AIプラットフォームで知られるメタリアル社が、勤労感謝の日にあわせて、20~69歳の会社員を対象に「AIと労働時間に関する調査」を実施した(該当PDF)。

結果としては、回答者の約7割にAIに任せたい業務があって、その業務時間は1日あたり実に1.9時間あることが明らかになったという。1日8時間の勤務時間だとして、その4分の1に相当する2時間弱は人間である自分がやることもないなあと思っているということか。

普段の仕事でAIに任せられたらいいなと思う作業については、

  • 1位「資料作成」(36.4%)
  • 2位「資料作成のためのリサーチ」(25.2%)
  • 3位「電話対応」「経費精算」(どちらも22.2%)

という結果だったという。

今どきの労働者は、「資料作成」「リサーチ」「電話対応」「経費精算」は人間がやることではないと思っているか、それとも人間よりAIがやったほうがいい結果が得られると思っている。

個人的に各企業のユーザーサポートでAIチャットサービスなどの対応が役にたったと思ったことは一度もないのだが、世間一般的にはそうでもないのだろうか。

  • メタリアルが実施した「AIと労働時間に関する調査」結果。「AIに任せたいと思う作業はない」も3割以上を占めている

    メタリアルが実施した「AIと労働時間に関する調査」結果。「AIに任せたいと思う作業はない」も3割以上を占めている

AIに任せたい「1.9時間」は自分のために使いたい

アンケートの回答では、時間や手間がかかる面倒な作業をAIに任せ、自身は別の作業に時間を当てたいというものが多かったそうだ。

ところがAIによって仕事から解放されたらできた時間は、「趣味や遊び」「家族と過ごす時間」に使いたいという回答が多かったらしい。自分にしかできないであろう他の仕事の質を高めたいといった風にはならないところがおもしろい。

同社はAIに任せたい「1.9時間」を、一カ月あたりの20営業日、日本全国の平均時給 2,401円、日本全体の生産年齢人口(15~64歳)約7,509万人から算出すると、1年あたリ「約82兆円分」の人件費に相当するとしている。この人件費を別のことに使うのか、使うのをやめるのかで事業は大きく変わりそうだ。

興味深いのは、1.9時間という時間が客観的な値ではなく、今、その仕事をこなしている自分自身がそれをめんどうだとか、自分でなくてもできそうだとか、機械にやらせることができるじゃないかと主観として思っている作業であるということだ。

そして、それらをAIに任せられるとしたら、1日あたりこのくらいは時間を短縮できるんじゃないかという希望的観測の平均値になる。

アッという間に浸透したAIの利活用ではあるが、AIにいったい何ができるのか、そしてそのできることは十二分に人間の期待に応えられるものなのかというのは、まだはっきりとはわかっていない。

もしかしたら、人間はAIの潜在能力をまだしっかりと把握しきれていないかもしれず、宝の持ち腐れになっているかもしれないし、その逆に、期待しすぎという可能性も考えるべきだろう。

AIに何をやらせるか、人間の創造性が試される

AIに何をやらせるかを考えるプロセスでは、人間の創造性が試されているといってもいい。いわゆるないものねだりを繰り返すことで、できることは増えていく。

これはパソコンがビジネスの現場に入っていった1990年台の状況に似ていなくもない。ただ、あのころのパソコンは人間にラクをさせてくれるというよりも、人間の仕事を奪うんじゃないかと思われるふしもあったかもしれない。可能性はあったにしても、その時点では無茶だった。

今回の調査では、AIに仕事をやらせた結果、自分が仕事を失うという危機感は不在で、むしろ「趣味や遊び」「家族と過ごす時間」に使いたいという願望が前面に出てきているところに時代を感じる。

同じことをする限り、ラクをさせてくれるというのと仕事を奪われるというのは紙一重なのにだ。