ドコモからarrows 5G F-51Aが7月末に発売された。富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)によるスマホでarrowsシリーズとして3年振りのフラッグシップモデルとなる。同社では、『「5Gミリ波」に対応した「日本製」の洗えるスマートフォンです』と日本生まれのスマートフォンを強くアピールしている。

  • 左がGoogleのPixel 4 XL、右がarrows。使い勝手はほぼほぼ同じにできる。ジェスチャ等も同じなので移行しても抵抗がない

5Gミリ波対応で世界最薄約7.7mmを実現、6.7インチの有機ELスクリーンで171グラムと、大きさから感じるイメージよりもかなり軽く仕上げられている。

日本製のスマホに求められている基本機能であるワンセグ、フルセグ放送の受信機能がないこと、ワイヤレス充電非対応を気にする人はいるかもしれないが、それらに目をつぶっても、ほぼ不満のない全部入りスマホに仕上がっている。

手にしたとたん欲しくなる仕上がり

同社は、この春に、米Qualcomm社との協業により、Qualcomm Snapdragon 865 5G Modular Platformを使用した5Gスマートフォンのリファレンスデザインを開発したと表明していた。それがarrows 5G F-51Aであるとは明言されているわけではないが、実際の製品としてリリースされたものだと考えてよさそうだ。このプラットフォームは、FCNTとQualcommの両社の技術やノウハウを結集、5Gの利活用や普及の促進を目的に無線のフロントエンドとアプリケーションプロセッサ、モデムそれぞれがモジュール化されたものだ。

当時の発表では薄さ7.6ミリだったが、実際に製品になったら7.7ミリになっていた。これはもう誤差の範囲だろう。同社の話をきくと、相当の難産だったということだが、熱の対策といい、薄型化といい、かなりがんばっている印象だ。

これまで使ってきたスマホの中で、薄さと性能でバランスがとれていると思った製品はモトローラのMoto Zだったが、それが2016年当時の最薄5.2ミリで、5.5型の有機ELスクリーン機で134グラムだった。Moto Zは本当によかったと思っているが、以後、その路線がリフレッシュされることはなく、4年が経過してしまった。

最新鋭の機能を満載してのarrows 5G F-51Aは、かつてのMoto Zに感じたように、手にしたとたんに欲しくなる仕上がりになっている。スマホを手にしてこうした気持ちになったのは、本当に久しぶりだ。

手洗いのついでにスマホも丸洗い

コロナ禍において、丸洗いできることを強調しているのもいい。台所用の中性洗剤や泡の出るハンドソープを使ってスマホを清潔な状態に保つことができる。

電車で移動したり、オフィスなどの不特定多数の人が立ち入るところで、いろいろなものにさわった手で操作するスマホは決して清潔とは言えない。自宅に戻ってアルコールなどで消毒するのだが、手洗いするときのついでにジャブジャブと洗ってしまえるのは気軽でいい。

ただし、同社では丸洗いのときには電源を切るようにと注意を促している。万が一に備えての警告なのだが、これはちょっとめんどうくさく感じるかもしれない。

  • 帰宅後、手指を泡ハンドソープでキレイにしたついでに、同じ洗剤でスマホもキレイにできる

久しぶりに通信事業者から出る端末を使ってみたのだが、ほとんどキャリア色を感じないで使えるのはうれしい。ホームアプリこそ違うものの、GoogleのPixelシリーズなどと比べても、使い勝手の違和感を感じない。

「独自」と「事実上の標準」という面の絶妙なバランスを追求することは重要だ。身の回りの誰もが使い方を知っているということほど重要なことはないと思う。

いまはまだ、身の回りで使えない5G

その一方で、5Gネットワークの整備がなかなか進まない。ドコモの5Gネットワーク理容可能施設やスポットの一覧は、同社サイトで検索することができるが、この原稿を書いている8月上旬の時点では7月末時点の利用可能スポットを調べることができ、そのあとは、9月末、12月末の目安しかわからないが、本当に「数えるほど」しかない。5G体験を堪能するには、これらを調べて、そこまででかけていくしかない。個人的の環境として、自宅から歩いて行ける範囲には5Gエリアは皆無という状況だ。

一覧状況を12月末として検索しても、各地のドコモショップの店舗内がスポットとして充実するのが目立つだけで状況が大きく改善するわけではない。arrows 5G F-51Aはせっかくの5G対応ではあるが、当面は、それを活かすことはできないことを覚悟するしかなさそうだ。

それでも最新技術を世に出す意気込み

そこで気になるのが価格だ。10万円を超えるスマホは、ハイエンド機種として存在を続ける宿命を持っているとは思うが、世の中にそれが受け入れられるかどうかは別の話で、業界全体としてはある程度の性能を維持しながら廉価であることを目指すようにもなってきている。イメージ的には、arrows 5G F-51Aの半額以下で、それなりの性能を持つ製品がイチオシといったところだろうか。

5Gはもちろん、ミリ波対応などは、将来のネットワークに対応するための投資で、重要な要素だが、一般のエンドユーザーがその恩恵を得られるのは、まだ3年くらいは先の話になるだろう。コロナ禍の影響次第では、それもどうなることやら。今、最新のスマホとしてarrows 5G F-51Aを買っても、そこに封じ込められた最新の技術を堪能できないというのは本当にもどかしい。

それでも作り、出すという同社の姿勢に感じる頼もしさに、この先の日本を支える底力を感じる。コロナ疲れの気分がちょっとだけ明るくなった。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)