東京オリンピック(五輪)とパラリンピックが閉幕した。やるべきではなかった、やってよかった、開幕前からの賛否両論の中で開催されたイベントではあるが、無観客という形態は、ヒト、モノ、カネ、権利、利権にまつわるいろいろな面をあぶり出したようにも思う。
最初に五輪の公式Webサイトが公開されたのは1996年のアトランタだった。すでに四半世紀が経過した。以降、インターネットはわれわれの暮らしと同様、五輪にとっても欠かせない存在になっていった。
長野五輪の裏にあった小さなモバイルネットワーク
五輪とインターネットというと必ず思い出すのが、1998年の長野オリンピックだ。まだスマホなど影も形もない時代だ。
当時、志賀高原・焼額山にスラローム競技を観戦にでかけたのだが、アルベルト・トンバが途中棄権してがっかりしつつ、13位に終わった木村公宣が土下座のジェスチャーで観客にあやまった様子などに興奮しつつ、レースが終わってまわりを見渡すと、何やらパナソニックのレッツノートを操作している男性の姿が目に入った。気になって聞いてみると、新聞記者でレース直後の短信を送っているのだという。
当時の野外での主要データ伝送手段はPHSだ。通信速度は32Kbpsで、64KbpsのPIAFSサービス(ピアフ、PHSを使ったデータ通信規格の1つ)はまだ始まっていなかった。
五輪の取材記者というと、豪華なプレスセンターでぬくぬくとリッチな設備を利用しているのかと思いきや、メディアごとにプレスパスの配布枚数も限られ、それでは足りずに、一般販売の有料の入場券を入手して現場に行き、取材をする特派員もたくさんいるらしいと、その記者にきいた。
決して華やかではない地味な活動だが、そうした努力で、ぼくらは五輪を自宅にいながらにして楽しめていたのだ。
ともあれ、当時の32Kbpsという通信速度は、TOKYO 2020の時代には5G通信によって1Gbps近くの速度をカンタンに得られるようになった。約20年の歳月が通信速度を3万倍にしたのだ。
文字情報をやりとりするのがせいいっぱいだったモバイルネットワークは、4K動画も楽勝で伝送できるようになっている、はずだ。もっとも高速なのは下りだけなので、5G通信といえども送信については頼りない。そこはこれから何とかしなければなるまい。大衆がこぞってしゃべり出す時代なのだ。ダウンロードの速度があがっただけでは完全とはいえない。
東京五輪はネット中継が充実するも画質はイマイチ
五輪が無観客開催となった結果、ほとんどすべての視聴者はテレビやインターネットを介して競技を楽しんだはずだ。
そもそも無観客でなかったとしても、五輪をリアルに観戦できる人の数など実数にしたらたかがしれているわけで、全世界でメディアを通じ五輪観戦をする人間の数に比べれば微々たるものといってもいい。だからこそネットワークが大事になる。
今回は、テレビでの中継に加えて、オンデマンドでのインターネット中継も充実していた。だが、テレビの中継は、時間によってはサブチャンネルに割り当てられ、著しく画質が悪くなってしまっていた。4K放送などを受信できればいいのだが種目も限られている。
ならインターネットはどうかというと、これまた発展途上だ。圧縮されてベタッとした映像で決して美しいとはいえない。動きが速い競技などは、何がなんだかわからない。
相当リッチで太い回線でつないで見ていても、インターネット経由のオンデマンド映像の画質は悲惨で、テレビ中継よりも格段に落ちる。見れるだけマシというような印象だ。大画面のテレビスクリーンではとても見ていられない。
4年ごとの節目節目でわかるネットインフラの進化
世界中の人々が、せめてフルHDのテレビ程度に美しい画質で中継映像を楽しめる程度のこともできないのが、現状の配信インフラだ。もちろん技術的には明日にでもやろうと思えばできるだろうけれど、そのためのコストを考えると、まだまだということなのだろう。
でも、あの志賀高原のころから3万倍になったモバイルネットワークの速度を考えれば、次のパリでは無理でも、その次のLAあたりの映像は、テレビでなんか見ていられないくらいにインターネットによるオンデマンド映像の方が美しいものになっている可能性はある。
4年ごとの節目節目でわかる五輪によるインターネットインフラの進化。この先も楽しみにしていたい。とりあえず、次は北京、そしてすぐにパリだ。