11月3日の夕刻、東京モーターショーにあわせ、国際航空連盟が日本実施を初公認したドローンレース「FAI Drone Tokyo 2019 Racing」の決勝戦が開催された。競技用ドローンがL字型のコースを3往復する競技で、飛行するドローンの速度は100キロ/時をはるかに超え、スタートからゴールまでの平均タイムは10数秒といった、まばたきすらできないほどの短時間レースだ。予選に勝ち残った16名が4名ずつでレースに参戦、準々決勝、準決勝、決勝と勝ち進み、最終ランキングが決まった(公式結果は現時点で未発表)。
ドローン操作はヘッドマウントディスプレイで
レースは東京ビックサイトに隣接した有明・DRIVE PARKに設営された臨時の会場で開催された。安全のためにコースは網で囲われ、ドローンの操縦はステージ上でヘッドマウントディスプレイをつけてドローンの視界を確認しながら行う。ドローンからの映像だけを頼りに操縦するため、各選手にはサポーターが隣について、他機の様子などを伝えることができる。
会場で勝敗を見守る観客は、ケージの中を高速飛行するドローンを見るわけだが、暗闇の中、各ドローンが色の異なるLEDで光るので、飛んでいる様子をなんとか把握することはできる。レースが夜開かれるのはこんな事情もあるのだろう。明るい昼間では、どの機体がどのように飛んでいるのかまずわかりそうにない。
飛行するドローンとは別に、ケージの中には、中継用ドローンが1機浮遊し、レースの邪魔にならないように各ドローンの飛ぶ様子を撮影。会場の大型スクリーンにその映像が映し出される。
4Kカメラ映像の伝送を5Gが担う
その投影を支えたテクノロジーがauの5G通信だ。KDDIは、このレースのために5G環境を臨時に設営した。中継ドローンは、自機に搭載した4Kカメラ映像をエンコード、5G端末を介して発信する。会場内2カ所に設置されたアンテナがその電波を拾い、これまたライトバンの荷物スペースに満載で構築された基地局およびネットワークセンター設備を通して受け取り、その信号をデコード、大型モニターに映し出すというからくりだ。伝送路に5G通信を使うことで、これまで500msはあった遅延が100ms程度に低減できるという。仮にドローンが100キロ/時以上で飛行すると、1秒間に30メートル以上を移動する。500msなら15メートルだ。それが3メートルまで低減される。実際に見えている実機体とスクリーンに投影される映像のタイムラグの違和感が、大きく解消されるというわけだ。
これまでの同種の環境では、エンコード/デコードに要する時間とともに、伝送路として使われていた4G LTEの通信遅延などがボトルネックになっていたが、5G通信によって、そのボトルネックが大きく改善されたことになる。
今回は、プレサービスとしての5G環境がレース用に特別に設営されての実施だったが、5Gの本サービスが開始されれば、ドローンのみならず、各種の中継などでも活用が容易になり、今まで見たことがないような映像を楽しめるようになるはずだ。また、特別な設備を介することなく、ごく一般のエンドユーザーが、気軽に高度なテクノロジーを使った映像配信ができるようになるという。
実際、このレースの様子は、人気YouTuberのカジサック氏によってYouTube配信された。永島聖羅さんも応援に駆けつけたほか、ライブステージでレースを盛り上げた日向坂46のメンバーも、各選手の戦いに注目していた。
今後10年のコンテンツが大きく変わる可能性
5G通信の使い道について、Wi-Fiで十分ではないかといった議論も多いのだが、実際にWi-Fiを使える環境は限定される。だが、公衆ネットワークとしての5Gが、日本全国いたるところで使えるようになれば、高速大容量の高精細映像信号を最低限の遅延で誰でも発信することができるようになる。それによって、テレビ報道のニュース映像も変わるだろうし、YouTubeのライブ配信だって今では想像もできないような構成のものが出てくるだろう。まさに、2020年代は、普段目にする映像に大きな変化が起こる10年間になりそうだ。
とはいうものの、イベント開催日から2日間が経過しても、レース結果の公式リザルトなどが何も発表されず、イベントページも更新されないようでは先が思いやられる。こっちのほうのタイムラグのほうも何とかしてほしいものだ。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)