新型コロナの感染拡大抑止によってインターネットトラフィックが急増しているという。

日曜日の夕方、NHKのニュースを見て驚いた。インターネット接続事業者大手のNTTコミュニケーションズが、2月の1週と比べて4週に数%の増加、さらに3月に入り、企業の在宅勤務トレンドに加えて小中高、特別支援学校の臨時休校が始まると35%増、そして第2週には40%の通信量増加を確認したというニュースだ。

平日9時~18時で通信量が増加

3月13日、やはり接続事業者大手のIIJが「新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響」というブログを公開した。公開前の個人的な取材でも得ていた情報だが、こちらは休校開始の3月2日の前週水曜日(2月26日)と同週水曜日(3月4日)を比較し、ダウンロードで1.19倍、すなわち約20%の増加を観測している。この測定は同社の個人向けフレッツ対応サービス(光回線/ADSL)におけるのみで、IPoEのトラフィックは勘定に入っていない。

  • IIJの(IPv6 IPoEを含まない)フレッツトラフィック総量の推移。ダウンロード(上のグラフ)とアップロード(下のグラフ)を1週間ごとに重ねて表示(IIJの該当ブログより)

増分値だけ見れば、NTTコミュニケーションズとIIJのトラフィック観測には倍近い差がある。不思議に思って両社に問い合わせたところ、IIJの観測は法人向けサービスが対象外で24時間分の測定結果比較、NTTコミュニケーションズは個人、法人向けのOCNサービスを対象としたもので、40%増えたというのは平日の9時~18時までのトラフィックだった。これらの違いを勘案すれば、単純計算でも倍の違いが出るのは不思議なことではないようだ。

IIJにもお願いして平日9時~18時における2月3日週との増分値を教えてもらったが、確かに24時間値に比べると増分が多い。NTTコミュニケーションズで40%増を記録した平日9時~18時における3月第2週は、IIJで33%増になっている。法人サービスを含めて倍という法則があてはまるとしたら、法人向けを除いた値のIIJは60%増という可能性もある(VPN等で同じデータが法人、個人回線の両方を通るため)。

また、KDDIでは平日8時台の首都圏におけるトラフィックが減少傾向にあることを確認しているともいう。こちらのトレンドからは通勤ラッシュが時差通勤などで緩和されていることが想像できる。

トラフィックに起こった大きなインパクト

IIJ 技術研究所の長健二朗氏は、公開されたブログで「マクロにみると、3月2日を境に明らかに平日昼間のトラフィックが増えています。平日の1日のトラフィック量でみるとアップロードで6%、ダウンロードで15%程増えています。1日のダウンロードで15%増というのは、平日と休日の違いぐらいとも言えますが、通常半年から1年ぐらいかかる増加が1日で起こったと捉える事もできます。ただし、ピーク値はあまり増えていないので、ISP視点では前者の感覚です」と書いている。

「通常半年から1年ぐらいかかる増加が1日で起こった」という言葉がセンセーショナルだ。新型コロナ感染拡大抑止のための各種施策は、日本の社会におけるさまざまなインフラの加速試験になっているといってもいいくらいだ。

今はまだ、在宅勤務を推奨し、多くの従業員がそれに従うような職場は大企業に限られている。それでもトラフィックにこれだけのインパクトを与えるということは、働き方改革が本当に達成され、ほとんどの企業でテレワークが当たり前になったとき、今のインフラではとうてい追いつかないトラフィックが発生するということでもある。

「自宅作業=テレワーク」? 安定した回線も必要

パソコンを自宅に持ち帰って作業したからテレワーク。普通はそのくらい単純に考えるかもしれない。だが、そのためには、組織側でも、自宅側でも、セキュリティはもちろん、受け側の設備、回線の帯域増強など、準備しておかなければならないことはたくさんある。それができなくて、今回の状況下でもテレワーク推奨に持ち込めない企業はたくさんあるに違いない。

この緊急事態に近い状態は、まだまだ続くかもしれないし、来月には収束するかもしれない。そして、次にいつくるのかは誰にもわからない。幸い、インフラが崩壊するような災害ではない。次の緊急事態に直面して困らないように、今から、何が問題なのかをよく考えておいたほうがいい。それは働く側も働かせる側も同じだ。働き方改革には両者の協調が必要だ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)