WinがARMにやってきた。
中国・深センで開催されたWindowsハードウェア開発者向けカンファレンスWinHEC Shenzhen 2016において、MicrosoftとQualcommがパートナーシップを発表、QualcommプロセッサでWindows 10のフルバージョンが稼働するようにすることが明らかになった。
基調講演のステージでは、Snapdragon 820で稼働しているWindows 10がデモンストレーションされた。ハイエンドスマホで使われているお馴染みのプロセッサだ。MicrosoftはQalcomm SoCネイティブのWindows 10カーネルと、そこで稼働するエクスプローラーシェルや標準アプリ、そしてSoC依存のデバイスについてのドライバ等を用意するとともに、Intelプロセッサに依存する部分を吸収するためのエミュレーターを実装し、x86版Windows 10用に開発されたWin32アプリが動くようにする。
製品は2017年に登場
実際の製品が市場に出てくるのは来年で、それがどのベンダーからなのかは現時点ではわからない。普通に考えればSurfaceが最初のデバイスになりそうなものだが、Microsoftとしてはあくまでも未定であるとしている。
当面はQualcomm限定であるとはいえ、ARM用のWindows 10フルバージョンのデビューは2017年のスマートデバイス市場に大きな影響を与えるだろう。モバイルデバイスの市場で大きな影響力を持つQualcommとのパートナーシップということで、近い将来、手のひらの上で動くWindows PCが手に入るようになるということだ。発表時には、ハンドセットについては想定されていないような雰囲気もあり、タブレットや2in1での利用が前提のようだが、スマートフォンでWindows 10が稼働するのも時間の問題だろう。
MirosoftにはARMプロセッサとしてのNVIDIA Tegra 4で稼働するWindows RT搭載Surface 2をリリースしていた過去がある。だが、WindowsストアアプリしかインストールできなかったWindows RTが継続されることはなく、現在では、Windows 10 Mobileに注力しているように見える。だが、そこに思わぬ伏兵が登場したというわけだ。
また、Microsoftとしては、Intelのプロセッサについては圧倒的なパフォーマンスで、Qualcommのプロセッサについてはその省電力性で差別化していくということだ。
モバイルPCが大きく変わる?
名前が似ているのにできることが違うというのはエンドユーザーの体験をスポイルする。使う使わないはユーザーが決めることであって、モバイルではUWP(Universal Windows Platform)しか使えないというのは、将来的にそれが当たり前になるのだとしても、できるだけ避けるべきだ。
ただでさえモバイルではいろいろなことをガマンしなければならない。バッテリ駆動時間やパフォーマンス、本体重量やサイズなどを天秤にかけなければならないからだ。そのガマンのひとつがWindows用デスクトップアプリだ。こればかりはPCでしか使えなかった。仮に将来的になくなる運命にあるのだとしても、過渡期はまだまだ続く。そして、それを手のひらの上で使いたいユーザーは山のようにいる。
個人的にはこれによって、モバイルノートPCのフォームファクタに大きな影響が出てくるのではないかと予測している。パワフルなノートPCはそのまま使い続けられるだろうし、そこの需要はまだまだある。そのカテゴリはIntelプロセッサに委ね、日常的に持ち歩くようなモバイルノートPCは、モニタとキーボード、ポインティングデバイスのみを備えた周辺機器になっていく可能性もある。ちょうどHPがスマートフォンElite x3のオプションとして提供しているノートドックがそのイメージに近い。
もちろん、Qualcomm プロセッサの搭載で、モバイルノートPCがますます軽薄短小化する可能性もある。だが人々は、モバイル時の通信やCPUはひとつのデバイスに委ねたいと感じているムードもある。このあたりのトレンドがどのように収束していくかは、実に楽しみだ。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)