り手の社長さんに突っ込んで聞いてみたら、その買い手企業に譲渡するのは社長さんの本心ではなかったのです。「これ以上被害を出すわけにはいかない。もう時間がない」と追い込まれている状況でした。そこで私のスイッチが入り、「2日ください」とスポンサー企業を見つけました。
しかし、すでに買い手企業との交渉は進んでいるわけですから、時間がない中で厳しい交渉を迫られました。どうやって案件をブレイクさせるか。入札だと負けてしまう…。親族・従業員の一部カットという条件で買い手企業から出ていたため、2日間の従業員説明会で勝負をしました。説明会では満場一致で、気持ちで勝ち取った案件でしたね。
その後、私が見つけたスポンサー企業との交渉がうまく進み、新会社の決起集会に呼んでいただけました。社員のみなさんからも個々に「ありがとう」と言っていただけて、本当に良かったです。3週間で成立した案件でしたが、再生はすべてがドラマの連続です。
他にも、コロナに感染した社長さんがいらっしゃいました。まだ新型コロナが得体のしれない未知のウイルスとされていた頃で、社長さんと連絡が取れずスポンサー企業との基本合意が不成立になるところでした。契約書を持ってご家族を訪問したのですが、どうにもできない状況で。娘さんに同行してもらって社長を訪問すると、息も絶え絶えな社長を発見し、何回も何回も救急車を呼んでは断られる中で、なんとか対応したという案件もありました。
「痛手」を負ったことのある人ほど向いている仕事
――企業再生の仕事は、生半可な覚悟ではできない仕事だと思います。朝野さんは、どんな人となら一緒に仕事をしたいですか?
朝野氏:一緒に働くメンバーに関して言えば、企業再生に対して熱く志のある人です。過去に会社経営の経験があり、その経験を活かしてだれかの役に立ちたいという人。中でも、倒産や自己破産、事業の撤退など何らかの「痛手」を経験したことのある人でしたら、社長の気持ちもよくわかると思いますので、ぜひ再生型M&Aの世界に飛び込んでほしいですね。また、企業再生の仕事は本当に大変なのですが、それに見合う報酬を得られていない人も多いです。弊社は満足のいく報酬を提供できると思います。
パートナーに関して言えば、きちんとコミットメントできる人です。受託した責任があるわけですから、最後まできちんと対応していただける人とパートナーシップで仕事をしたいです。他者と連携でき、協業する姿勢を持っている方とでしたら良いアライアンスが組めると思います。
これはM&A業界全体の課題だと思うのですが、大手のM&A仲介会社もしっかりと責任を果たしてほしいと感じています。大手は小規模の案件を避ける傾向がありますが、相談が来ているわけですから「うちでは対応できない」と言ってはいけないと思うのです。藁をもつかむ思いで相談しているかもしれないのに、着手金だけもらって放置していたり、放置した結果、債務超過になり「これでは売れない」と放り投げたり。放置するくらいなら、長けた他のM&A会社に紹介すれば良いと思います。弊社は投げ出さず、しっかりと最後まで対応させていただきます。
チーム制だからできる人材育成
――M&A会社やアドバイザーは本当に増えましたが、「しっかりとしたアドバイザーが育たない」という課題もあると思います。その点はいかがでしょうか?
朝野氏:そう思います。M&Aは、年に数件しか成約に至りません。成功体験を積む機会が少ないわけですから、良いアドバイザーはなかなか育たないと思います。
弊社では、チーム制で案件を進め、私がチェックする監視体制を取っています。チームで知見を貯めていきナレッジ化しています。この案件なら、どんなスキームが良いか。どんな条件交渉が適正か、などを議論しながらチームで進めています。また、再生型M&Aは仲介ではできません。売り手サイドのFAは弁護士の先生の仕事です。弊社は買い手企業(スポンサー企業)サイドとして動くことになりますから、弁護士の先生との呼吸が重要になります。このあたりの調整や役割分担、やり取りも大切なので、属人的になりすぎないようチームで対応し、メンバー(社員)にもノウハウやケーススタディを共有する体制にしています。
――M&Aは幸せも災いもアドバイザーが運んでくるので、アドバイザー選びが極めて重要だと思います。企業再生に長けたチームがあると、売り手の社長さんとしても心強いですね。
朝野氏:社長さんにとって、そんな存在でありたいですね。今後はますます、廃業支援も必要になってくると思います。残念なことですが、手数料のことしか頭にないアドバイザーもいますので、M&Aアドバイザー選びが最大のリスクになり得ます。小さなM&A会社ですと、経験の浅さがリスクとなり得て、大手のM&A会社ですと、案件が小さくて動かないリスクがある。また、会社経営の経験がない人がアドバイザーをやっていることの方が多いわけですから、やはりアドバイザー選びがその後の明暗を決める重要な要素です。「弊社を選んで良かった」と言っていただけるよう、メンバーもパートナーも慎重に厳選し、理念をともにできる人と仕事に取り組んでいきたいと思います。
社長だけでなく社員の人たちも「だれ一人取り残すことなく」救いたい
――「シードアドバイザリーのサービス」の中には、職業紹介についても記載がありますが、再生型M&Aだけでなく紹介もされているのですね。
朝野氏:はい。最近スタートしたサービスです。再生型M&Aの案件でも、「何名かは人員カットする」ということがあります。M&Aは「社長の将来」について支援することが多いわけですが、社員の人たちも「だれ一人取り残すことなく」救いたいと私は思っています。
そこで、職業紹介サービスで社員の方々の転職、将来に対してもコミットしたいと思い、ヘッドハンティング事業を始めました。成長意欲のある人材がまだまだ足りておらず、特に30~50代の施工監理の人材が不足しています。弊社は、M&Aアドバイザーとしてさまざまな交渉・調整をしてきていますので、一般的なキャリアアドバイザーの方にはできないアドバイスが可能です。待遇の交渉もできますので、独自の強みを活かして良い転職先の紹介ができると考えています。転職だけでなく、独立起業という道を選ぶ方もいらっしゃるでしょうし、その場合は経営のアドバイスもしっかりさせていただき、再生型M&Aアドバイザーとしての私たちの出番がないようにしたいと思います。
本当は、企業再生のニーズがなくなる未来が理想なのですが、現実はそうもいきません。一社でも多くの企業、一人でも多くの社長さん、一人でも多くの社員さんを救い、建設業界の未来を明るくしていきたいと思っています。