3月29日(米国時間)、サムスンがニューヨークでイベントUnpackedを開催、新型スマホGalaxy S8とS8+を発表した。2月のMWC 2017の時点で予告していたものだ。
市場の信頼を取り戻せるか、社運を賭けた発表会
サムスンは、昨年(2016年)、Galaxy Note7を出荷後、発火騒ぎなどで製品の回収を実施。バッテリ関連の不具合から、市場からの信頼を全力で取り戻さなければならない立ち位置にいる。
ここで失敗するわけにはいかない。いつにもまして魅力的で、そして、絶大な安全と安心を具現化した製品をリリースし、起死回生を狙わなければならない、今回の発表会は、まさに社運を賭けたワールドツアーの皮切りイベントとなる。
そして発表されたのがGalaxy S8、そしてS8+だった。 それぞれ5.8型と6.2型のスクリーンを持つAndroidスマートフォンで、違いは大きさのみでバッテリ容量以外の中味は共通だとされている。4/21から発売されるという。
スクリーンは両機ともに左右はラウンド形状で、2,960×1,440ドットのAMOLEDを採用、つまり、アスペクト比は18.5:9となる。MWCではLGが18:9のスクリーンを持つ縦長スクリーンスマホLG G6を発表しているが、S8、S8+は、さらに縦長だ。ここにきて、スマホのスクリーンは一気に縦長化がトレンドとなるかもしれない。
伝統の物理ホームボタンを撤廃、左右ボタンの入れ替えも可能に
今回、サムスンはGalaxyシリーズの伝統的アイコンともいえる物理ホームボタンを撤廃するという決断をくだした。さらに今回は、物理ボタンの撤廃とともに、ナビゲーションバーの左右ボタンを入れ替えることができるようになっている。
従来のGalaxyシリーズはホームボタンの両側にタッチセンサー式のボタンを配し、スクリーン下部がナビゲーションバーとして機能していた。つまり、スクリーンの外にナビゲーションバーがあったのだ。そしてサムスン流とでもいうべきかホームボタンの左が「アプリ履歴ボタン」、右が「戻るボタン」となっていた。
個人的にはUIとしてホームの右が戻るの方が理にかなっていると思う。だが、このレイアウトはサムスンだけで、他のAndroidスマホを併用するときにいつも混乱していたのだが、それも昔話になってしまうわけだ。
物理ボタンの撤廃で、ホームボタンはスクリーン内に移動した。しかも、ソフトウェア仮想ボタンでありながら、インセルの感圧ボタンとして実装されている。こうして縦長になったことで得た400ピクセルのうち、おそらくは200ピクセル弱がナビゲーションバーとして使われる。それを計算に入れると、これまでのGalaxyユーザーにとっては縦に約200ピクセル増えただけということになる。強引に換算すると、Galaxyは17.25:9のディスプレイサイズを持つにすぎない。18:9のLG G6より比率的には短い。もっともナビゲーションバーをオーバーレイするなどで、コンテンツ領域としてスクリーンをフルに使うような場合には18.5:9の縦長感が強調される。
こうして縦長になったスクリーンだが、横幅については今までと変わらない。人間の手のサイズはまちまちだが、やはりフィットしやすい幅というものがある。スマートフォンの大型トレンドは、そこを無視して突き進んできたし、人々はそれを受け入れてもきた。
今回、サムスンはコンパクトなサイズが好みのユーザーのためにS8を、大きめのサイズが好みのユーザーのためにS8+を用意したが、三平方の定理で強引に計算してみたところ、S8が5.4型、S8+が5.8型スクリーンを縦方向にちょっと伸ばしたイメージでとらえることができる。実際、手に持った印象でもそんな感覚だ。ちなみにS8はiPhone 7よりも1ミリ幅広で、S8+はiPhone 7 Plusより4.5ミリ細い。
用意されるカラーバリエーションはMidnight Black、Orchid Gray、Arctic Silver、Coral Blue、Maple Goldの5色だ。背面の色は5色が揃うが、前面はすべて黒となる。限りない狭額縁を強調するには黒が最適という判断なのだろうが、ここは好みの分かれるところかもしれない。
PCライクにスマホを使うContinuum的な機能も
サムスンでは、S8、S8+を「次のノーマル」として位置づけている。「新しいノーマル」ではないことに注目したい。これまでのGalaxyがスマホのアルケオロジー(思想の歴史)の中で、これこそがノーマルだと提案してきたのと同様に、縦長は当然くるであろうトレンドとしているのだ。前面のボタン撤廃の影響で指紋センサーは裏面に回った。その一方で、アイリス(虹彩)、顔といった認証方法がサポートされる。背面の指紋センサーが不便だと思うならそちらを使えばいい。
さらに、トレンド追随としては、サムスンのAIプラットフォームBixbyが発表された。S8+だけでなく、もちろんS8にも実装される。いわゆるSiriのような音声アシスタント的な用途の他、画像認識などを含め、いろいろな使い方が想定されている。
目新しい機能としてはDeXの実装がある。こちらはAndroid版のContinuumだ。DeXステーションと呼ばれるクレードルにS8を装着すると、クレードルに接続されたモニタにAndroidのデスクトップが出現し、Androidアプリを、まるでWindowsデスクトップのようにマルチウィンドウで扱える。当然、Bluetooth接続したマウスやキーボードでの操作となる。ウィンドウ間でのドラッグ&ドロップもサポートしているようで、もうこれでPCを持ち歩く必要はないと考えるユーザーも出てくるかもしれない。24型軽量モバイルモニタの登場など、新たな市場が開拓されることも期待できそうだ。
スマホのアイデンティティを再提案
S8、S8+は踊り場に近い状態だったスマートフォンの世界に、新たな世界観を持ち込むだろう。カメラの発表会かと見まごうばかりのスマートフォンの発表会が続く中で、久しぶりに、スマートフォンとしてのアイデンティティを追求し、スマートライフの拡張を提案する見事な発表会だったと思う。当然、日本での発売も期待されるし、その方向で調整が進んでいるようだ。その日を楽しみに待ちたい。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)