インテルが、先週末(11/26~28)、東京・二子玉川の蔦屋家電において「TVときどきPC」と称する新しいライフスタイルのコンセプトを提唱するイベントを開催した。蔦屋家電そのものが「ライフスタイルを買う」を提唱する新しいタイプの家電店として知られているが、そこで、さらに新しいライフスタイルを提唱しようというわけだ。

インテルのスティック型PC「Compute Stick」

このコンセプトは、インテルのCompute Stickによって実現され、リビングルームのTVをPCに変えてしまうことでもたらされる世界観を訴求する。Compute Stickは、スティックタイプのPCだ。プロセッサメーカーとして知られるインテルだが、その存在感は常にPCメーカーの縁の下の力持ち的なもので、買ってすぐに使えるエンドユーザー製品は珍しい。だが、この製品はまさにパソコンそのものだ。

一般的なTVにはビデオレコーダー再生などのために、必ずといっていいほど装備されているHDMI入力端子に、このスティックを装着するだけでTVがPCになる。まるでTVのチャンネルがひとつ増えたイメージ、あるいは、デッキを買い足したイメージでPCの世界が大画面TVに出現する。

Compute StickはPCそのものなので、そこにあらわれるのはWindows 10のデスクトップだ。PCといえばノートPCや専用モニタつきのデスクトップ機を思い浮かべてしまうが、それがスティックに収まったと考えればいい。

インテルのマーケティング本部長、山本専氏は「コンピュータとしてのスペック云々よりもデスクトップPCの本体がてのひらサイズになりました」と説明するとわかりやすいという。そこには、画面がないことならではの利便性がある。画面があると、どうしても最薄、最軽量、最小、でっかい、重いといったサイズ感が出てきて先入観をもってしまわれるからだ。家庭のリビングルーム、出張先のホテルなど、どこにでも持ち運べるデスクトップ機として使ってほしいと訴える。

インテル 執行役員 マーケティング本部長の山本専氏

「たとえば調べ物をするときって、これまでのPCなら、画面は自分だけのものだったじゃないですか。でも、家族や友人同士でああでもないこうでもないといって旅行の計画をたてたりするときは、みんなのものであるTVがいいんです。いろんな使い方のシナリオが想定されますが、使い方は使う人の創意工夫で広がっていくと信じています。パソコンフロアに普段はあまり行かないお客さんがいる蔦屋家電を舞台に、そういう人たちに、この新しい世界観を体験してほしかったので」(同氏)。

もっとも、Compute StickはPC本体そのものなので、マウスもキーボードもない。TVにつないだところでTV画面をタッチできるわけでもない。Windowsを操作するためには、別途、キーボードやマウスを調達する必要がある。さらに電源アダプタが必要で、もちろん、電源を突然抜いてしまうと作業内容は失われてしまう。いい意味でも悪い意味でもまさに据え置きパソコンだ。Compute Stickは、出荷時、Windowsの休止状態がメニューにない。欲をいえば、せめて休止状態を出荷時からサポートしていれば、もっと世界は広がったのにとも思う。

YouTubeなどの動画サイトは人気だが、これらのコンテンツは数分で完結する。スマホなどのパーソナルなデバイスで楽しむには手ごろだ。だが、今は、2時間を超えるような長編ドラマ、映画などを配信するサービスも増えてきた。こうしたコンテンツは大画面で再生してみんなで見るというスタイルが似合うということか。

Compute Stickをテレビにつないで使っているところ。大画面のテレビで、PCで見るようなコンテンツを大勢で楽しめる、という提案だ

その昔、コンピュータはみんなのものだった。コンピュータのあるところに行って計算をして"いただいた"。大型コンピュータのバッチ処理の時代だ。ところが、コンピュータは机の上にのるようなサイズになり、それが気軽に持ち運べるモバイルノートになり、今では、スマホになってポケットの中に入るようになった。まさにパーソナルなデバイスになったのだ。

でも、そこは終着駅ではなかった。そのパーソナルなデバイスを、もういちどみんなのものとして使ってみようとインテルはいう。TwitterやfacebookといったSNSが、コンピュータを使う「個人」と強く関連付けられたサービスとして台頭している中で、新たな提案をするインテル。パブリックでもなければパーソナルでもないもうひとつの領域は、デジタルネイティブな世代にどのように受け入れられるのだろう。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)