ソニーモバイルコミュニケーションズは、ドイツ・ベルリンで開催中のデジタル家電展示会IFA 2014において、スマートフォンXperiaシリーズの刷新と世界最薄最軽量の8型タブレットXperia Z3 Tablet Compact を発表、さらにウェアラブル端末として、SmartWatch 3などを発表した。
だが、今後の同社の戦略を担う重要な製品としては、地味かもしれないが、SmartBand Talkをきちんとマークしておく必要がある。
このデバイスは曲面型電子ペーパーを採用した腕時計型のデバイスだ。炎天下での視認性もよければ、バッテリでの駆動時間も長くとれる。ソニーでは、この手のデバイスは週に1度の充電ですむようにしていきたいと考えているそうだ。
SmartBandはソニーのSmartWatchや、一般的な他社製スマートウォッチと比較してもずいぶん小柄だ。これを身につけるのは何のためなのか。できることはたくさんあるが、その中でもっとも重要なのが、このデバイスに埋め込まれた各種のセンサーを使って収拾した情報を集め、スマートフォンのLifeLogアプリによって生活のログをとることだ。
さらに同社では、この手のウェアラブルデバイスは人間がひとつだけを身につけるものとは考えていないようだ。腕にひとつ、クツにひとつ、ベルトにひとつと、人間があまり意識しないですみ、負担にならないのなら、集める情報のバリエーションを増やすために、複数のデバイスを身につけるように仕向けていきたいようだ。
たとえば、ユーザーが汗をかいたとしよう。これは、腕などの直接肌にふれるデバイスが発汗センサーで検知する。そのときにユーザーは何をしていたか。スマホのアプリで写真を見ているのだ。誰が写っている写真かは、過去にタグ付けされているからすぐにわかる。そして、以前に同一人物が写っている写真を見たときも汗をかいていたことがライフログに記録されている。そして、数分後に、あるアドレスにメッセージを送るのだ。前回もそうだった。だから、今回は、求められる前にメッセージを送るサジェスチョンを提供しよう……。
とまあ、こんな具合に、恋の始まりを教えてくれるようなことも起こりうる。この例は極端であるにしても、まるでGoogle Nowのようだと感じる方もいるかもしれない。
IFAの会場でプレス向けに行われた同社のラウンドテーブルで、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社、シニアバイスプレジデント、デザイン・商品企画部門部門長の田嶋知一氏がそのあたりをうまく説明してくれた。
Googleは検索キーワードや、やりとりしたメール内のキーワードなど、ユーザー自身が自発的に入力などの操作をして活動した結果をもとに、ユーザーへの提案を提供しているという。だから、ある意味、提案は予期できるものだ。
それに対して、ソニーでは、ユーザーが意識しないところで発生するセンサーからの情報を収拾し、ユーザー自身が思いもしなかった情報を提供したり、提案ができるようにしていきたいという。そのためには、情報を集めるセンサーは多い方がいい。ちなみに、Andoroid Wear OSは、スマートフォン1台につき、1台のみのペアリングが仕様なので、こうした使い方には向いていない。ただ、ソニーとしては、Googleに対して、より柔軟な使い方ができるようにOSの仕様変更を含めて提案しているそうだ。
つまり、少なくとも、現時点で、ソニーが考える世界を実現できるのは、SmartWatch 3ではなく、SmartBand Talkなのだ。
また、今のXperiaがめざしているのは、ソニーが擁する各種のデバイスやクラウドサービスの統合と連携だ。さまざまな機器がクラウドを介してつながり、ソニーならではの世界を構築していく。スマートフォンやタブレットの世界は、ハードウェア的にもソフトウェア的にも差別化が難しくなってきている中で、そこに何らかの付加価値を提供するための方法論として、連携というのはわかりやすい。ソニーだからこそできるソリューションも少なくないはずだ。
情報の消費にタブレット、情報の生産にPCというのは、よくいわれることだが、田嶋氏によれば、情報を生産する領域もXperia Tabletがあれば、それで十分な時代になりつつあるという。だからこそ、Microsoftもそれをわかっていて、WindowsにこだわらずにAndroidやiOSなどの各種モバイルOS用にOfficeアプリを提供し始めているのだとも。
ソニーがめざす世界の中にPCとしてのVAIOがなくて困りませんかともきいてみた。田嶋氏はちょっと間を置いて答えてくれた。
「会社が決めた方向性ではあるのですが、まあ、困らないですね、少なくとも今は」と……。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)