緊急事態宣言が解除される前日、かねてより計画が進んでいた東京ドームのデジタルトランスフォーメーションプロジェクトの詳細が発表された。読売新聞東京本社、読売巨人軍、東京ドームの3社による世界トップレベルの清潔・安全・快適なスタジアムの実現への取り組みだ。
マスクでも顔認証OK、スマホでオーダーできる売店も設置
顔認証技術や電子チケットの試行など、さまざまな方法論での実現だが、まず、顔認証によって物販購入時決済や入場管理への導入に向けて技術実証に取り組む。
こちらは、関係者および一般の協力者のみの実証実験にとどまる。スタッフを含め約200人が対象となり、2022年(来シーズン)から一般来場者を対象とした本導入をめざす。マスクをしていても正確に本人であることを認証し、待ち時間の減少や接触機会の低減による安心・安全に入場する効果が期待されるという。
また、入場口には自動ゲートを配置し、係員がもぎりをすることなく、バーコードによる非接触での入場チェックを行うようにする。
それに伴い、球団公式アプリから購入できる二次元バーコードを使った電子チケットを導入、それをかざして入場ができるようになる。
一方、決済関連では、2022年からすべての売店での完全キャッシュレス化を予定しているが、2021年は、まず二次元バーコード決済を導入する。また、場内8カ所に、スマホを使ってあらかじめ弁当や飲み物を注文し、決済まで済ませておけるモバイルオーダー対応の売店が設けられる。
3社と協業し、顔認証の入場や決済に関わるのがパナソニックシステムソリューションズジャパンだ。3月21日にはその状況がプレス向けに披露された。
メガネやマスクをしていても、また顔の向きや経年変化などにも影響されにくいパナソニックの顔認証技術は、ディープラーニングを応用した世界最高水準ものだという。同社は過去においても、空港の入出国時の顔認証による本人確認などに採用された実績がある。すでに経験した方も多いだろう。もっともコロナ禍においては、その機会も激減している。
手軽さとセキュリティの兼ね合いが難しい
今回、実際に東京ドームに足を運び、その運用状況を視察してきた。
たとえば、売店における顔認証による物販では、あらかじめエンドユーザーが顔を登録しておき、そのデータを使って認証するのだが、認証後にはパスコードの入力をして始めて決済が完了する。つまり、売る側との接触はないが、買う側は端末操作が必要なのだ。
そんなことをするくらいなら交通系のプリペイドカードなどを使った方が素早く手続きできるような印象を持った。そして、そちらのほうが接触機会は少ない。不特定多数のエンドユーザーを対象にした決済において、本当に顔認証が最適なのかどうかは今後の検討課題だろう。
さらに、入場管理についても、バーコードの提示は機器下部のセンサーにスマホや紙チケットを入れる必要がある。実際の体験会では、上部に上向きの液晶画面があったので、それをセンサーと勘違いしてしまった。サンプルチケットをかざしても反応しないのでゲートを通れずにとまどった。バーコードは下向きにセンサーの上にかざすというのが一般的になっているなかで、このユーザーインターフェースはどうなのかという疑問もある。このあたりも改善の余地があるのではなかろうか。
また、モバイルオーダーについても、一回限りの利用では、クレジットカード番号の入力など、とても煩雑な手順が必要だ。きっと、そんなめんどうくさいことをするくらいなら、直接売店に行って買った方がいいと判断するエンドユーザーは少なくないだろう。年に何度も東京ドーム内の売店を利用するという熱心なユーザーであれば、これらの仕組みをうまく使えるが、数年に一度、コンサートを見に来るような顧客には無縁のシステムになりそうな気もする。
とはいえ、こうした課題を含めての実証実験である。とにかく大勢の人が集まるイベント会場だ。三密をいかに避けるかは重要だからこそ、いろいろな取り組みで課題を解消しつつ、新しいイベント体験を提供してほしいと思う。