NECが、New Normal時代の新しい働き方をデジタルトランスフォーメーション(DX)の力で実現するデジタルオフィスのプロジェクトを始動した。
具体的な新しい取り組みとしては、今後求められるオフィスのあり方に対し、生体認証や映像解析などの先進ICTを活用することで、ゲートレス入退システムやマスク対応レジレス店舗など、さまざまなシステムの実証を、NEC本社ビル内にて本日から開始するという。これに伴い、社内の新しい設備がプレス向けに紹介された。
マスク着用でも本人認証、レジレス決済も
ショールームの入り口には大きな鏡が取り付けられている。これは、Digital IDゲートレスエントランスと呼ばれるもので、マスク着用でも、その前を通り過ぎる複数の人を検出、照合、体表面温度を自動測定できる。プラバシーに配慮して、認証時に氏名や社員番号を表示することなく、個々の社員に割り振られた幾何学模様を表示するなど、本人だけが正確に認証されていることを知る仕組みなどが実装されている。
また、マスク着用でも社内売店のレジレス決済で本人認証ができる。天井の30台のカメラと商品棚の重量センサーによって手にした商品を特定、それを持って売店を出るだけで、給料天引きの手続きが行われる。
ロッカーも顔認証で開閉できる
通路では、行き交う社員がマスクを付けているかどうかを判定し、未着用ではアラート通知が行われたりする。また、業務エリアにおいては、フロアマップ上で、指定した社員の作業場所を映像解析技術によって特定できるほか、フロア全体の混雑状況などを把握することができる。
ロッカーなども同様で、パスワード入力や社員証スキャンなどを使わずに顔認証で利用ができる。
NECの社内ITは、これらの各種情報をリアルタイムで収集し、必要に応じて発せられるアラートによって行動を起こす。
こうして、10万人を超えるとされるNECの社員は、出社してから退社するまで、ありとあらゆる行動が同社の顔認識機能などの活用で把握され、安心して業務を遂行することができる。仮にコロナ感染者が出るようなことがあっても、時間をさかのぼって濃厚接触者などの確認もできる。
自分の情報をどこまで提供するか
これは裏を返せばサイバー空間からリアル空間まで、社員がいつどこで何をしたのか徹底的に把握追跡できるということでもある。当然、社員一人一人の同意が必要だ。新しい「当たり前」は、プライバシー云々でこうした情報の収集を拒む姿勢を「悪」とするような方向に推移させる可能性もある。
経営側としては社員の安全や健康は重要だし、企業そのものの社会貢献としても、社員の行動様式に起因することで、社会全体に影響を及ぼすことがないような配慮や留意も求められるだろう。
NECではテレワークも推進しているが、出社や退社の概念が曖昧になる在宅勤務やサテライトオフィスでの勤務では、働く場所への経路を含む行動の把握も求められるようになるかもしれない。場合によっては社員一人一人がGPSを持って日々の暮らしを送るといった具合だ。
まさに、個人が会社に対して自分の情報をすべてさらけだすということでもある。もっと将来のことを考えれば、この技術が国全体に採用されるようになることで、犯罪の未然捜査などにも使えるだけのパフォーマンスを持っている。それによって日本が安全で豊かな国になることが歓迎されるのかどうか。
本当なら、今年(2020年)開催されるはずだったオリンピックにおいて、こうした技術が使われて、事件のないオリンピックが実現されていたのだろう。図らずも、コロナ禍が、こうした社会の到来を早めることになるかもしれない。興味深いのは技術というよりも意識の改革がその背景にあることだ。
困ったことなのか、歓迎すべきことなのか、議論はわかれるにちがいない。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)