もうすぐ春。新入学、進学、就職など、年度が改まる日本の春は特別なシーズンだ。
新しい生活を始めるにあたって、パソコンの買い替えや新規購入を考えている方も少なくないはずだ。コロナで緊急事態宣言が出たのは2020年のことだったが、当時、自宅で使えるパソコンがなければにっちもさっちもいかないということで、とにかく何でもいいからとパソコンを調達した方もたくさんいるそうだ。
あれから4年、あのとき調達したパソコンも十分に元がとれた。酷使したことでオンボロになっているかもしれない。それを新しいパソコンに置きかえようと、あれこれ情報を集めている方も多そうだ。
だが、今年(2024年)はパソコンを買うのがとても難しい。
ひとつの情報材料として、パソコン用プロセッサ大手のインテルは、2023年秋に、同社の主力製品を一新、40年に一度の大革新としてCore Ultraプロセッサの初代をデビューさせた。このプロセッサを搭載した製品は、順次、パソコンメーカー各社から発表/発売される。
この春の最新製品のほとんどはこのプロセッサを搭載しているはずだ。インテルはこのプロセッサを構成する要素として、NPUと呼ばれるAI処理が得意な処理系を加えた。そして、AI PCというコンセプトでパーソナルコンピュータを再定義しようとしている。
PCでのAI処理を活かせるソフトがまだ少ない
だが、コンピューティングはハードウェアとソフトウェアで成り立っている。インテルがプロセッサというハードウェアでAI PCのお膳立てをしても、ソフトウェアとしてのAI処理の新しい当たり前がまだ確立していないというのも現実だ。
40年に一度という活気的な技術革新を、どのように使い、どのようにエンドユーザーに紹介し、どのように使ってもらえばいいのかが、今のところ曖昧で、明確な提案として完成していないのだ。
もちろん世の中はAI一色で、たった数年でAIなしでのコンピューティングは考えられないようになっている。自然言語で問いかければ、疑問に答えて、新たな提案もしてくれる生成AIも、今のところはインターネットを介して遠いところに置かれたコンピューターとの対話であり、そのAI処理が目の前のパソコンで行われるわけではない。
インテルの新プロセッサに限らず、Macに搭載されているアップルのチップ、スマホなどに搭載されているクアルコムのチップ、ArmのチップなどもAIのための処理系を実装しているが、その使い道はまだマニアックだ。
たとえば、オンライン会議での音声コミュニケーション時にノイズをキャンセルするとか、人物映像の見栄えを電子メーキャップなどでよくしたりといったことをAI処理で行うのだが、それも立派なAIではあるにしても、一般的なエンドユーザーにはピンとこない。
今年後半に電力効率を高めた新プロセッサが登場
さらにインテルは、現行のCore Ultraプロセッサを今年後半に刷新、さらに、来年には電力効率を高めるとすでに予告している。要するに、これから短い期間でどんどん刷新されるのだ。
パソコンはほしいと思ったときが買い時であるとはいえ、これはなかなか購入に踏み切るタイミングが難しい。
とにかく新しいものに飛びついてAI準備完了の状態にしておき、AIソフトウェアを順次積極的に入れていくのか、もう少し待って性能重視の据置型パソコンを手に入れ、重いAI処理にもビクともしない環境を手に入れて仕事や勉強に役立てるのか、それともさらに待って電力効率が高いモバイルノートパソコンでAI処理を持ち運ぶのかと、いろいろ夢はふくらむ。
それが今年の春から来年の春・夏あたりの1年間にパソコンシーンで起こることと悩みの種だ。
「ほしいと思ったときが買い時」ではあるが……
仮に2020年に手に入れたパソコンを手元で使っているとすれば、だいたい5年間使ったパソコンを置き換えることになるわけで、ちょうどいいといえばちょうどいいタイミングだ。
とにかく今年から来年にかけて、いいタイミングでの買い物ができるように、当面は、いろんなパソコンのニュースに気をつけていたほうがいい。こればかりは情報戦で、パソコンだったら何でもいいというタイミングではない。
おそらくこういうワクワクドキドキは、1970~80年代にかけて、コンピューターがオフィスや家庭で使われるようになっていくなかで、得体の知れない機械にとてつもない期待をもって接してきた時代の再来ともいえる。
人の暮らしや働き方は、新しいパソコンの登場で大きく変わるのは間違いない。今はそういうタイミングなのだ。そこをしっかり見ておこう。世代にもよるが、パソコンの登場、インターネットの浸透、スマホの登場を横目で見てきて乗り遅れたと感じているなら、その失敗を繰り返してはならない。