東京・渋谷駅前のハチ公前広場に138型スクリーンのモニタが設置され、Googleのボイスサーチマップが使えるようになった。8月31日までの運用だ。

渋谷道玄坂商店街振興組合が主催し、渋谷区、渋谷区観光協会後援によるキャンペーン「Discover SHIBUYA 渋谷をもっと見つけよう。」にGoogleが協賛したもので、モニタの前に装備されたマイクに向かって「近くのコンビニ」「近くの中華」などと、行きたい場所やカテゴリを話しかけると、その検索結果が大画面に表示される。手元にもタッチスクリーンがあり、検索結果から気になる店をタップすると、コミカルな効果音とともに、そこまでの経路がアニメーションで表示され、さらにストリートビューで店の外観が表示されるというものだ。

このユーザー体験は、これまでAndroidやChrome、iOSといったプラットフォームで提供されてきた、どのアプリにもなかったもので実に楽しい。ぜひ、アプリとして手元のスマホやタブレットでも使えるようにしてほしいくらいだ。ちなみに、ここでの検索結果はNFCやQRコードで手元のスマホやタブレットに転送できる。プリントアウトではない点が今の時代を象徴している。

渋谷駅前のハチ公前広場は、スクランブル交差点になっていて、いろいろなニュース映像などで有名なロケーションだが、そこを囲む4機のビジョンにも、頻繁にGoogle検索のプロモーションビデオが投影される。まさに、ハチ公前広場がGoogleにジャックされた様相だ。

渋谷は東急東横線、田園都市線、東京メトロ銀座線、半蔵門線、副都心線、京王井の頭線、山手線などが交わるターミナル駅だ。2013年の3月に東横線と副都心線が相互直通運転を開始したのに伴い、東横線駅が地下化されているが、それによって、東横線を降りて地上に出るまでの経路が複雑化してしまった。地下深いこともあり、買い物などのために渋谷の街に繰り出す乗降客数にも影響が出てきてしまっている。

東横線利用客の中には、渋谷での買い物をあきらめ、そのまま副都心線で新宿に直行、新宿三丁目駅至近の伊勢丹百貨店まで行くパターンも出てきていて、伊勢丹百貨店の売り上げが伸びているという話も聞こえてくる。

だから、渋谷の街にとって、体制の立て直しは必至だ。

「渋谷にとっていろいろなよくない話も聞こえてきますが、実は、そんなに気にしていないのです。今、渋谷は100年に一度ともいえる大改造の真っ最中です。それが完成するまで、しばらくの間はご不便をおかけしますが、ある程度は仕方がないと思っています。でも、完成まで、ただ指をくわえて見ているだけではありません。いろいろな働きかけで街を活性化していきたいと考えています」。渋谷道玄坂商店街振興組合理事長の大西賢治氏はそう語る。

右から渋谷区観光協会理事長の松井裕氏、渋谷道玄坂商店街振興組合理事長の大西賢治氏、グーグル株式会社執行役員マーケティング本部長の岩村水樹氏。自転車は、渋谷の街の商店が店情報を登録するための出張サポートを行う「Google マイビジネスサポーター」だ

「ライバルともいえる西武と東急が、いっしょに街を盛り上げる企画に参加してくれます。こんな街は渋谷だけだといってもいいでしょう」(大西氏)。

東京オリンピックに向けて、東京の街は大きく変わろうとしている。大西氏によれば、今、渋谷は海外からの観光客もどんどん増えているのだそうだ。しかも、外国人観光客の観光パターンが変わりつつあるともいう。以前は、観光バスで立ち寄り、スクランブル交差点やセンター街を見物して去って行くというパターンだったものが、今は、個人客が電車でやってきて、大西氏らがランチで普通に立ち寄るような店で食事をするようになっているともいう。

観光のスタイルが変わることで、街の機能として求められるものも変わっていくだろう。今回のボイスサーチマップのような試みは、その可能性を模索するものだともいえる。

もっとも今回は外国語対応が未実装だ。日本語のわからない外国人はなすすべもないだろう。最新のAndroidは、その「言語と文字入力」でGoogle音声入力の設定によって、デフォルト言語の他に、第二、第三言語として、複数の言語を指定できるようになっている。だが、多くの言語を指定すればするほど日本語の認識率は下がってしまう。

ぼくらが海外に行ったときも同じ悩みに遭遇する。たとえば、タクシーの乗務員に地図を見せて行き先を告げたいときに、ワンタッチで日本語表記の地図を現地言語に切り替えられればいいのだが、それができない。今は、タクシーの乗務員もタッチスクリーン操作に慣れていて、Googleマップなら、自分で操作して、行き先を確認できるので、この機能はぜひ実装してほしいと思う。

Googleのことだから、このボイスサーチマップを使って、どのくらいの人々が、どのような言語でどのような検索をしたのかは、キャンペーン期間1週間の間にさまざまなデータとして収拾するだろう。それを地図アプリの機能向上にも活かしてほしいものだ。

それにしても、138型スクリーンで検索結果が表示される。手のひらの中のスマホでの検索と違い、行きたい場所が公衆の面前にさらされるわけだ。そのよしあしは別にして、誰がどこに行きたがっているか。遠目に様子を見ているだけでも楽しそうだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)