4月1日から富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の社長が交代、社長である齋藤邦彰氏が取締役会長に、Lenovo PCSD アジアパシフィックSMBセグメント担当エグゼクティブディレクターの大隈健史氏が代表取締役社長に就任した。

  • 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)新社長の大隈健史氏(写真右)、会長の齋藤邦彰氏(写真左)

    富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の代表取締役社長に就任した大隈健史氏(写真右)、独立前から富士通のPC事業を率いてきた齋藤邦彰会長(写真左)

4月1日に行われたオンラインでの記者会見では、両名が登場し、過去を振り返りつつ、新たなFCCLの決意を表明した。

新FCCLの変わらないところと変わるところ

レノボ・富士通のジョイントベンチャーとしてFCCLが設立されたのは2018年5月だ。この1月には設立1000日目を記する「FCCL DAY1000 Memorial Reception(DAY1000)」イベントも開催した。もうすぐ3年の節目を迎えるタイミングでの、今回の社長交代だ。

記者会見では、今までと何も変わらないということが協調された。たとえば同社は「世界最軽量は譲らない」とし、LIFEBOOK UH-Xシリーズを短いスパンでアップデート、現行製品は実に634グラムまでの軽量化を果たしている。もちろん13.3型モバイルノートパソコンとしては世界最軽量だ。その路線は今後も変わらず続くという。

  • 13.3型で634グラムを実現したLIFEBOOK UH-X。バッテリー駆動時間は短いが、かばんに入れているのを忘れるほど軽い

本当は、会見後の質問として、UH-Xの世界最軽量路線の継続について聞くつもりだったが、冒頭の齋藤氏のプレゼンテーションで、最初から「何も変わらない」が強調され、そこで継続しての世界最軽量チャレンジが表明されてしまった。

ただ、何も変わらないのでは社長が交代した意味がない。新社長に就任した大隈氏に、どの様な点が変わっていくと思うかという質問をしたところ、

「海外、特にMade in Japanを高くご評価いただいている、アジア向けのビジネス展開などに変化が見込めるものと思います。私のこれまでのレノボにおけるマーケティング等の知見を活かした展開ができると考えています」

という回答が戻ってきた。もう、すでに外資レノボではなく日本企業の社長のコメントになっている……。

  • 大隈氏が手にするのは、富士通のAIアシスタント「ふくまろ」の帽子

同社はこの3年間、東南アジアへのコンシューマー市場展開など、開発体制を充実させ、さまざまなビジネス領域に果敢にチャレンジしてきたが、その方向性に、新社長の知見が活かされていくことになるのだろう。

レノボの購買力がLIFEBOOKの最軽量を支えた

レノボ傘下になったことで、FCCLは強大な調達力を手に入れた。たとえば、世界最軽量のLIFEBOOK UH-Xは、天板をカーボンにしたことが、そのダイエットに大きく貢献している。カーボンを使えば軽くなるのはわかっていても、コスト的に使うのが難しかった素材だ。だが、レノボとのジョイントベンチャーによって、こなれたコストで入手ができるようになったという。

つまり、レノボの購買力が最軽量を支えたということだ。現行製品にカーボンが採用されたのは天板のみだが、筐体全部をカーボン素材にすることもできるかもしれない。さすがに、とてつもないコストになるそうだが不可能ではないはずだ。

そんなことができたとすれば、現行の634グラムは、場合によっては500グラム切りの領域に突入するかもしれない。一足飛びには無理だとしても、きっとそうなる。そんな夢を与えてくれる製品作りをしているのは、現在のPCメーカーの中では珍しい。素人目に見ても、次の最軽量が現実的なものとして目に映るのだ。

傘下のブランドを維持するレノボ

ただ、気になる点もある。レノボという会社は手に入れた企業、特に日本の企業、事業を手に入れた場合、本当にうまく使っている思う。ThinkPadはその先駆だが、今なお、大和研究所のブランドは、レノボとは一線を画した存在として世界が認めている。もしかしたらThinkPadはレノボの製品だと知らないで使っているエンドユーザーは少なからずいるんじゃないだろうか。レノボにはレノボの製品群があり、それらはそれらで独自の路線を見せているから、ThinkPadは別路線という印象が強い。実にうまいと思う。

FCCLのやり方はThinkPadの見せ方とはちょっと違う。どちらかといえば、同じレノボ傘下にあるNECパーソナルコンピュータ(NECPC)に近いともいえる。NECPCはレノボ・ジャパンと同じデビット・ベネット氏が社長を兼任しているが、レノボからやってきた社長というムードはない。

むしろAMDからやってきたというイメージだし、実際にそうだった(編注:デビット・ベネット氏の前職は半導体製造企業のAMD)。そして、FCCLとNECPCもそれぞれが独自の道を歩んでいる。あまりレノボの影は感じない。事実はどうであれ、うまい演出だ。

FCCL新社長の舵取りはどう進むのか

同じ傘下にあるのに、別々に事業を営んで似たような製品を世に出す。無駄なようだが、決してそうではない。いってみれば、レノボエコシステムのような巨大な枠組みの中で、ThinkPadとFCCL、NECPCは日本で生まれたブランドとして互いに隔離されたような状況で切磋琢磨している。これがレノボのやり方だということなのだろう。

そのFCCLにレノボから「シン・社長」がやってきた。レノボは入手したブランドについに積極的に関与していくようになるのかという懸念はどうしてもぬぐいきれない。このあたり、新社長の大隈氏に、この先も、じっくりと話を聞き続けなければならないだろう。

レノボが入手した企業/事業への積極的な関与、それが杞憂に終わることを願うべきなのか、実はそうではないことを願うべきなのか、今の時点ではなんともいえないのだが、パソコンの新しい当たり前を創る企業として、新社長が牽引するFCCLの今後の発展を祈りたい。