iPhone 11が発表され、いよいよ今週、発売日を迎える。Proモデルには、ついにType-Cメスコネクタを装備したUSB PDアダプタと、Type-C to Lightningケーブルが付属するようで、混乱が続いていたスマートフォンの高速充電事情も収束に向かいそうだ。
二十歳を迎えるUSBの成長と普及
世の中のインフラが変わるためには、ものすごいエネルギーが必要だ。四角いUSB Type-Aのコネクタは、いわば事実上の標準としてさまざまな場所で見かけることができる。ユーザーによってはUSBをデータ転送の規格ではなく、電力供給の規格だと思い込んでいる層もいるはずだ。
USBは、そろそろ二十歳になる規格だが、ようやく一般的なACコンセントと同じくらいにポピュラーな規格として受け入れられるようになった。それが変わるというのはたいへんなことかもしれない。そういう意味では日本でのシェアが高いiPhoneがType-Cでの充電を標準的なものにするというのは大きい。
最初のうちは、Type-Cコネクタが身の回りに見つからなくて困ることも多いだろうけれど、Type-AがType-Cに置き換わるのに、あと20年かかるということはないだろう。楽観的かもしれないが、数年で置き換わる可能性を信じたい。今年の無印iPhone 11が、従来通りのType-Aアダプタと、Type-A to Lightningケーブル同梱でなければ、置き換えはもっと急速になっただろうと思うと、ちょっと残念だ。
iPhoneのバッテリだけでは1日をまかなえない
スマートフォンのバッテリをいつ充電するかというのは、大げさかもしれないが、人それぞれのライフスタイルごとに異なる。夜、寝ている間はチャージャーにつないでおき、目覚めるとともに取り外して、あとはずっとそのままいっしょというパターンや、家にいるときはずっとチャージャーにつなぎっぱなしで、でかけるときにようやく取り外すというパターンもある。でかける時点でフル充電でないと安心できないというタイプだ。
高速充電を過信するのは禁物だ。たかだか今までの1.5倍の電力だ。3時間かかっていた充電が2時間になるにすぎない。だが、でかける前に短時間で比較的大容量の充電ができるというのは心強い。それをかなえるのが高速充電だ。高速充電が当たり前になると、バッテリを充電しながら使うという悪循環からも解放される。使用中の充電は、バッテリにとっては苦手な環境だからだ。
多くのユーザーは、iPhone本体のバッテリだけでは、1日の活動をまかないきれず、ほとんどの場合、モバイルバッテリを携行するようだ。こちらもType-C端子を持つ急速充電に対応したUSB PDバッテリが各社から発売されている。もっとも、iPhone本体の端子がLightningなので、バッテリの充電用と、iPhoneの充電用に2種類のケーブルを用意する必要がある。Androidスマートフォンのように、両端がType-Cのケーブルが一本あれば、全部まかなえるというわけにはいかないのだ。だが、オフィスはもちろん、今やたいていのカフェには電源コンセントがある。お茶を飲んでいるちょっとの時間に大容量の充電ができればモバイルバッテリを携行する必要がなくなるかもしれない。
一般的なエンドユーザーにそのあたりの事情が浸透するのにはかなりの時間がかかるかもしれない。だが、新しいiPhoneを買ったら、今までのものとはケーブルが異なるというだけで、意識の変革が起こる。
iPhone用の各種MFI製品を提供している各社にお願いしたいのは、そのあたりの事情をやさしく説明し、高速充電のためには何が必要で、それによって何が便利になるのか、パッケージなどにきちんと明記するのを徹底することだ。また、高速充電というセールストークのみならず、USB PDの正確なスペックを消費者にきちんと教えてほしい。今のところ、ほとんどの場合、パッケージにはそれらが明記されていないのだ。製品の定格を見なければわからないというのではまずい。
また、出先で困ってコンビニなどで購入する場合も、エンドユーザーがどの製品を買えばいいのかが一目でわかるようにしておいてほしい。間違って、古いタイプのチャージャーやモバイルバッテリを購入してしまう可能性は、できるだけ排除しておいてほしいのだ。
Type-C搭載iPhoneがいつか来る
エコシステムというのは数の論理でできあがっている。ほとんどすべての人が、新しいタイプの充電器を求めるようになれば、古い充電環境は一掃されていくだろう。価格の違いも収束していく。安心安全、快適にスマホを充電できることは、とても大事なことなのだ。
いわゆる過渡期というのは短い方がいい。理想的には、今回のiPhone本体がType-C端子を持っていれば本当によかったと思うのだが、残念ながらそうはならなかった。でも、それは時間の問題だし、最終的にはユーザーが歓迎する。MFIのエコシステムが、それを許さなかったのだと想像できるし、アップルもLightningを撤廃することで失うカネは少なくない。でも、そこを乗り切らなければ、いつまでも過渡期は終わらない。今年(2019年)のiPhoneは、その第一歩でもある。iPhone 8から始まった急速充電対応は、今年のiPhone 11で4年目になる。もうそろそろ誰もがそれを新しい当たり前として受け入れることができるようになってもいいはずだ。