1MOREからオーバーヘッドタイプのヘッドホン「SonoFlow」が発売された。LDAC(再生機がサポートしている場合のみ有効)などのハイレゾ音源に対応したアクティブノイズリダクション対応のヘッドホンで、アマゾンなどでの入手が可能となっている。
同社はグローバル展開する中国のオーディオブランドで、元Foxconnの社員がスピンアウトし2013年に創設されている。そろそろ10年目を迎えるベンダーだが、ここ数年の台頭は著しい。ちょっと気になる製品なので、1MOREにお願いして製品を試させてもらった。
最近、ずっと完全ワイヤレスイヤホン(TWS)ばかりを聴いてきた。各社から発売される製品のほとんどがTWSということもあるが、その著しい進化に目を(耳を)見張るものがあったからだ。ノイズキャンセルについても数年前とは雲泥の差を感じる。
だったら、オーバーヘッドタイプのヘッドホンの新製品は今どんな感じなのだろうと考えた。1万円をちょっと超える金額で手に入る製品は、同価格帯のTWSと比べてどうなんだろうというわけだ。季節はもう秋。オーバーヘッドのデバイスを頭にかぶっていても暑苦しさはあまり感じなくなりつつある。
価格と品質のバランスがいい無線ヘッドホン
持ち運びが不便でも、本体の大きいことのメリットは、余裕をもって大きなドライバーを使えることだ。
「SonoFlow」では40ミリのダイナミックドライバーが使われている。その副作用として重量が重くなってしまうのだが、250グラムに抑えられている。本体に余裕があれば、バッテリも重量と戦いながら大きなものが使えるので、ANCをオンした状態で50時間の連続再生ができる。この長時間再生は微小サイズのTWSでは不可能だ。それに気軽に頻繁な脱着ができるというのもいい。
コロナのおかげで長時間飛行機に乗ることは少なくなったが、薄暗い機内で静寂を得ながら音楽を楽しんだり、睡眠をとるといったニーズに備えるには、ノイズキャンセルの仕組みは偉大だ。それがTWSによって身近な存在になってきている。ただ、無くしやすいことには細心の配慮が必要で、それが大きなストレスになってしまっている。飛行機の中で睡眠するのにTWSはちょっと使う気になれない。
さらに、イヤホンを装着していても、その存在をアピールするのが難しいというのは、ファッション的にどうかということで、今はワイヤードイヤホンやヘッドホンが復権するというトレンドもあるようだ。
こうした流れの中で出てきた「SonoFlow」は、その価格からは想像できないほどの品質が確保されているコストパフォーマンスの高い製品だ。
以前なら1万円未満の価格がついていただろうが、円安の続く今、この価格でも十分に競争力がある。直接のライバルは飛躍的な進化が進行中のTWS群だが、そこにあっさりと食い込めるポジションだ。
充電は左側ユニットのUSB Type-Cポートからの給電、また、右側ユニットには有線ポートも備える。付属のケーブルで3.5ミリのオーディオジャックを使った再生ができるが、再生時には電源がオフになり、ANCは使えなくなり、完全なワイヤード再生になる。これはこれで潔い。
ただ、個人的には過去に使ってきたヘッドホンのほとんどが左ユニットからケーブルが生えていたので、右ケーブルにはちょっと違和感がある。だからといって左ユニットのType-Cポートを使ってケーブルでスマホとつないでも再生はできない。これができれば最強だったのにと思うとちょっと惜しい。
エージングがスマート化、自動で鳴らす×慣らす
おもしろいと思ったのは、専用アプリ「1MORE MUSIC」だ。ものすごくバランスがとれたユーザー体験重視のユーティリティだ。こういうアプリを見ると、製品そのものへの信頼感も高まる。
その1機能として「スマートバーンイン」と呼ばれる機能が搭載されている。これは製品の工場出荷時の電子部品、振動板を矩形波、ピンクノイズ、正弦波、ホワイトノイズを使って「慣らす」ための機能で、長時間「鳴らす」ことで音質を改善することをいうそうだ。
ぼくらはこうした行為をエージングと呼んできた。そのスマート版だ。単純に音楽を聴きながらの鳴らしよりも効果が高く、そのための時間も大幅に短縮できるという。
実際に鳴らして慣らすには半端ではない時間が必要だ。4つのフェーズがあって、第1フェースが約12時間、第2フェーズも12時間……と2時間やったら20分休み、最後のフェーズまでやると丸々6日間かかる。これを自動でやってくれる。
過去においては新品のオーディオ製品は、エージングのために音楽を数十時間再生して慣らすのが常だったが、せっかく手に入れたヘッドホンなのに、準備のためにすぐに使えないというのはつらいかもしれない。
ただ1MOREの説明によれば、購入後すぐにバーンインするのは間違いであるともいう。だから、しばらく使ってから、時間に余裕ができたときにすればよさそうだ。長期間の慣らし運転となるので、できれば予備の端末を使うのがおすすめだ。
また、2台のデバイスと同時接続するマルチポイントにも対応予定で、実験的機能としてアプリからオンにすることができる。スマホとパソコンとの同時接続を設定しているが、現時点での利用も特に問題ない。
回帰ではあるが、それも進化だ
このスマートバーンインとLDACのオンオフ、そして、ファームウェアのアップグレード、そしてプリセットのイコライザー切り替え、マルチポイントの機能を使うには専用アプリ「1MORE MUSIC」をAndroidまたはiOSデバイスにインストールする必要がある。
一般的なBluetooth接続で音楽を楽しむ分にはアプリは必要ない。ただ、このアプリには「落ち着くサウンド」としてエンドレスで滝の音や炎の音、雑踏音、自然音などを選択して再生することもできたり、先のスマートバーンイン機能があったりと何かと重宝する。
正直、耳穴に何かの異物をつっこむ感のある聴覚体験は、この数年間で、ちょっとつらくなってきていて、次のエサ、もとい付加価値が欲しくなってきているタイミングだ。
だからこそ、オーソドックスなフォームファクタであり、頻繁な脱着がたやすく、そして紛失しにくいこと、また、余裕のある自然な再生音などを兼ね備えたコストパフォーマンスの高い製品として注目しておきたい。回帰ではあるが、それも進化だ。