ソフトバンクモバイルが「LTE-Advanced対応ネットワーク連携三次元空間セル構成技術公開実験」をプレス向けに披露した。増え続けるスマホトラフィックに、これから同社がどのように対処していくかの指針を示す試みだ。
年率2倍で増え続けるスマホトラフィック
スマホによる通信トラフィックが急増している。なにしろ、年率2倍のテンポだということで、東京オリンピックが開催される2020年頃の通信は、今日現在の200倍以上に達する見通しだという。この高い増加率を、どうやって解決するかは、移動体通信事業者にとって死活問題に直結する重要なテーマだ。
方法としてはおおざっぱにいって3つある。まず、第五世代の移動体通信テクノロジーなど、より高速な仕組みを採用すること。あるいは、周波数の確保などによる新しい電波資源の開拓。そして新たなセル構成技術の開発だ。
今回の実験は、これらのうち、3つめの新たなセル構成技術に相当する。ソフトバンクモバイルは、ここをもっともがんばらなければならないと考えているという。
セルというのは、乱暴な言い方をすれば、携帯電話の基地局一基がカバーするエリアのことだと考えていい。業界的な言い方をすると、基地局を設置して電波を吹くと、ひとつのセルを打てたことになる。トレンドは、極小セルを使って、より高密度にセルを打つことで、さまざまな問題の解決につなげることだという。
出力した電波が届く範囲を限定的なものにした極小セルは規則的な位置に配置することは難しく、いわゆる非正規配置になる。そのため、非正則の三次元空間を考慮しなければ、うまくトラフィックをさばけない。さらに、同一周波数を使うため、大きなセル、極小セル相互といった電波の干渉が問題になってくる。ビルとビルの高層階間では見通しになってしまい、やはり干渉に悩まされるという。
遠くでトークは古い
セルを広くするのではなく、小さいけれど多くのセルを配置するわけだが、その制御を基地局が自律的にやるのは限界に近い状況になってきているともいう。そこで、ネットワーク連携干渉抑圧技術が注目されている。それによって、大きなセルとしてのマクロセルと、極小セルが周波数を時分割共有したり、連携しているセルを同期させるなどの制御が可能になる。
ちょうど、イヤフォンのノイズキャンセルのような仕組みで、干渉を回避したり、極小セルではアンテナの指向性をダイナミックに切り替えるビームフォーミングなどの技術が重要になり、それをネットワーク経由で、センターサーバーから集中管理していく。
この日、披露された実験では、屋内で基地局と端末をシミュレーションし、同期した各セルが電波を使うタイミングを調整して、結果としての転送レートを高く維持する様子が紹介された。全員が同時にワッと叫んでも誰も言葉を聞き取れないが、順番にしゃべればコミュニケーションは成立する。それと似たようなことを集中制御するわけだ。討論会も議長としての司会がいなければ成立しないというのと同じ理屈だ。
実験会場周辺の道路をクルマで走行しながらの実験も公開されている。走行中に、各種の制御をした結果、転送レートがどうなるかを見ていると、確実に効果があることが見て取れる。
ソフトバンクモバイルは、今後のトレンドは確実に極小セルの集中制御運用に向かうと考えているようで、今後の基地局整備にここでの実験結果が活かされていくことになる。
以前も書いたが、電波は有限の資源であり、それを有効に活かすためには、さまざまな工夫が必要になる。電波は遠くまで飛べばいいというわけではなく、場合によっては飛ばないように工夫することも求められるということだ。
いわゆるプラチナバンドは「飛び回る」ことが注目されていたが、今後は飛び回られては困るケースも多くなっていく。きっと水面下では、直進性が高く、指向性をうまくコントロールできる高い周波数の獲得などで、いろいろな動きが進行中なのだろう。ちなみに、今回の実験は3.3GHz帯という高い周波数で行われている。
2020年に開催される東京オリンピックの開会式会場では、誰もが不満を感じない最高のネットワークを体験できるようになっていたいものだ。