シャープがコンビニプリントサービス事業を拡大、コンテンツプリントやビジネス指向のネットワークプリント、行政サービス展開などを従来以上に積極的に打ち出す。スマートデバイスの台頭の中で、どんどん影が薄くなるPC、そして、そのペリフェラルとしてのプリンタだが、その背景について考えてみる。
高まる一方の電子データプリントニーズ
シャープでは「コンテンツ」、「ネットワークプリント」、「行政サービス」をコンビニプリントサービスの新たな成長エンジンとして考えているという。コンビニの店頭に設置された、いわゆるマルチコピー機を使って各種のプリントサービスを提供していくわけだ。
もはや、どのコンビニに行っても、コピー機は設置されているし、それはいつのまにかコピー専用機からマルチ機能の複合機に置き換わっている。かつては、持ち込んだ原稿をコピーしたりFAXしたりするだけのものだった機器は、デジタルカメラの普及によって、写真プリントを可能にしたし、PCのデータとしてのPDFの出力や、逆に、持ち込み原稿のスキャンサービスというところに変化、さらに、これからは、外部コンテンツをプリントするというフェーズに入っていくとシャープはいう。まるで書店で雑誌を買うかのように、マルチコピー機でコンテンツを選び、それを紙として出力するわけだ。
写真高画質のインクジェットプリンタが絶好調の時代に、プリンタ各社がさまざまな工夫でプリントの需要を高めていたころのデジャブのようでもある。ペーパーレスがOAの合い言葉として叫ばれたのは1970年代だが、それから半世紀近くがたった今、実は、電子データのプリントニーズは高まる一方だとシャープは考える。
ないと不便なプリンタ
モバイルデバイスの急増とともに、これまで使われてきたPCや、その周辺機器としてのプリンタは、次第に「あると邪魔」と感じられるようになってきた。特に今年は、Windows XPのサポート終了という一大事が話題になっている。それによって、古いPCを使うことの後ろめたさがコンシューマーの中にも芽生え始めている。日常的にスマホやタブレットを使うようになり、古くなったPCはそのまま処分してしまい、新しいPCはもういらないという判断をくだす層も少なからずいる。
そんなに頻繁に使うわけでもないし、スマホやタブレットがあれば、それで間に合うだろうという判断だ。確かにそれであまり不便はないかもしれない。また、PCの処分に伴い、ヘッドにインクがつまってしまい、ちゃんとした色で印刷できない年期の入ったプリンタもご用済みとなる。これで、邪魔なコモディティが一度に2つもなくなるわけだ。
その一方で、モバイルデバイスが増えるのに伴い、それで楽しむコンテンツもどんどん増えていく。個々のコンテンツは、スマホやタブレットなどの画面に最適化され、本当に、スマホやタブレットだけで十分だと思わせる。
だが、ある日、ふと気がつくのだ。あると邪魔だったけれど、ないと不便だなと。
コンテンツをデータで買うか、紙で買うか
たとえば、コンビニで出力サービスが提供されている既存コンテンツのひとつ、「ぷりんと楽譜」の場合を見てみよう。このサービスではスマホやタブレット、PCなどを使い、ウェブで楽曲を見つけることができる。楽譜が欲しい楽曲が見つかったら、それを購入するわけだが、PCであればPDFファイルが入手できるので、クレジットカード決済などで購入し、それを手元のプリンタでプリントすればいい。
また、コンビニで購入する場合は、サイトで楽譜商品番号を調べておき、店頭のマルチコピー機でコンテンツプリントを選び、調べておいた楽譜商品番号を入力すれば、その場でプリントアウトを入手できる。
ちなみに料金はコンテンツにもよるが、PDFが420円、コンビニプリントが480円となっている。つまり、手元にプリンタがあれば何度でも印刷できるPDFの方が安い。差額の60円はプリント代と決済代行手数料といったところだろうか。
ただし、楽譜の場合、A3用紙への複数枚プリントということもあり、家庭で使われるプリンタでは用紙サイズ的に対処しにくいという事情もありそうだ。だが、たとえばローソンでPDFファイルをプリントすればA3モノクロで10円/枚だ。ちょっとわかったユーザーなら、PDFファイルを購入して、それをコンビニのプリンタで印刷することを考えるかもしれない。PDFファイルはずっと手元に残り、好きなときに好きなだけプリントできるからだ。
スマホやタブレットがスマートライフをスタートさせる
シャープが引用する「Cisco Visual Networking Index(VNI):予測と方法論、2012 ~ 2017 年」によれば、全世界のモバイルデータトラフィックは、2012 年から 2017 年の間に 13 倍に増加する見込みだという。
誰もがポケットやハンドバッグにスマホを入れ、ヒマさえあれば手にとってコンテンツを楽しむようになるのだから当たり前だ。でも、そのことは、あるタイミングで、PCへの回帰を促すのではないかとも思う。
スマホなら5型前後、タブレットにしても、たかだか10型程度しかないスクリーンよりも、もっと大きなスクリーンを見ながら、文字を入力しやすいキーボードと操作しやすいマウスでPCを使った方が、コンテンツを楽しむにしても、さまざまなトランザクションサービスを利用するにしても効率的だ。そこで「あると邪魔」だったものが「ないと不便」、「あると便利」へと変わっていく。
デジタルネイティブと呼ばれる世代は、スマホやタブレットからこの世界に入ってくる。でも、彼らはモバイルデバイスだけを唯一のゲートウェイとは考えないだろう。その先にある世界をちゃんと想像できる世代だからだ。
だから、スマホやタブレットをPCレスの象徴とみなしてはならない。かつてのOAの時代がペーパーレスを求め切れなかったように、PCレスもまたありえないインフラだということだ。
そしてプリンタはどうか。シャープのプリントサービスビジネスがうまくいくのだとすれば、それは、スマホやタブレットのスクリーンでは満たされない何かがそこにあるということではないか。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)