6月29日、日本HPがクリエイター向けPCの新製品「New HP ZBook G7」を発表した。
発表会の冒頭でスピーチした九嶋俊一氏(同社専務執行役員 パーソナルシステムズ事業統括)は、なぜいまクリエイター向けなのかという命題に対して、米ヒューレット・パッカード社の創業者であるビル・ヒューレット氏の「最大の競争優位は、本当に大変なときに正しい行いをすること(The Biggest competitive advantage is to do the right thing in the worst of times)」という言葉を引用した。
コロナ禍で「先送りしていたこと」がやってきた
それに加えて、九嶋氏は「将来の一部が今になった」ともいう。やらなければならないことはわかっていても、どんどん先延ばしになっていたさまざまなことが、コロナ禍のもと、早急に解決しなければならない問題になったということだ。
つまり、将来、当然のように実現されていることが今すぐ求められ、場合によっては実現しているということだ。それは技術的な問題でもなければ、コスト的な問題でもない。意識の問題さえクリアすれば、いろんなことが一気に解決する。
たとえば、子どもたちの学習環境のために、よりクリエイティブな授業を行うこと、そしてそれがオンラインであったとしても意欲、理解度が上がるように工夫するためには、一億総クリエイターであることが必要だと同社は考える。その通だと思う。
カジュアルクリエイターが多い=プロが少ない
ゲーミングPCとクリエイターPCの違いについて、ハイパフォーマンスが欲しいのはどちらも同じであるとしながらも、高解像度の編集ができるグラフィックス、メモリ、マルチコアがより贅沢に求められるのはクリエイターPCであり、筐体デザインも戦うための武器としてではなく、想像のための道具を想定することが求められる。そして、「ミニマルでシンプル」というゲーミングPCとは違ったハードウェアスペック、コンセプトが必要だと同社は考える。
同社によれば、日本のクリエイターは2,600万人でいるとしているが、この数字は今後まだまだ成長していくともいう。ただ、特に日本はピュアクリエイティブで生計をたてるプロフェッショナルというよりも、カジュアルクリエイターの比率が高い。
カジュアルの比率が多いというのは、実は、プロが少ないということで、逆にいうと遅れていることでもあると同社は分析している。
今現在、世の中に流通しているPCは、大きく、個人向けと企業向けに分類できる。ゲーミングPCやクリエイティブPCは果たして個人向けなのだろうか、それとも企業向けなのだろうか。そもそも企業向けのPCとはいったいどんなものなのだろう。
実際、日本HPの製品を見ても、同じノートPCであっても、企業向けのモバイルノートPCはElitebook Dragonfly、モバイルワークステーションについてはZBook Fireflyというネーミングだし、個人向けのPCにはSpectreやENVY、OMENといったネーミングが為されている。この法則でいえば、今回のZBookは企業向けのワークステーションに分類される。
個人向けと法人向けの線引きはどこだ
だが、そろそろ企業向け、個人向けというカテゴリ分類から脱却しなければならないのではなかろうか。
以前も同社に対して、この疑問をDragonfly発表時にしたことがある。当時の同社の回答は、法人向けPCにはさまざまな制約があるが、それをないがしろにすることなく、コンシューマー向けPCで培ったデザインセンスを取り込み、道具を昇華させた相棒としてのPCがDragonflyであるというものだった。
売り方の違いはあっても、これからのPCハードウェアに個人向け、法人向けといった分類は本当に必要なのだろうか。区別するほうがコストは増加しないのか。仕事に使われるPCも、在宅勤務などが当たり前になるなかで、個人が自分のために手に入れたPCを仕事にも使うことが多くなる。いわゆるBYODだ。だが逆に、企業から支給されたPCを個人のプライベートにも使うことがあるかもしれない。
仕事、業務に限らず、教育の現場が一人一台体制を目指すなかで、BYODが想定されていることも見てとれる。日本マイクロソフトなどではBYODではなく、BYADを想定しているともいう。BYADはBring Your Assigned Deviceの頭文字で、BYODのOwnedがAssignedになったもので、早い話が学校指定PCのことを指す。
「将来の一部が今になった」というのなら、そのあたりのトレンドについても日本HPには何らかの知見を披露してほしかったところだ。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)