「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、マーケット・アナリストの長谷川友哉氏に「暗号資産投資の効用」や「ビットコインの予測シナリオ」についてお話を伺いました。

  • 長谷川友哉氏:ビットバンク株式会社 マーケット・アナリスト 長谷川友哉氏/英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーで FinTech業界と暗号資産市場のアナリストとして従事。2019年より、ビットバンク株式会社にてマーケット・アナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。ビットバンクの公式オウンドメディア「ビットバンクプラス」内の暗号資産マーケット情報にて記事を配信中

ポートフォリオにビットコインをどう組み入れる?

――今日はよろしくお願いします。まずは、「これからビットコインなどの暗号資産に投資しよう」と考えている方向けに、暗号資産投資の有効性について教えてください。

長谷川友哉氏(以下、長谷川氏)2024年に入って新NISAが始動し、日本でも投資への関心が高まっています。特に注目されているのは、少額の資金で分散投資ができるインデックス投資です。

分散投資においては、ポートフォリオをどう組むかが大切です。暗号資産は一般的に「値動きの激しい(ボラティリティの高い)資産」と認識されていますが、実は暗号資産をポートフォリオに組み込むことで得られる効用があります。今日は、数ある暗号資産の中でも代表的なビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)を例に解説したいと思います。

下の図は、暗号資産と伝統的金融資産の関係性についてまとめたものです。「TOPIX上昇時および下落時の他資産の上昇確率」と「TOPIX上昇時および下落時の他資産の平均リターン」を見ると、TOPIX下落時はゴールド(金)55.9%、ビットコイン47.1%、イーサリアムも47.1%と、TOPIXとの連動は低いと言えます。TOPIX下落時の平均リターンは、ゴールド(金)1.205%、ビットコイン2.560%、イーサリアム7.136%で、下落時も収益を見込めます。

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次の2つの図は、ビットコインによるリスク低減効果をまとめたものです。TOPIXに対してビットコインを5%まで組み入れて運用すると、リスク低減効果があります。「年次の収益 vs. ボラティリティ」の図、「年次の平均収益 vs. 期中最大ドローダウン」の図のいずれでも、ビットコインを約5%組み込むことで、リスクを増やさずにリターンを増加させています。ビットコインは値動きが激しいと言われますが、ポートフォリオに組み入れることで実はリスクを抑えることも可能です。

――それは意外でした。リスクを増やさずにリターンを増やせるのは良いですね。これから暗号資産投資を始める人にとっては、「資産の5%」というのが一つの目安になりそうです。

  • ビットバンク株式会社 提供資料の一部

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長谷川氏:次のリターンのシミュレーションの図を見ていただくと、TOPIX95%で、ビットコイン5%、またはイーサリアム5%を組み入れて運用した場合のリターンがわかります。ビットコインだと年リターンは11.5%、8年複利でTOPIXの2倍の収益となり、イーサリアムだと年リターンは14.1%、8年複利でTOPIXの2.6倍の収益。単純なリターンの側面では、ビットコインよりもイーサリアムが優位となっています。

  • ビットバンク株式会社 提供資料の一部

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現物ビットコインETF承認のインパクト

――わかりやすい解説をありがとうございます。では次に、2024年上半期の暗号資産市場について振り返ってみたいと思います。やはり大きなテーマは、現物ビットコインETFの承認ですね。

長谷川氏:そうですね。現物ビットコインETFに記録的な資金流入があり、開始1カ月でAUM(運用資産総額)は306億ドル、57日で500億ドルを突破しました。これは、ゴールドのETFが5年かけて達成した規模です。資産運用会社のブラックロック、フィデリティが流入を主導しています。

だれが買っているのかというと、個人と機関投資家995社です。機関投資家は、ヘッジファンド、銀行、州の年金までさまざまで、現物ビットコインETFへの期待がうかがえます。ビットコイン半減期とアメリカの利下げ効果の先取りが買われた大きな理由ですが、今後も資金流入が期待できると考えています。

――現物ビットコインETF承認の後は失速感もありますが、個人的には良い意味での「嵐の前の静けさ」みたいなものかなと捉えています。上半期だけでも、ビットコイン半減期などのいろいろなトピックがありますね。

長谷川氏:アメリカの利下げが視野に入っていたものの、利下げの有無に振り舞わされた印象ですね。2024年の下半期は、いよいよ「アメリカ利上げ9回裏から、利下げ1回表へ」と変わっていくのではないでしょうか。

アメリカ金利の他にも、上半期中にドイツ政府が約5万BTCの売却を開始し、7月13日に売却を完了しました。また、マウントゴックスが約14.3万BTCの弁済を開始し、5万弱のBTCがすでに指定交換業者に送金されています。需給悪化懸念により、6月のビットコイン相場は軟化しましたが、7月からは現物ビットコインETFへ資金流入が増加しました。さらに、2022年11月に経営破たんしたFTXの弁済(112億ドル)が、年末を目途に現金で行われます。112億ドルのすべてが再びビットコインに流入するとは限りませんが、これは買い圧力になり得ると思います。トランプキャンペーンなど、下半期はビットコインにとって追い風になる見込みです。

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アメリカ大統領選挙が暗号資産市場の転換点になる

――下半期と言えば、やはり注目すべきはアメリカの大統領選でしょうか。

長谷川氏:はい。暗号資産業界にとって、大きな転換期になり得ます。また、「暗号資産が大統領選の焦点になっている」とも言い換えられます。なぜなら、暗号資産ユーザーが無視できない選挙区民になっているからです。

コインベース関連データ見ますと、暗号資産のユーザー数は1.05億人で、預かり資産は1010億ドルに達しています。その他のデータでも、「人口の約40%(約9300万人)が暗号資産を保有」「そのうち63%(約6048万人)が保有量増加を望んでいる」「非保有者のうち21%(約2900万人)がETFへの投資意欲を示す」など、まさに無視できない規模になっています。トランプ前大統領は、大統領任期中には「暗号資産は詐欺のようだ」と発言していましたが、現在では「クリプト大統領になる」と方向転換しました。民主党・ホワイトハウスにも焦りがあり、イーサリアムの現物ETFの承認に一役買ったのではないかと言われています。

トランプの当選が業界にとってはベターと言えますが、共和・民主両候補とも業界にはプラスに働く可能性が高いです。それだけ、暗号資産ユーザーの数が増え、大統領選においても無視できないほど存在感を増してきたということです。業界に有利な規制緩和や、暗号資産マイニングの促進、政府準備金としてのビットコインなど、業界にとって追い風になると予想できます。

トランプ再選のネガティブな側面では、財政拡大でアメリカ国債に売り圧力がかかり、金利の上昇、市場の不安定化、アメリカ市場のトリプル安なども起こり得ることです。暗号資産市場は強いショックにはめっぽう弱い面もあり、2018年の世界同時株安や2020年のコロナショックなどのような瞬間的な暴落には注意しておきたいです。

ポジティブな側面では、アメリカも財政問題を抱えているため、無国籍通貨としてのヘッジ需要でビットコインが買われる可能性もあります。実際、債務の急拡大に伴い、価格は上昇しています。また、景気後退があると大幅利下げを行う傾向があり、暴落は短期的な影響に留まり反発に転ずる可能性もあります。

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――未来はわかりませんが、どんなシナリオでも動じずにいる必要がありますね。日々の値動きに一喜一憂しない姿勢がますます重要になりそうです。

次回に続きます。


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