オンキヨー&パイオニアイノベーションズ社のハイレゾ音楽配信サイト「e-onkyo music」が11周年を迎えた。
これを受けて、同社は毎月11日を「e-onkyo musicの日」とし、ポイントサービスやプレゼント企画を実施する。e-onkyoの「e」は「いい音」を意味し、さらに「e=いい=11」として、いい音にまつわる盛りだくさんの企画を用意しているという。
2005年にスタートした同サービスだが、この11年で売上高は16倍に、また、同サービスの最たる特徴であるハイレゾ音源の配信楽曲数は、約26万曲に達している。ハイレゾ音源配信を始めた2011年からの6年間で楽曲数は当初の17倍を確保した。まさに、ハイレゾ楽曲配信の老舗の名に恥じない実績を誇っている。
ハイレゾの"素性"はいろいろ
ハイレゾ音源は、早い話がCDより音がいい音源だ。ハイレゾリューション、つまり、高解像度で音楽を楽しめる。一般的に流通している音楽のほとんどは、非可逆圧縮されたものであり、物理的なCDに記録されている非圧縮の音にはかなわない。ハイレゾ音源は、理論的にそのCDの音源よりも、情報量が多いもので、それは再生環境さえしっかりしていれば、比べものにならない「いい音」として耳に聞こえる。
だが、ここにちょっとした落とし穴がある。というのも、器としてのフォーマットがハイレゾであっても、そこに格納される音源が由緒正しき素性を持っているかどうかはわからないからだ。箱は立派でも中味は粗悪という「なんちゃってハイレゾ」も成立するが、箱がハイレゾなら、それはやっぱりハイレゾなのだ。
たとえば「1970年代の名盤がハイレゾで蘇る」的なキャッチフレーズで大々的にアピールされたとしよう。当然、そんな時代には、ハイレゾなんて考え方はなかった。おそらくは残っているのはステレオ2chにミックスダウンされた、2トラック38cm/sくらいの6ミリ磁気テープだろう。
それを元に、マスタリングの作業が行われる。エンジニアが丹念に音を聴いて調整し、ハイレゾにふさわしい音に仕上げていくわけだ。これはこれでたいへんな作業だ。資質も求められる。でも、それを本当にハイレゾと呼んでいいのかどうか。
その一方では、CD音質の音源を、単に機械的にアップサンプリングし、足りない音を計算処理で補完するような方法もある。それもハイレゾだ。
かと思えば、アーティストやプロデューサー自身がハイレゾに熱心で、レコーディングのときからハイレゾを考慮し、最新のハードウェアを使ってレコーディング作業、ミックスダウンの作業を行ったネイティブハイレゾ音源として完成させた由緒正しき音源もある。
残念ながら、そこに配信されている楽曲がどんな素性でできたものなのかとは関係なく、箱がハイレゾならそれはハイレゾと呼ばれてしまっているのが現状だ。
音源の品質にルール作りを
オンキヨー&パイオニアイノベーションズ社の黒澤拓氏(ネットワークサービス本部音楽コンテンツ部)は、ハイレゾ配信サービス側としては、とにかく音源の素性をたどろうと努力しようとはしているが、なかなかそれが難しいのが実情であるともいう。
特に、海外レーベルの音源などは、音源の素性を知ろうとして問い合わせても、教えてもらえなかったり、あるいは、問い合わせの返事さえ得られないことも少なくないらしい。同社としても楽曲の波形をチェックするなどして、ハイレゾと呼ぶにふさわしいものになっているかどうかは確認しているという。
発表会でのトークセッション。左からオーディオ・ビジュアル・ライターの野村ケンジ氏、アニメソングのハイレゾ配信の仕掛け人として知られるランティスの音楽プロデューサー佐藤純之介氏、ハイレゾの女王の異名をとるシンガーの井筒香奈江さん、オンキヨー&パイオニアイノベーションズ社ネットワークサービス事業本部コンテンツ部長の畑光史氏 |
e-onkyo musicでも、音源ごとに、そのマスタリング情報をアイコンなどで明示しようとしていた時期もあったが、ほとんど情報が集まらず、企画倒れに近い形で立ち消えになってしまった過去がある。
少しでもいい音を聴きたい消費者としては、本当に、その音がハイレゾと呼ぶにふさわしいものなのか、少なくともCDよりも音がいいのかどうかを確信して買い物をしたいと思うはずだ。ところが試聴はストリーミング用に圧縮された音源であるなど、今買おうとしている音源がどのくらいの品質を持ったものかをあらかじめ知るのは難しい。
そろそろ、業界全体である種のルール作りが必要な時期に来ているのではないか。ハイレゾ音源配信サービスの老舗として、e-onkyo musicには、このあたりにも力を注いでほしいと思う。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)