2105年10月30日、家電量販大手のヤマダ電機が東京駅八重洲口に新店舗「Concept LABI TOKYO」をオープンした

B1から10Fまでの11フロアを最先端コンセプトの情報発信基地として機能させる。また、インバウンドを狙ったTAX FREEに対応するほか、丸の内、日本橋、霞が関地区に集中する企業、法人、官公庁用の専用窓口を設置するという。

各フロアをStageと表現し、フロアごとのコンセプトを明確にすることで、一般的な家電量販店とは異なるアプローチで訴求していく。

ビル丸ごと情報発信基地として最先端の"コンセプト"を訴求する

B1から10Fまで、上層階のバックヤードスペースを除く全フロアが"Stage"として個々のフロアを構成する

同社代表取締役社長兼代表執行役員CEOの山田昇氏は「ここは家電製品がなんでも揃うことをめざす店舗ではない」と断言する。「コンセプト」というキーワードを「既成概念にとらわれない新しい視点」とみなし、品ぞろえを誇ることよりも、最先端のものが知識とともに手に入ることをアピールする。ここにくれば世界の最先端が自分の目で確かめられる店舗というわけだ。

各フロアではイベントなども開催される

1Fのエントランススペースに陣取るアップル専門ステージ。アップルも、これだけのスペースを展開する量販店舗は世界一だと認めるという

B1は日用品フロアであらゆる雑貨が手に入る。インバウンダーの爆買いを狙ったものだが、フロアには着物姿の女性が歩き回っていて日本情緒を誘う

マツキヨなみに商品がそろうB1のショーケース

高級家電のコーナーが別枠で用意されている

ちなみにこの売り場でもっとも高額な商品は、36万円のエスプレッソマシン

たとえば9FはPCの"Stage"だ。フロアを囲むように各社ブランドのコーナーが並んでいるが、フロアの中心部に陣取るのはインテルだ。インテルはエンドユーザー製品をほとんど提供していないので、そこに陳列されている実機は各社のPCだ。もちろんそれらは商品として値札もついている。

だが、そのスペースでは、インテルが今もっとも強くアピールしているセンシフィケーションが訴求されている。つまるところは3DカメラRealSenseがもたらす新しいPCとの対話がそこで体験できるようになっている。そして、その最先端テクノロジーに興味を持った客は、納得のいくまで話をきき、新しい体験をしたうえで、搭載機の売り場に誘導されたり、その目の前の実機と同じ商品を購入するという段取りだ。その最先端テクノロジーのデモンストレーションのためにインテル側からは専門のスタッフが常駐するともいう。そして、期間を区切って訴求ポイントを衣替えし、年間を通してインテルの今が体験できるようにしていくもくろみだ。

9Fのフロア中央にはインテルが陣取って最新テクノロジーをアピール

RealSenseを使った3Dスキャンなどを体験できる

各社の最新PCが並び、RealSenseや第6世代コアプロセッサを訴求する

ゆったりとしたスペーシングで量販店特有のごちゃごちゃした感じがない

つまり、ここは、単なる量販店舗の売り場ではなく、いってみれば、展示会のブースとして機能しているともいえる。また、マイクロソフトも同様のスペースを展開している。マイクロソフトはSurfaceや周辺機器などのエンドユーザー製品を提供していて、専門コーナーもあるが、それとは別に自社ゾーンを担当し、Windows 10をアピールしていた。当然、そのスペースには、Surfaceのみならず、OEM各社の製品が並んでいる。

マイクロソフトはWindows 10訴求のスペースをもつ

Googleもコーナーを持ち、各社のタブレットやChrome Bookを紹介する

メーカーごとのスペースはそれぞれが展示会のブースのようだ

ズラリと並ぶ商品としてのノートPC

ヤマダ電機は場所を提供し、そこで展開される企画についてはベンダーに任されるのではないか。そこでのカネの動きや方向は定かではないが、Win-Winの関係を確立するのがこのスペースのまさにコンセプトだ。山田CEOも、ここを、ベンダー各社が競い合う場所として使ってほしいといっていることからも、きっとそうであることは想像に難くない。

ヤマダ電機のLABIは、都市型店舗として大都市を中心に22店舗を展開しているが、それらの店舗とは明らかに毛色が違う新店舗だ。山田CEOは、この店舗で見て知った製品を、他のLABI店舗で購入してもらうのも大歓迎だとする。

あらゆるものがコモディティとしてとらえられるようになり、製品にさわることもなく、見ることもなく、「ないと困るから買う」「次に何を買うかは壊れてから考える」といった視点でのもの選びが当たり前になりつつもある。そこでは新しいモノづくりや製品の視点、そして想像もしなかったことができるテクノロジーに触れたときの興奮も、なくなりつつある。

そんな時代の店舗に求められるものは何なのか。新店舗では、インバウンダーも重要な顧客としてとらえられている。彼らの目には、日本という国のものづくりがどのように映っているのか、そして、その売り方は、製品にどのような付加価値を与えるのか。それを知ることで、日本人もモノの見方を再確認できるかもしれない。全国から選りすぐりの精鋭スタッフを終結させ、これまでとはまったく異なる接客で顧客に理解を与えるというヤマダ電機の大きな冒険が、今後の量販店の在り方にどんな影響を与えることになるのかに注目したい。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)