「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は前編に続き、9月24日にJCBA(一般社団法人 日本暗号資産ビジネス協会)にて開催された勉強会の内容に、同勉強会で登壇されたSecuritize Japan株式会社・担当者への取材内容を加えてお伝えします。

  • 写真:Securitize Japan株式会社カントリーヘッド・小林英至氏(写真手前)

ブラックロックも利用しているSecuritizeプラットフォーム

前編では日本国内のSecuritizeプラットフォーム活用事例をご紹介しましたが、後編では海外での事例についてもお伝えします。アメリカでもすでにさまざまなトークン化を実施し、流動性を提供しています。発行体・投資家ともにアメリカ国内外からも利用でき、機関投資家から個人投資家まで、幅広く利用されているようです。

代表的なSecuritizeプラットフォーム活用事例は、ブラックロックのトークン専用ファンドBUIDL(BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund)でしょう。ブラックロックは、伝統金融(TradFi)とオンチェーンの世界の橋渡し役という確固たるポジションを確立させそうです。

ブラックロックはSecuritizeプラットフォームを利用して、トークン化専用ファンドをイーサリアム上に新たに組成しました。ローンチ後、約5億USDあまりの運用規模となり、さらに拡大中です。トークンは投資家のウォレットに直接発行され、利払は現金ではなくBUIDLトークンで行われ、再投資するDRIP方式が採用されています。ステーブルコインは利回りを生みませんが、BUIDLトークンであればリスクを抑えた運用が可能でしょう。

アメリカ初の自己募集による個人投資家向けの完全トークン化IPO

「既存金融システムからの解放」を目指して2015年にアメリカで設立され、デジタル資産をサポートしているEXODUSという企業は、Regulation A+下で完全にトークン化されたIPOを2021年5月に実施しました。Regulation A+は、証券取引委員会(SEC)が導入した、個人投資家から最大7,500万USDの資金を調達するための株式クラウドファンディングのルールです。EXODUSのIPOは、SEC下で投資家のウォレットから暗号資産のみを支払い手段として調達された普通株式の資金調達のアメリカ初の事例です。

EXODUSは、個人投資家を含む投資家から7,500万USDを調達しました(そのうちの多くが1,000USD以下の投資)。調達後はSecuritize Marketsに上場し、常時取引が可能になっています。

アートの売買をトークン化で手軽に

資産のトークン化は、アートの世界でも進んでいます。アートをブロックチェーン登録してきたアートレジストリテクノロジーを持つArtoryと、以上のアートを鑑定している専門家集団であるWinstonが提携したジョイントベンチャーがあります。Winstonが鑑定したアートの情報をArtoryがブロックチェーン上に保存し、投資家が主要なデータを確認できる環境にしました。世界初の、65作品にもおよぶ分散投資を実施したトークン化アートファンドです。日本人アーティストからは、奈良美智氏の作品なども組み入れ予定とのこと。アート投資の小口化も容易になりそうです。

アート投資の流動性が高まり、芸術への投資の活性化もされ、若手芸術家が活動を持続できる可能性が高まると尚良いですね。

  • 画像:Artory公式サイトより

PEファンドへの投資も簡単に

「あらゆる資産のトークン化」は、これまで機関投資家などのみがアクセス可能だったPEファンドへの投資も簡単にしてくれます。個人投資家のPEファンドへの投資も活性化するでしょう。

KKR(Kohlberg Kravis Roberts)は、未公開株やエネルギー、インフラ、ヘッジファンドなどのオルタナティブアセットへの投資を提供する企業です。最も古いアメリカ系のPEファンドで、PEファンドの元祖的存在であり、業界をリードし続けています。KKRのようなメジャーなPEファンドがファンドの一部をST化することは、アメリカ初の取り組みです。

KKRは、2016年から北米、ヨーロッパでのヘルスケア成長投資を追求するためにファンドを設定。2022年には2号ファンドを設定しました。これまでは公的年金、政府系ファンド、機関投資家、超富裕層に限り投資が可能でしたが、トークン化によって比較的低額での投資が可能になりました。

STOモデルがもたらす5つのメリット

Securitize Japan社への追加取材によると、ブロックチェーン、STの技術特性を最大限活かしたSTOモデルは5つのメリットをもたらすと言います。

メリットの1つ目は、「グローバル流通(投資家の広がり、投資商品の広がり)」です。パブリックブロックチェーンに接続することで、技術的にはSTのグローバル流通が可能となります。また、スマートコントラクトによる移転時の適格性チェックによって、該当証券の流通を許可していない国や、適格性に満たない投資家へは移転されないようコントロールすることも可能です。(流通させる各国の規制に準拠する必要はあります。)

2つ目は、「通貨とSTの同時交換の実現」です。ドルや円などの法定通貨と連動するステーブルコインによって決済され、DVP(Delivery Versus Payment)を実現します。これは、ブラックロックのBUIDLで既に実利用されている利点となります。

3つ目は、「配当・償還の自動化」です。期日などの条件を満たしたSTの配当を自動で行ったり、償還の処理をプログラムに組み込んだりと、スマートコントラクトによって処理を効率的に実行することが可能になります。

4つ目は、「コンプライアンスチェックの自動化」です。発行市場、流通市場において、該当STが準拠すべきコンプライアンスルール(発行量上限、適格性、ロックアップ期間など)を、スマートコントラクトによって自動でチェックすることができます。

5つ目は、「web3的顧客エンゲージメント」です。STを保有している投資家に対して、STを保有していることを自身で証明して特典を受け取ったり、保有者のみが参加できるコミュニティ等、投資体験の多様化を提供することができます。

また、上記の各種自動化、スキームの簡略化によって中間コストの削減ができることもメリットと言えます。発行体・投資家の双方にとってwin-winのモデルが実現できるでしょう。

投資家をファン化させるSTO

筆者が勉強会や取材で感じたのは、「STによる投資の原点回帰」です。本来、株式投資はその企業を応援することであり、暗号資産投資はそのプロジェクトを応援することです。それがいつしか、値動きへの投資に変化していったと思います。

社債も、不動産や映画、アートへの投資も、その対象を応援することが本来であり、必ずしもお互いの顔は見えませんが、投資をすればより深いステークホルダーになります。ステークホルダーが集まれば、それはコミュニティです。トークンを活用したコミュニティで重要なのは、ファンと投資家のバランスでしょう。

「なにがあってもトークンを売らない」というファンの数を積み上げていくことがコミュニティの底力となり、さらに値上がりやリターンを期待する投資家的な人を集めることでボラティリティを作り出し、トークンを活性化させていきます。最初は投資目的で入ってきた人たちも、やがて「なにがあってもトークンを売らない」ファンに変わるのです。投資家しかいないコミュニティはサスティナビリティに欠けますが、ファンと投資家のバランスが取れたコミュニティは持続的に発展するでしょう。

STOは、web3のような新興金融だけでなく、伝統金融商品のオンチェーン化も推し進めています。世界最大の運用会社であるブラックロックがトークン専用ファンドを始めたことも大きな意味を持ち、STがあらゆるアセットを還流させていくことになるでしょう。