エー・アンド・デイとタニタが健康計測機器分野で業務提携、相互に機器をOEM供給することになったと発表した。さらにタニタは体組成計測のタニタアルゴリズムをエー・アンド・デイに供給し、両社の機器の相互連携を実現するという。両社は市民の健康意識の高まりを背景に、ヘルスケア市場の拡大に対応していく方向だ。
体脂肪率がメーカーごとに違う問題を解決
タニタが世界初の体組成計として体内脂肪計を発売したのは1992年のことだ。また94年には家庭用脂肪計つきのヘルスメーターを発売している。業界各社はその後、同等の計測器をリリースし続けているが、微弱な電流を体内に流し、生体電気抵抗値から体組成を弾き出すアルゴリズムは各社各様で、その計測結果も異なる。そして、それがエンドユーザーの混乱を招いていた。
「過去において体組成計測アルゴリズムを各社各様に囲い込んでいたことが、機器ごとに異なる計測結果となり、利用者の利便性を著しく損なわせていた。その世界を変えたい。ヘルステックで世界、そして日本を変えていきたい」とタニタ社長の谷田千里氏はいう。
「人生100年時代」といわれ、生活者の健康意識の高まりを背景にヘルスケア市場は拡大している。経済産業省はヘルスケア産業の市場規模が2016年の約25兆円から、2025年には約33兆円にまで成長すると予測しているようだ。この市場は、さまざまな分野からICTやAIなどをたずさえた新規プレーヤーが参入するなどで競争が激化し、産業構造自体も大きなパラダイムシフトを起こしそうとしている。
健康データを一元管理するはじめの一歩
そこで産業構造のパラダイムシフトによる構造変化を先取り、市場競争力を高めるというのが今回の提携の目的だ。まずは、エー・アンド・デイが商品化を進めている家庭用体組成計「UC-421BLE」に「タニタアルゴリズム」を搭載し、今夏に発売する。
体組成計はメーカーごとに独自のアルゴリズムを搭載していることから、「体脂肪率」や「筋肉量」などの計測数値がメーカーごとに異なり、医療・健康データを一元管理するデータヘルスを推進する上での障害となっていた。だが、共通のアルゴリズムを搭載した体組成計を両社で販売していくことでこれらの問題が解決される。そして、体組成計測における日本発の技術標準を確立し、国際競争力を高められるというわけだ。
あらゆる健康ソリューションの起点はセンシング=はかることにある。オシロメトリック方式血圧計のパイオニアとしてのエー・アンド・デイと、世界初の体組成計を提供したパイオニアとしてのタニタがタッグを組むことで、両社の強みを最大化、医療領域×未病・予防領域での付加価値の高い商品・サービスを展開していくという。
門外不出だったタニタアルゴリズム
興味深いのは、谷田社長が、門外不出だったタニタアルゴリズムを、今回の提携相手のエー・アンド・デイのみならず、同業他社へのライセンス、あるいは、業界をまとめてのコンソーシアムなどを作って広く公開することも視野にいれていると発言したことだ。体組成計でのシェアを考えれば大きなムーブメントにつながっていく可能性もある。
今から10年ほど前、インテル主導によるデジタルヘルスのコンソーシアムとして「コンティニュア」という動きがあった。バラバラでスタンドアローンだったデジタルヘルス計測器と、コンピュータの間のインターフェースを統一し、Bluetoothなどで計測結果を収集し、分析などがしやすいようにしようというチャレンジだった。
以降、各社の計測器はスマートフォンとの連携などを果たしたが、それらが今、うまく相互連携しているかといえば、アプリ間でのデータ連携は、結果のデータをCSVで吐き出してまとめるといった原始的な方法でしか実現されていない。コンティニュアそのものはまだ存在するようだが、その活動も、B2B領域に注力しているようで、活動についての派手なアナウンスはしばらくない。
テクノロジーを支える企業の連携
今回のような提携を機会に、こうした面でも環境の充実が図られることを期待したい。タニタとエー・アンド・デイにしても、今は別アプリで機器の計測結果を読み取る運用だが、将来的には個々のアプリが両社の計測器のデータを読み取れるようにしていくという。
血圧、心拍、体組成がそれぞれ別のアプリでしか管理できないのでは利便性は台無しだ。テクノロジーを使えばすぐにでもできることが、テクノロジー以外の面が高いハードルとなって立ちはだかっている。またスポーツジムなどでのトレーニング機器との連携も重要なテーマだ。最終的にこれらをクリアするのはテクノロジーではなく、企業同士の連携であるのは不思議な感じがする。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)