東京大学・松尾豊大学院教授研究室発のDeep Learningを軸としたAIプロフェッショナル集団ELYZA(イライザ)が、大規模言語AIの第2弾として「ELYZA Pencil」を公開した。
昨年夏にリリースされた要約AI「ELYZA DIGEST」に続くもので、キーワードを入力するだけで約6秒で日本語のタイトル、文章が自動生成されるというものだ。
現在、サービスサイトのデモでは、任意のキーワードを入力すると、それに関するニュース記事、ビジネスメール、職務経歴書を生成できる。日本語キーワードから文章生成できる大規模言語AIの一般公開は国内初だという。
正確性は東大生に負けても速度は圧倒的
リリースを読むと怖いことが書いてあった。「全国民のホワイトカラー業務の10%以上をAIを用いて代替できる可能性あり」とある。
本当はこの10%という数字は少し控えめなのではないだろうかという気持ちになるくらいに、デモ体験は衝撃的だ。おそらく的確に優れたキーワードを用意することだけを人間が考えることができれば、人間の仕事はそこまでといっても過言ではない。でも、間違ったキーワードを与えてしまうと生成される文章もおかしなものとなる。
AIによる文章生成は、穴埋め式の穴を埋めることで生成するテンプレート型とAIが一から文章を作文する生成型の2種類がある。当然、後者の方が難易度は高い。だが、今回の「ELYZA Pencil」は、生成型を採用している。
すでに公開されているデモサービスは、誰でも登録などをしなくても体験できるようになっている。キーワード2~8個を登録すると、そのキーワードを元にAIが文章を生成する。
現役東大生が同じことをして比較した場合、1/56の時間で執筆できるという。流暢性は東大生とほぼ同じ水準、ただ、仕様上、指定したすべてのキーワードが使われない場合もあるが、東大生のチャレンジでは確実にすべてのキーワードを使う。つまり、正確性やキーワード含有率については東大生に負けても、速度は1/56と圧倒的で、流暢性では同等水準という評価がされている。
文章を書く行為は無駄なのか?
こうした研究を目の当たりにすると、実は、文章を書くという行為の多くは本当は無駄なのではないかと思うことがある。ライターにとっては死活問題だ。
重要な数個のキーワードを並べるだけでAIが記事を作ることができるのなら、本当に伝えなければならないのは、そのキーワードだけで、他はオマケということになる。そもそも文章にする必要がないという極論にも通じる。
もちろん、料理と同様に、まったく同じ材料を使っても、美味いディナーができるかどうかは料理人の腕次第だ。同じキーワードを与えられても、AI次第でできあがりの文章の完成度は異なるものになるだろう。
でも、その完成文章を人間ではなく、AIが読むとしたらどうだろう。冗長な表現はノイズに過ぎず、本当は、キーワードだけが伝わればいいということにもなりかねない。料理の美味しさとはちょっと異なる価値基準が必要だ。
とまあ、そういうことを考え始めると、1時間のニュース番組を1時間かけて視聴するのは時間の無駄だとか、ドラマや映画だってだって数倍速で見ればいいとか、極端な話、あらすじだけ確認すれば十分だということにもなりかねない。
いつかAIが感性を刺激する記事を書くかもしれない
新聞の見出しは人間が作ったものなので、その羅列では事実が伝わりにくいが、全文をスキャンした上でAIが要約し、それを文章にしてくれば、相当量のダイエットになる。
きっと多くの人々はそれはないんじゃないかと思うだろう。やはり、究極の無駄が人間の感性に与える豊かな刺激をAIが生成するには、まだちょっと時間がかかりそうだ。でも不可能ではなさそうだ。
その一方で、今回の試みのように、「実用」ということだけを考えるのであれば、そもそも文章を生成する必要があるのかどうかという禅問答のような場面に突き当たる。これはコミュニケーションの根本的なところに関わる問題だ。