イマーシブな時代だそうだ。イマーシブというのは没入感を意味し、特定の状態に没頭できることをいう。いろいろな実現方法があるが、いわゆるリアリティからは、なんらかの方法で隔離したほうが没入感を得やすい。
仮想現実(VR)はイマーシブを実現するためのひとつの方法だといえるが、拡張現実(AR)や複合現実(MR)はちょっと方向性が違う。現実に別の世界を重ね合わせることで完成するもうひとつの現実空間だからだ。
外の音を聞けるイヤホンが活況
こういう時代であるにもかかわらず、最近、よく見かけるのようになったのが環境音をスルーで聞けるイヤホンだ。マイクで外音を拾って、それを再生するのではなく、実際のリアルな環境音が耳に聞こえる仕組みのものだ。
各社からいろいろなタイプのものが発売されている。各社の骨伝導イヤホンなどがそうだし、おもしろいところではNTTグループのNTTソノリティ社が、nwmブランドでオープン型なのに音漏れを抑制するPSZというテクノロジーを搭載したイヤホンを製品化している。
また、ソニーのLinkBudsなどもその方向性を持った製品だ。もっというと、メガネ型スピーカーともいえるAnkerのSoundcore FramesやHuaweiのEyewearなんかもそうだといえる。
1万円を切るコスパのよいモデルも
ティ・アール・エイのガジェットブランドcheeroも、cheero Wireless Open Earphonesを発売した。この手の製品の中では低価格な製品だ。完全ワイヤレスのイヤホンだが、早い話が耳にひっかけるスピーカーで、耳穴を塞がない構造になっている。
だから、周囲の音はリアルに聞こえ、耳元のスピーカーがサウンドを再生する。再生音は周りにダダ漏れで、電車の中などでの利用は難しそうだが、在宅勤務でオンライン会議に参加していても、来客や家族の呼びかけにちゃんと応答することができるし、再生しながら会話もできる。
防水等級はIPX5で、ある程度の汗や雨などは平気だし、誤動作の多いタッチセンサーを嫌って、物理ボタンを装備する。再生デバイスとはBluetooth接続で、コーデックはSBC以外に、AACやAptXにも対応する。ケースがワイヤレス充電に対応しているのも気が利いている。欲をいえばマルチポイント接続も欲しかった。このブランドのガジェットは、トレンドをキャッチするのがうまいので目が離せない。コストパフォーマンスもいい。
その静かさは新しい当たり前
ここ3年ほどで、オンラインコミュニケーションが急速に浸透し、各社のデバイスもその対応に積極的だった。自分の声をクリアに相手に届けるために、AIを使ったノイズキャンセル機能などを駆使するようになっている。
工事現場などの騒音の激しい場所であっても、相手がまったく気がつかないくらいに静かな環境で会議に参加しているように声が届く。カフェ空間などでの会議参加でも、相手には静寂そのものの空間にいるかのように聞こえる。
普通にオンラインでコミュニケーションするときには、自分の声が相手にどのように届いているのかを聴くことがないので、気がつきにくいのだが、実際には、びっくりするほどうまくノイズがキャンセルされて送られている。その静かさを新しい当たり前として相手は聴くようになった。この変化はコミュニケーションオーディオの革命だと言ってもいい。
そうして届いたクリアな音声を再生する選択肢のひとつとして注目されているのが、オープン型のイヤホンだ。丸一日ずっと耳につけていても疲れないし、リアルなコミュニケーションとバーチャルなコミュニケーションを複合化して両立させる。つまり、片側のコミュニケーションにイマーシブになることを抑制する。
イマーシブな時代なのにイマーシブを抑制するという時代。どうにもややこしい。