新型コロナ感染問題が社会を脅かしている昨今。その最中にドコモ、KDDI、ソフトバンクの5Gがサービスインした。各社ともに発表会はオンラインだった。本当だったらサービスインの日にはセレモニーでもやりたかったにちがいない。
だが、本当にひっそりとサービスが開始された。日本のモバイルネットワークにとっての5G元年が、コロナに抑えこまれてしまったというのは皮肉な話だが、ここはひとつ、コロナに負けずに、強烈な印象が残る年として記憶に留めるようにしたい。
auの5G電波を求めて
そうはいっても実際にサービスは始まっている。さっそくKDDIから端末を貸し出してもらって実際に公共のエリアでauの5Gネットワークを体験してみた。同社から、いくつかのおすすめスポットを教えてもらい、そこまででかけて試してみたのだ。ずっと5G関連の技術や使われ方を追いかけてきたのだから、やはり、最初の時期に試したいと思った。
だが、各社ともにサービスイン時点でのエリア展開は、エリアというよりもスポットの集合体だ。つまり面ではなく点である。auが公開している3月末予定での対応エリアは全国で200カ所に満たない。外出自粛中の状況だが、自宅から歩いて行ける範囲に対応エリアはなかった。ただ、エリアマップを見ると、4月末の予定で、これまたスポット的にエリアが増設されるようだ。かろうじて、自宅から15分程度歩けば到着する地域にもスポットができる。念のために3月末にauから宅配便で端末が送られてきた日の夜、念のためにとその周辺に行ってみたが、5Gの電波をつかむことはなかった。
気を取り直して、数日後、5G端末をポケットに入れて、同社おすすめのスポットを訪れた。最初に行ったのはauが発表している対応エリア表で(PDF)、「東京都新宿区西新宿の一部」と記載されているあたりだ。ここではカンタンに5G電波をつかむことができた。なにしろKDDIビルの真ん前で、具体的には「議事堂前交差点」のあたりだ。いわばお膝元といってもいい。これが個人的にはパブリックネットワークにおける最初の5G体験となった。
限られた5Gエリア、体験はまだ難しい
そして電車に乗り、次のエリアに向かう。新宿から京王線特急で約15分、電車代にして250円の調布駅周辺だ。距離的には営業キロで新宿から約15キロ離れている。
調布駅は、駅で電車を降りて地下ホームから地上に出ると、駅の真上が大きな広場になっている。だがエリアはその周辺ではない。対応エリア表に記載されているのは「東京都調布市小島町の一部」なのだが、端末を手に調布市役所、調布市文化会館あたりに向かってみた。すると、調布市役所の入り口付近で端末に5Gの表示が出現した。
やったー、と思ってスピードテストアプリを起動したのはいいが、時すでに遅しで、端末の表示は4Gに戻っていた。5Gネットワークに接続できたのは本当に一瞬だったようだ。その周辺をしばらく歩いてみたが、つながる気配もなく、あきらめて帰途についた。
結局、5Gネットワークにつないで何をしたかというと、つないでみただけなのである。なにしろ、5Gを活かすアプリもまだない。さらにはスピードテストをしても、この日は西新宿で体験したダウンロード時の573.94Mbpsというのが最高速度だった。Pingは23ミリ秒だ。
ちなみに、自宅のWi-Fiは、まだIEEE802.11acの貧しい環境で、そこがボトルネックになっている。予想通りとはいえ、ちょっとがっかりして自宅に戻り、Wi-Fiにつないでスピードを測定してみたのだが、昼間につないでみた5Gネットワークよりも、少なくとも測定結果は高速だ。Pingについても一桁台となる。
ということは、現時点でのエリア展開では、首都圏に限っていえば、5G対応エリアを探して高速接続するよりも、それなりに高速なWi-Fiアクセスポイントを探す方が容易であるということになる。しかも、そのためにピカピカの5G端末は必要ない。既存の4G端末でも5G並みのスピードは確保できる。
各社、サービスインに際して新プランを発表しているが、5G対応プランでの付加価値はあっても、当面はエンドユーザーの負担がないような建て付けになっている。太っ腹といいたいところだが、これだけ限られたエリア展開では、追加料金を取りたいと思っても取れないというのが実状ではないだろうか。
だからといって5Gネットワークを否定するわけではない。エリアは各キャリアの投資と努力によって少しずつ広がっていくだろう。いつでもどこでも5Gでつながるようになるには多少の時間はかかるだろうが、そのころにはエンドユーザーが5Gの便利さを実感できるアプリも出てきているはずだし、端末の選択肢も増えているにちがいない。
通信は高速であることに意味がある
皮肉なことに、新型コロナは社会全体のネットワークへの依存を高めることになり、より急いで高速かつレスポンスのいいモバイルネットワークの構築が求められるようになりつつある。在宅勤務、リモート授業、遠隔医療などに求められるネットワークは、今よりももっと安定して帯域幅の広いものである必要がある。もちろん、その先にあるインターネットや各サービスサイトについても強化が必要だろう。
5Gも「数年かけて全国に」などと言っている場合ではなく、とにかく急いで点を面に展開していってほしい。5G用に用意された端末は限られた製品だが、今後出てくるであろう新しい端末は、そのすべてが5G対応となるはずだ。自分自身の端末機種変更のタイミングで、4Gを選ぶという選択肢はもうないと考えてもよさそうだ。
光につながる自宅のWi-Fiに匹敵する帯域が、いつでもどこでも得られることの意義は大きい。まして、自宅に光が引き込まれていない世帯も少なくない今、5Gが担う役割は重要だ。電波は有限の資源であるからこそ、多くのユーザーが同時に快適に利用するためには高速であることが必要だ。仮に、やることが今と同じであっても高速であることには意味があるのだ。
新型コロナは人類にとってきわめて大きな脅威となったが、ひとつだけ得るものがあるとすれば、社会としての危機感をはぐくみ、日常的な準備と対策の重要性を痛感させた点にある。IDCは「新型コロナウイルス感染症の影響を考慮した国内ICT市場予測」を発表、そこで「今後の状況次第では、企業、政府、消費者レベルまで広くDX投資が活性化されるというICT市場にとってOptimisticなシナリオも想定しており、その場合の2020年における前年比成長率はマイナス3.3%程度に収まる可能性がある」としている。
もちろん、「ワクチンが完成する2021年半ばまで国内外での感染が抑制されないというPessimisticなシナリオでは、前年比成長率はマイナス6.3%まで落ち込み、今後の状況次第ではさらなる成長率低下の可能性」という悲観的な予測も併記されているが、ICTが人類の危機に貢献できる可能性は高いのだということが伝わってくる。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)