もうすぐ3月11日。あの東日本大震災から5年が経過しようとしている。忘れもしない2011年の3月11日の午後、個人的には東京・新宿西口の路上で地震に遭遇した。

持っていたスマホですぐに自宅に電話をしたがつながらなかった。だが、データ通信は大丈夫だった。たまたま加入していたIP電話を使って自宅に連絡をとり無事を確認することができた。データ通信は強いと実感した瞬間だ。地震については当初たいしたことがないと思っていたが、帰途につくための電車はストップしたままで、仕方なく、とぼとぼと自宅への道を歩き始めた。大津波が東北を襲ったのを知ったのは、その途上だった。

LTE強化で災害に備える

先週、ドコモがプレス向けの説明会を開催し、今後のネットワーク信頼性の強化施策を発表した。同社によれば災害時は一人一人の情報伝達が重要で、移動体通信事業者のネットワークが社会インフラであることの重要性を認識し、その信頼性を強化していくという。なかでもLTEネットワークをさらに強化し、安心/安全に貢献するネットワークにしていくと宣言した。

NTTドコモ ネットワーク担当取締役常務執行役員 大松澤清博氏

ドコモによれば3GよりもLTEのほうが周波数の利用効率を高めることができるという。通信容量にして3倍に拡大することができるというのが同社の試算だ。その恩恵を得られるように、大規模災害時に備えて通常の基地局とは別に、広域エリアをカバーする大ゾーン基地局を2017年3月末を目処に全国106局でLTE化する予定だ。

さらに、電源喪失後24時間以上運用が可能で、複数の伝送路で冗長化され、アンテナ角度をリモートから変更可能な中ゾーン基地局を展開していく。こちらは2018年3月末までに展開予定となっている。

同時にLTEネットワークの高速化施策も発表された。ポイントは既存3バンドを束ねたキャリアアグリゲーション(CA)と、新たに認可された3.5GHz帯を使ったTD-LTE方式の追加だ。

前者は既存3バンドを束ねることで受信時最大375Mbpsを実現、後者は既存のFD-LTEの1波と新TD-LTE2波を束ねた3波CAによって370Mbpsをたたき出す。FD-LTEのもう1波はアップロード専用に使われ、50Mbpsという送信速度を実現するようだ。

新たに3.5GHz帯をLTE専用周波数帯として追加する

ドコモが今まで採用してきたFD-LTE方式は、上り通信と下り通信を別の周波数で使う方式。新たな3.5GHz帯では、上りと下りを同じ周波数で使用するTD-LTE方式を採用する。新しい高速化施策は、この異なる2方式で下りをCAしつつ、FD-LTEの上りをアップロード専用にすることで、TD-LTEの大部分を下りに利用できる

これらの環境はこの6月から提供が開始されるが、まずは、都心部に重点展開される。とはいえ、誰もがこの恩恵を受けられるわけではない。当たり前だが、無線機を使う以上、その周波数に対応した端末が必要だ。当然、これらの高速化に対応した端末は、まだ発売されていない。おそらくは、サービス開始時には入手可能になると思われるが、現時点では入手は不可能だ。

端末の対応バンドは明確に

自分の使っている端末が、どの周波数に対応しているのかを深く考えたことがあるだろうか。いや、そもそもキャリアが端末のスペックとして積極的に対応周波数を明示していないのはよくないことだと思う。

たとえば、このページは、ドコモの端末紹介だが、スペックには、

  • 受信時最大225Mbps 送信時最大50Mbps
  • PREMIUM 4GTM

としか書かれていない。

本来、LTEの割り当て周波数は3GPPが標準化しているバンド番号で表記するべきだ。

たとえばドコモであれば、

  • Band 1(2.1GHz帯 FD)
  • Band 3(1.8GHz帯 FD)
  • Band 19(800MHz帯 FD)
  • Band 21(1.5GHz帯 FD)
  • Band 28(700MHz帯 FD、ごく一部地域でのみ運用)
  • Band 42(3.5GHz帯 TD、サービス開始は6月)

が割り当てられている。別のバンドで同じ周波数帯を使うこともあるので、バンド番号で表記するのが確実なのだ。世界中のキャリアと端末ベンダーが、すべて対応バンドを明確にしてくれれば、自分の端末が、どのような通信環境でどのような能力を発揮するのか一目でわかるのだが、そうなっていないのが現実だ。

ちなみに個人的に常用しているメインのスマートフォンは2年前に入手したものだが、その対応バンドを調べたところ1, 3, 19, 21となっていた。CAにもVoLTEにも対応していないし、当然、TDによる新Band42や予定されているBand28は使えないということがわかる。無線機なのだから、そのくらいのことがエンドユーザーにわかるように明確にしておくのは当たり前ではないだろうか。これがわかれば、SIMフリー端末を購入したり、最近増えてきたLTE対応PCを購入するときも、どの程度つながるのかが一目瞭然だ。

たとえば、最近NECパーソナルコンピュータから発売された話題の軽量2-in-1 PC、LAVIE Hybrid ZERO HZ330や、VAIO S11は、きちんと仕様表に対応バンドが明記されている。それを見ると、1、3、19、21に対応してることがわかる。この傾向はとてもいいことだ。ぼくの使っている2年前の端末と同じで、SIMフリーだがドコモのネットワークを考慮していることがわかるが、バンド3、8を使う台湾や3、7、20を使うヨーロッパ、北米の特殊なバンド事情では不安があることがすぐに理解できる。

ネットワークの高速化はもちろん大切なことだ。だが、既存のエンドユーザーが、どのような恩恵を得られるのか、仮に、新しい端末を購入しようとしたときに、それによって対応バンドはどのように増え、何ができるようになるのかといったことくらいは、明解にしておいてほしいと思う。TVでいうなら、NHKは大丈夫だが、フジテレビは非対応といったことがあるのに、それがよくわからないようではダメなのだ。

6月のサービスインまでには、新端末の発表会も開催されユーザーの期待をあおることになるのだろう。報道資料やカタログではきちんとこれらのことを明確に記してほしいと思う。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)