各社のニュースによれば、広島県教育委員会が、県内の小中、高校生全員、約30万人分のクラウドアカウントを確保したそうだ。G Suite for Educationのアカウントらしい。この環境を使ってコロナ騒動の中での教育継続に役立てていこうという意図のようだ。
ただ、こんな大事なことなのに同教育委員会のホームページとされる「ホットライン教育ひろしま」には、この記事の執筆時点ではほとんど詳細が記載されていない。
子どもが安全に使えるアカウントが大事
できることから始めるという点で、このスピーディな判断は高く評価したい。とにかく今は、子どものために安全に使えるクラウドアカウントを取得するのは重要なことだからだ。
現状で教育用に、18歳未満を対象としたクラウドアカウントを想定したサービスを、ユーザー管理を含めて利用していくには、G Suite for EducationかMicrosoft 365 Educationを使うのが手っ取り早い。他の自治体も、どんどん追随してほしいところだが、いろいろと問題も想定される。
例えば学校組織では、ed.jp属性などのドメイン名をすでに運用している可能性がある。これらのドメイン名をGoogleやMicrosoftの特定サービス下に置くことに抵抗があるというケースもありそうだ。かといって今回のコロナ騒動のために、新たに専用のドメインを用意するのかどうかという議論もありそうだ。
「閉じられたネット空間」が必要なワケ
今、必要なのは閉じた空間だ。生徒と教職員だけ、場合によってはその保護者だけが参加できる閉域のネットワークだ。世界中の誰とでも自由にコミュニケーションができるインターネットの素晴らしさはここでは求められていない。コミュニケーションが一定メンバーの中に閉じていなければ、いろいろなノイズが入ってくるからだ。迷惑メールなどはその代表だし、広告の問題もある。与えられたアカウントを使ってよからぬサービスを利用してしまう可能性だってある。
その一方で、一部の子どもたちはすでにインターネットを使った広域コミュニケーションを使っている可能性がある。LINEはもちろん、自分自身のGmailアカウント、Microsoftアカウントを持っていたりもする可能性がある。それらのアカウントと、閉じられた空間のアカウントを一台のスマートデバイスの中に共存させる必要があるし、そのための機能はすでに実装されていたとしても、きちんとした設定をして、利用するサービスを切り替えることができるだけのスキルが、そのユーザー、または保護者にあるかどうか。
ちなみに一般のGoogleアカウントの作成は13歳以上である必要がある。その一方でMicrosoftアカウントには年齢制限はない。いずれにしても、これらの18歳未満という対象ユーザーを安全な状態に保持するためには、ある程度の隔離が必要になる。そのためには、閉じられたドメインの中での合理的なユーザー管理が求められる。
それをどのようなポリシーで運用していくかはなかなか難しい。ITの専門家ではない学校の現場では、そこで躊躇してしまうかもしれない。いや、躊躇以前に、よくわからない、前例がない、先々の運用の見通しがつかないといったことで、最初からあきらめているケースも少なくないだろう。
PCは1人1台、でもアカウントはどうなる?
GIGAスクール構想では、学校現場における1人1台のPC利用が急がれている。これはとても重要な施策だし、今後のことを考えれば当たり前のことでもある。でも、そこでは、ハードウェアが1人1台ということが実現されたときに、クラウドアカウントを1人ひとつという考え方をどうするかという前提が抜け落ちているようにも感じる。
MicrosoftのTeamsやG SuiteのClassroomを使えば素晴らしい環境が得られることはわかっていても、すでに走り始めているGIGAスクール構想とのすり合わせをどうするかなど、いろいろと考えなければならないテーマは多い。とにかくスタートさせて、問題が発生したら、その都度解決していくという、アジャイル型の運用は難しい。問題が発生したことで、取り返しがつかないことが起こってはならないからだ。
緊急事態宣言下の環境が、当面まだ続くことがわかっている以上、教育の現場は1年先のことではなく、明日からどうするかを早急に決めて走り始めなければならない。とはいえ教育の現場だけで議論を重ねても活路は見出せないだろう。どうしてもITの専門家の知識やノウハウが求められる。そのためには、業者やコンサルタントなどの専門家集団に頼むカネが必要だ。
かといって、カネさえ払えばすべてがうまくいくとは限らない。ITの専門家が教育のプロであるとは限らないからだ。そしてここで詰み、振り出しに戻る。それでもこのまま思案を重ねているだけでは何も始まらない。教育現場はここで覚悟を決めてほしい。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)