フィルムを使うカメラが写真機の選択肢から消えて久しい。すっかりデジカメの時代になってしまったわけだが、ミラーレスのレンズ交換式カメラやコンパクトデジカメのような写真専用機さえ大仰で、もう日常の写真はスマホで十分と考える人が少なくないようだ。だからこそ、最近のスマホはカメラ機能に力を入れている。新製品発表会などは、携帯電話の発表会なのか、カメラの発表会なのかわからないくらいの有様だ。
たとえばファーウェイでは、ライカと共同開発したレンズ「LEICA SUMMARIT H」を2基搭載した「HUAWEI P9」を2016年6月に投入。P9を使ったフォトコンテストも開催するなど、カメラ性能を積極的にアピールした |
昔はフィルム、今はアプリで遊ぶ
フィルムカメラの時代は、フィルムとレンズの組み合わせで「絵」が決まった。オートフォーカスが速いとか、自動露出が正確だとか、連写がどのくらいできるかといったことはカメラの性能のひとつだが、カメラそのもので「絵」は決まらない。「絵」はあくまでもフィルムとレンズの組み合わせによるもので、レンズ交換式のカメラの場合、数万円のエントリー機と、数十万円のプロ機で撮れる「絵」は同じだった。だから、絵作りを楽しみたい写真愛好家は、レンズに凝り、フィルムごとの特性をいろいろと遊んでいたわけだ。
今、写真がデジタルの時代となり、ハードウェアとしてのカメラは、アプリがその絵作りに貢献するようになった。スマホメーカーが提供する標準カメラアプリのみならず、サードパーティ製のアプリがたくさんある。そして、そのアプリごとに撮れる絵は異なる。だから好きなアプリを探し出して、ハードウェアとしてのスマホに内蔵されたカメラを制御することで、好みの絵を得られるわけだ。これはフィルムカメラの時代に、自分の好みのフィルムを選んでいたようなものなのかなとも思う。
旅行のお供もスマホの時代
その昔、さほど写真を撮る道具にこだわらなかった層は、いわゆる「写ルンです」(富士フイルム製)のようなレンズ付きフィルムを使っていた。フィルムの装填ミスで楽しい旅の記録が何も写っていなかったという悲劇を経験するくらいならレンズ付きフィルムを使った方が安心だと考えたわけだ。年配の方の中には、スーツケースの片側にビッシリとレンズ付きフィルムを詰め込んで海外旅行に旅立つような方も少なくなかったようだ。
今、スマホはハードウェアとしてのカメラの立場を奪い、フィルムの役割も奪い取った。かつてのレンズ付きフィルムの地位は、完全にスマホに乗っ取られたことになる。でも、スマホがコンピュータであり、アプリを使って写真を撮る以上、アプリを使い分けることで楽しみや便利はいろいろと広がる。そういう意味では「写ルンです」の時代よりも、バリエーションは広がっているのかもしれない。
危惧があるとすれば、今ほど高い解像度が得られていなかった頃に、携帯電話などで撮られた写真を今見ると、さすがに荒く感じられてることだろうか。フィルムであれば50年前に撮ったものでも、今プリントすれば昨日撮った写真のように美しい光景が蘇るのに、デジタルではそうはいかない。
携帯電話で初めてカメラを搭載した、J-フォンの「J-SH04」(シャープ製)で撮影した写真(浅野純也氏によるレビュー記事「「ケータイ初のデジカメ搭載モデル『J-SH04』」」から)。今から約17年前、2000年9月に発表(発売は同年11月)されたモデルで、約11万画素のデジタルカメラを内蔵しカラー(128×96ドット)で写真を送受信できることが最大の特徴だった |
ネガフィルムの時代、撮影時に写真を撮り、現像焼き付けの処理は、さらにもう一度写真を撮るようなものだった。同様に、フィルムからデジタルへの移行期に撮られた発展途上機の写真を救う方法がもう少し進化すればいいのになと思う。ねつ造ではあるが、まあ、それはそれ。そうでなければ、2000年頃以降、10年間近くの光景の多くが失われてしまうことになりかねない。それを救えてこそのデジタルではないか。
こちらは今から約10年前、2007年に5月に発売したFOMA N904i(NEC製)で撮影した写真。約320万画のデジタルカメラを搭載しており、今見ると全体にかかったノイズや細かい部分の荒れが気になる |
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)