NECパーソナルコンピュータと富士通が、1月20日、都内で発表会を開催、春モデル新製品各機種を披露した。興味深いのは両者が共に、よく似た方向性を持った新コンセプトの製品を発表したことだ。ノートPCでもない、デスクトップPCでもない、かといって一体型PCとは一味違う、そんなPCだ。
NECパーソナルコンピュータの「LaVie Hybrid Frista」は、台座の上にチルトするスクリーンが実装されたもので、キーボードは台座の株に収納でき、同サイズのスクリーンを持つノートPCの半分程度のフットプリントしか占有しない。Fristaはフリースタイルを元にした造語であるという。
家庭で使われてきたクラムシェルのスタンダードノートPCは可搬型ではあっても、ほとんど外に持ち出されることはなかった。そして、ノートではあっても、使うときには大きなフットプリントが必要だった。それを省スペース化し、片付けられることなく、出しっ放しにしておいて、いつでも気軽に使えるPCをめざしている。スクリーンはタッチ対応の15.6型で、一体型PCに比べればきわめてコンパクトで、家庭内における持ち運びもたやすい。これを見れば、多くの場合はノートタイプである必要がなかったことに気がつくはずだ。ノートが欲しかったのではなく単にコンパクトなパソコンとしてノートを選ぶしかなかったということだ。
一方、富士通の「LIFEBOOK GH77/T」は、本体に相当する台座がクレードルになっていて、そこにタッチ対応15.6型スクリーンを装着して使う。キーボードやマウスはワイヤレスで別添される。
実は、このスクリーン、本体とワイヤレスで通信し、タッチ情報と表示情報をやりとりする。つまり、ワイヤレスモニタだ。本体から取り外して部屋の別の場所で、まるでタブレットのように使えるのが特徴だ。処理系を本体側にもたせたことによって、タブレットスクリーンそのものの重量は約980gに抑えられている。15.6型でこの重量はかなり優秀だ。
NECPも富士通も、クラムシェルタイプのスタンダードノートPCが、必ずしも、一家に一台のスタンダードコモディティとしてふさわしいと考えていない点で共通している。ならば、新たなプラットフォームを提案しなければならないと考えるのは当然の戦略だ。
NECPのLaVieは誕生から今年で20年になるそうだが、実は、20年前からPCの使い方はそれほど大きく変わってはいないという。そこに大きな課題があり、デジタルライフは一般消費者の中にまだまだ浸透してはいないというのが同社の考えだ。
また、富士通では、パーソナル商品に求められる価値は拡がる一方であるとし、法人顧客と個人顧客のニーズが次第に重なるトレンドにあるという。確かに今回のLIFEBOOKにしても、オフィスのデスクでは本体に装着して使い、10メートル程度離れたテーブルでのちょっとしたミーティングにはスクリーン部分だけを持って行くような使い方もできそうだ。家庭においてリビングに本体を置いて、キッチンや寝室にはスクリーンだけを持って行くようなスタイルと同じだ。
こうした製品の登場によって、この20年間、本当に代わり映えしなかったPCのフォームファクタに、再び変化が生まれることになる。買い替えようにも前とどこが変わったのかさっぱりわからず、どうにも新しみが感じられないのでは、なかなか購入に踏み切れない。だが、これなら暮らしが変わりそうだという予感が芽生えるかもしれない。
確かにスマートフォンは、これまでパーソナルコンピューター的なものを使わなかった、あるいは使えなかった場所でのコンピューティングをかなえたことで、人々の暮らしに大きな影響を与えた。それまでは、コンピュータを外に持ち出すのは、ごく限られた人々だけだったからだ。でも、それを実感しているのは、まだ、国民の半分に満たないといってもいい。残りの半分はどうなのか。実はコンピュータはとても便利だということへの気づきを与えることは重要だ。残りの半分の人たちを支えるのは、スマートフォンではなく、こうしたフォームファクタなのかもしれない。
国内において大きな影響力を持つ両社が、同時にこうしたパソコンを提案してきたことは、それがたとえ偶然であったとしても興味深い出来事だ。