この1年間、コロナ禍にあって、多くのイベントがオンラインで開催された。リアルなイベントに参加するために国内外津々浦々まででかけ、開催都市を駆けずり回っていたことを思うと、自宅に居ながらにして、多くのイベントと、各社の記者会見に参加できるのはいいのだが、発表された製品を物理的に手に取ってさわれないことや、開発や販売促進に関わったスタッフとワンオンワンで話を聞くのが難しいというデメリットも痛感している。

それに会場のライブ感を把握することができないというのもつらい。イベントにリアルで参加するのと、自宅からオンラインで参加するというのでは、得られる情報の量と質がまったく違うのを実感した。かといってオンラインを否定するつもりはない。それはそれでいいところもたくさんある。

  • Web会議の録画によく使われるのが、Windowsキー+Gキーで立ち上がるXbox Game Bar。キャプチャ内の丸い録画ボタンを押すとPC画面の録画がスタートし、データがビデオフォルダに保存される

ウェビナーなら録画ができてもいいんじゃない?

オンラインイベントの多くは、ウェビナー形式で提供され、そのためにZoomやTeamsなどのソフトウェアが使われる。

どちらもオンライン会議のためのソリューションとして知られていて、個人がオンラインで飲み会をするような用途にも使われるほど普及しているが、講演会やセミナー、そしてイベント用にはウェビナー機能が使われる。同時に数千人が参加することができるという点で、単に離れたところにいる数人が会議をするといったのとはちょっと異なる使い方ができる機能だ。

オンライン会議では、基本的に自分の声と映像を相手に届けるがが、ウェビナーは、オンライン会議とは一桁以上違う数の聴衆が、主催側がほぼ一方的に配信するプログラムを聴講するというスタイルがほとんどなので、参加者は基本的に映像も音声も送らない。手を挙げたり、チャット機能を利用しての質疑応答などはできても、ほとんどの参加者は見て終わりだ。ちょうどテレビの番組をリアルタイムで見る感覚といえる。

だったら、別に生放送をリアルタイムで見なくてもいいんじゃないかという横着な考えが起こる。大学の授業をオンラインで受講している学生諸君も同じようなことを考えているかもしれない。スポーツの試合をライブで見れないときに、SNSやウェブニュースをシャットアウトして結果を知ることがないようにして録画中継に挑むようなイメージで参加をしたいと思うかもしれない。ウェビナーによっては配信映像をオンデマンドで後日視聴することができるようにしている場合もあるが、すべてがそうではない。

そしてだったら、放送番組を留守番録画するように、手元のパソコンで録画予約ができてもいいんじゃないかと思ったりもする。ただ、ウェビナー主催者の多くは参加者に、コンテンツをローカル録画保存する許可を与えないことが多い。せいぜい、リアルタイムでスマホやパソコンのOSに備わった画面録画機能を使って録画するのが関の山だ。まして、指定した時刻に自動的に録画を開始して保存するようなソリューションは見つからない。

「アナログのデジタル化」以上の発想力が必要だ

これからの世の中はいろいろなものがハイブリッドになっていくと言われている。会議もまたそのひとつだ。コロナはオンライン会議という形態を一般的なものにしたが、アフターコロナの時代には、リアルで集う会議室と、遠隔地にいる参加者を多点で結んだハイブリッド会議が普及していくだろう。そのためには、リアル会議室の装備、その形態に見合ったものを考えなくてはなるまい。

そして、何よりも求められるのは、情報を発信する側の意識の転換だ。この1年間に行われてきたさまざまなオンラインイベントを見る限り、かつて人が同時に一箇所に集まり、少対多のコミュニケーションをなんとかデジタル化しようとしてきたように見える。それはそれで素晴らしいことではあるが、やっていることはハンコのデジタル化のようなもので、既存のスタイルを強引にデジタル化したものにすぎない。メタファをいったんクリアリセットすることも必要だ。

ちなみに、7月末から海外渡航用の新型コロナワクチン接種証明書が発行されるそうだが、厚生労働省による説明によれば、接種を受けた際のワクチンの接種券を発行した市町村(通常は住民票のある市町村)に対して、(1)申請書、(2)海外渡航時に有効なパスポート、(3)接種券のうち「予診のみ」部分、(4)接種済証又は接種記録書が必要となり、接種証明書には「接種者に関する事項(氏名、生年月日等)及び新型コロナウイルス感染症のワクチン接種記録(ワクチンの種類、接種年月日等)に加え、海外渡航時に利用できるよう、旅券番号等を記載することとしており、これらの情報を日本語と英語で表記します。また、偽造防止対策を行っています」と説明している。

もう、申請から発行まですべてが紙ベースなのだ。いったいこの1年何をやっていたのだろう。

オンライン会議、ウェビナー、ハンコ、ワクチン接種説明書。コロナ禍はさまざまな世の中の当たり前を変えたし、これからも変えていくだろう。ハイブリッドはそのひとつにすぎず、これからももっと生産的なアイディアが具現化されていくだろう。

これで日本は本当に大丈夫なのかという以前に、いろいろな発想をアナログのデジタル化というところから根本的に刷新することができる方法論が求められている。定番となったオンライン会議ソリューションを見ていると、本当に、それをやろうとしているのかどうかあやしく感じる。