ソフトバンクと日建設計が、データを活用して自律的に進化し続けるスマートビルの構築に向けて「SynapSpark株式会社」を設立した。スマートビルの構築を支援することによって、人と建築と都市をデータでつないで社会課題を解決することを目的とするという。
デジタルと建築のプロがタッグ、AI搭載ビルの建設へ
都市、建築、デザインで日本一を自負する日建設計だが、同社が今、懸命に取り組むのが脱炭素だ。そのためには、ビル全体の最適化を実現するスマートビルが求められる。
物理的なビルのファシリティ基盤でビルディングOSを稼働させ、そこでアプリが実行される。まさにビルそのものがコンピュータだ。その構想のためには、デジタルと建築の両方に精通する専門チームが必要だと株式会社日建設計の大松敦氏(代表取締役社長 社長執行役員)はいう。
そこでタッグを組んだのが、建築・設備の知見を持つ日建設計と、デジタルの知見を持つソフトバンクだ。
ソフトバンクの宮川潤一氏(代表取締役 社長執行役員 兼 CEO)は、生成AI時代の到来に言及し、あらゆる産業でAIが自律的な最適化に貢献するようになると断言、ソフトバンクとしては、ビルにAIを搭載して「Autonomous(オートノマス、自律型)ビル」を建てることをもくろむ。
ビルのスマート化で時間が経っても価値が上がる?
現在のソフトバンク竹芝本社ビルは、東京ポートシティ竹芝として、2020年に開業しているが、当然、設計段階からAutonomous化にチャレンジしている。
Autonomousビルでは、ロボットや空調を自律制御する。また、ビルの内外のエネルギー需給を人間の指示がなくてもビルが自主的に実行する。そのためのビルOSが5Gネットワークによって基盤としてのビルファシリティと密接に連携し、各種の最適化をかなえる。
このようなデータを使ってビルを成長させることができれば、経年変化でビルの価値はあがっていく。現在は、ビルの最大価値は竣工時で、そこからは価値が下がる一方だが、スマビル化でそうではなくなるということだ。
もっとも1,400個のセンサーを最初からビルに実装したソフトバンクの東京ポートシティ竹芝ではあるが、竣工当時は最先端だとされたものの、やりきれなかったことがたくさんあると宮川氏はいう。
たとえば設備ごとの独自仕様があり、管路なども決まっていたので、これから追加でのセンサー増設は難しいなどの懸念がある。こうした面を5Gネットワークなどで解決することで、近代日本の都市発展に貢献したいと宮川氏。そのためには、日建設計と組むしか考えられないと判断したそうだ。
既存のビルもテクノロジーの力でスマビル化
彼らがスマビルと呼ぶビルOSの稼働するスマートビルの最たる特徴は、既存のビルもテクノロジーの力でスマビル化できるという点だ。
もちろん彼らが考えるAutonomous化実現には、設計段階での反映が不可欠だ。だが、この先の建設されるビルに加えて、既設のビルもスマビル化することができれば、建物や都市の持続的な価値を創造できるという。実装ができればLANケーブルの敷設は半分ですみ、消費電力は15%削減を想定、ビル運営工数も30%削減が想定されるという。
オフィスビルはもちろん、集合住宅用のマンションにしても、建物が使われる年数を考えたときに、今までは、ビルを使う人、ビルに住む人の、ちょっと先の未来のことやその運用を、建てる側は考えなさすぎだったように思う。20年前に建てられたマンションなのに、各戸個別に光回線を引き込めないとか、部屋にコンセントが2口しかないといったところをざらに見かける。そのたびになんということかと感じざるをえない。
スマビルというコンセプトが一般的になるかどうかはともかくとしても、彼らのチャレンジは期待をもって応援したいと思う。